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第1章

三人での食事 3

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「あのなぁ、お前、セクハラって言葉知ってる?」

 クォーツの手を振り払いながら、俺が端的にそう問いかけてみる。クォーツは俺の目を見て頷いた。

「はい。知っています。言葉も、意味も」
「……そっか」

 つまり、クォーツはこれがセクハラだとわかっていてやっているんだろうな。……いや、少し違うか。

(多分、自分の行為はセクハラには当たらないって、思ってるのか)

 ストーカーは自分のことを棚に上げて、ほかのストーカーを責め立てる。絶対に自分がストーカーだとは認めない。

 それと、同じ意味なのだろう。……なんていうか、疲れた。

「はい、これはフリント君の分ね」

 そんなとき、不意に後ろから声をかけられる。そちらに視線を向ければ、そこにはニコニコと笑ったティムルがいた。

 ティムルはトレーを持っており、その上には俺がいつも注文する野菜炒めのセットがある。

 だから、それを受け取って自身の前のカウンターに置く。

 セットと言ってもシンプルなものだ。いろんな野菜を使った野菜炒めと、ロールパン。コーンスープと飲み物にジュース。後は、デザートにカットフルーツ。どちらかと言えば女性向けのセットだと思う。

 フォークを手に取って、野菜炒めを口に運ぶ。いつも通りの味付けで、とても美味だ。

(しかし、まぁ……)

 けれど、左右からの視線が痛い。ジェムとクォーツが、これでもかというほどにこちらを見ている。

 ……この二人、相当腹が減っているのだろうか?

「なんだ。お前らにはやらないぞ」

 それだけ告げて、俺は食事の手を止めない。こっちだって、朝から必死に働いているんだ。冒険者ほど肉体業務ではないとはいえ、ある程度動く必要はある。それに、頭はたくさん使っているので腹は減っている。

「いや、欲しいわけじゃないですよ。……ただ、これで足りるのかなって」

 クオーツがトレーに視線を向けながらそう問いかけてくる。……うん、多分こいつら、誰もが自分らほど食べると思ってるな。

「言っておくけれど、これが普通の量……だから。男にしてはちょっと少ないかも、だけれど……」

 最後のほうはごにょごにょと小さな声になってしまった。どうか、伝わっていないことを祈る。

 俺は男にしては少食の部類だと言われることが多い。でも、平均寄りだとは思う。異様なのはこいつらのほうだ。……きっと。

「ふぅん、そうですか。……もっと食べたほうが、いいと思うんですけれど」

 クォーツがカウンターに突っ伏して、こちらに顔を向けてそう言う。……お前は誰目線でそれを言っているんだ。

「お前は誰目線でそれを言ってるんだ。俺の栄養管理でもしてるのか?」

 パンをちぎって、口に放り込んで。何度か咀嚼した後、そう尋ねる。すると、俺の腹に誰かが触れた。驚いて、身体を跳ねさせる。

「……貧弱すぎるだろ」
「っつ!? セクハラだ!」

 クォーツとは真逆の方向を見つめて、俺はそう叫ぶ。そう、今俺の腹を触ったのはクォーツじゃない。ジェムのほうだ。

「人の身体を……というか、特に腹とか胸とかは触るな!」
「……別に、減るもんじゃないしいいだろ」

 減るもんじゃないからいいとか、そういう問題じゃない! 俺の心の問題、精神の問題だ。

(本当、こいつらといるといつ貞操を失うか……)

 それを考えると、夜も眠れなくなる。確かにさっきの強盗たちよりは、いいかもだけれどさ……。

「大体、俺は貧弱な身体は好きじゃない。……もっと、肉を付けろ」
「嫌です。……好きじゃないなら、放っておいてくれても構わないんで」

 むしろ、放っておいてくれ。心の底からの叫びを、出来る限り冷静に伝える。

 そもそも、誰もがこいつらに恋い焦がれるわけじゃないんだ。俺が、たまたまそういう人種だったっていうだけで……。

「抱き心地だって、悪いだろ」

 ジェムが淡々とそう言ってくる。だから、そういうことを真昼間から言うな! 公衆の面前でセクハラをするな!
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