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第1章

三人での食事 1

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 というわけで、俺はギルドのすぐ近くにあるレストランに来ていた。ここは俺の所属するギルドと提携しており、そのおかげで職員証を見せれば二割引きで食べられる。ちなみに、大体のギルドに提携レストランが存在している。まぁ、ほかのギルドの提携レストランには入ったことがないから、どんなものなのか知らないけれどさ。

「あ、いらっしゃい、フリント君」

 扉を開けて中に入れば、人懐っこい笑みを浮かべた一人の青年が俺のことを呼ぶ。さらっとした赤色の髪と、ぱっちりとした大きな金色の目。一言で表せばとっても可愛い童顔の男。

「……なんていうか、今日、普段よりも疲れてる?」

 青年――ティムルがそう問いかけてくる。なので、俺はカウンター席に座りつつ、頷いた。

 少しお昼時を過ぎていることもあり、店内は閑散としている。俺以外の客は、一組しかいない。

「まぁ、ちょっといろいろってさ……」

 まだ上層部から許可も出ていないし、強盗に遭ったことは伏せておく。誤魔化すように出されたお冷でのどを潤せば、自然と「はぁ」とため息が漏れた。

「……好奇心で聞くけれど、フリント君、もしかして色恋沙汰?」

 ニコニコと笑ったティムルが、俺の隣の席に腰掛けてそう問いかけてくる。そちらに視線を送れば、ティムルは俺を見つめていた。……そのぱっちりとした金色の目が、期待の色を色濃く宿している。……そんなわけないのにな。

「違う違う。ちょっと、業務でトラブルがあっただけ。……色恋沙汰じゃないよ」
「ふぅん、フリント君ってモテるのに、どうして独り身なの?」

 そんなこと俺に聞かれたってわかるわけがない。

 好みの相手と出逢えないとか、今は仕事に集中したいとか。どれだけでも言い訳は頭の中に浮かぶのに。

「……俺が、愛されない奴だからだよ」

 不意に、本音が零れた。愛されない奴。惨めな思いをするから、言いたくないけれど。

「フリント君……」
「……なんでもない。忘れてくれ」

 勝手に言って、勝手に忘れろなんて。自分勝手もいいところだ。だけど、そう言うことしか出来なかった。

「ごめんね、なんか、深入りしようとしちゃって」

 ……違う。謝ってほしいわけじゃないんだ。そう言えればいいのに、言えなかった。ただ、コップに残った水を見つめる。揺れる水面には、困惑したような俺の顔が映っている。

「注文は、いつものでいい?」
「……あ、あぁ」

 俺の注文を聞いて、ティムルが奥に引っ込んでいく。……本当、嫌な空気にしちゃったな。後で、謝ろう。

(ダメだ。俺は、もう昔の俺じゃない。……一人立ちしたんだ。だから、もう誰にも振り回されない)

 ぎゅっと手を握って、誤魔化すように水を喉に流し込む。

 そんなとき、ふと店の扉が開いた。慌てたように奥から出てくるティムル。

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

 ティムルがニコニコと笑って客を出迎えている。……あの愛想のよさは、見習うべきなんだろうな。

(俺、あんまり作り笑顔が得意じゃないし……)

 自分では笑えているつもりでも、人から見たらそうじゃないらしい。そこは、度々先輩にも指摘されている。

 ……頑張らなくちゃ。

「二人だ。……ただ、ここにいる人間を……あ、いた」

 入り口のほうから聞こえてくるその声に、覚えがあった。……むしろ、覚えしかない。ここに来るまでに、散々聞いていたわけだしさ。

 そう思いつつ、俺はただ誤魔化すように水を口に運んだ。すでに腹はちゃぷちゃぷだけれど、ここで振り向いたらダメだと本能が訴えてくる。

 なのに、そんな俺の気持ちなんて無視して、奴らは俺の両脇に座った。

「フリント、やっぱりここにいた」

 青色の髪を持つ、精悍な男が俺の顔を覗き込んでくる。……あぁ、なんでここに来てまでこの男の顔を見なくちゃならないんだ。

「どうせだったら、俺たちのこと誘ってくれたらよかったのに」

 逆のほうから、今度は手を握られた。……馴れ馴れしい。本当に馴れ馴れしい。

「っていうか、どうしてお前らのことを誘う必要があるんだよ」

 前を向いたまま、二人――ジェムとクォーツに、俺は問いかけた。
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