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第1章

ギルドでも有名な二人組 1

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「こちら、ダンジョン入場許可書になります。では、お気をつけて」

 にこやかな笑みを浮かべて、俺は三人組の冒険者をダンジョンに送りだす。三人組は和気あいあいと会話をしつつ、ギルドを出て行った。……あんな風に和気あいあいと出来るのは、いつまでだろうな。

(って、余計なお世話もいいところだよな。……俺、冒険者じゃないし)

 もしも、俺が冒険者だったら。多分、あいつらも俺の忠告をある程度は聞いてくれるのだろう。が、生憎俺はギルドの受付。そんな奴の忠告なんて、聞いてはくれない。ただ、必要とあれば教えるだけだ。

「まぁ、今回のダンジョンは初心者向けだし、素人にもぴったりだし……」

 出てくるモンスターも低級のものばかりで、そう簡単にはやられないだろう。……そう、信じておこう。

 どうしてこんな風に心配するのか。それは、単に送りだした冒険者が死んだら気分が悪いから。……今まで、何度かそういうことがあった。そのたびに、どうしてもっときちんと忠告しなかったのか……と、俺は一人で後悔してしまうのだ。

 ……我ながら、人がいいというべきか。

(先輩たちは、気にするなっていうけれどさ……)

 でも、人が死んでいるんだ。……そう簡単に、割り切れるようなもんじゃない。

 そう思いつつ頬をポリポリと掻いていれば後ろからポンっと肩に手を置かれた。

「やぁやぁ、フリント君。相変わらず仕事に精を出しているね」
「……いや、普通じゃないですか」

 そんな言葉を呟いてそちらに視線を向ければ、そこにはイケメンがいた。金色のさらっとした短い髪と、優しそうに見える赤色の目。まるで王子様のような容姿を持つこの人は、俺の職場の先輩。名前をリアン・エイマーズ。年齢は俺よりも一つ上の二十三歳。

「正直、僕はフリント君にはこの仕事向いていないと思うんだけれど」

 先輩が、近くから椅子を引きずってきて、俺の真後ろに座る。……うん、普通に邪魔だ。

 けど、この先輩は実のところ俺がこの世で最も尊敬している人物だったり、する。だから、邪険には出来ない。

「……それ、何度目です?」
「さぁね。僕ももう回数なんてとっくの昔に忘れてしまったよ」

 けらけらと笑って、先輩が俺の頭をポンポンとたたく。……そういうの、女の子にしてやれば喜ぶだろうに。

「そういうの、女の子にしたらどうです? 先輩に憧れている女の子、多いじゃないですか」
「……そうか?」
「えぇ、そうですよ」

 この容貌に、身分は子爵令息。天は二物を与えずというけれど、この先輩に限っては二物どころか三、いや四、五くらい持っていそうだ。……俺の、勝手な想像だけれど。

「でもなぁ。僕はフリント君が女の子だったら、いいなぁって思ったことはあるけれど……」
「なんですか、それ」

 今、ギルド内は閑散としている。ちょうどお昼時ということもあり、みんな外に食事に出たのだ。

 でも、受付は空けておくわけにはいかない。というわけで、受付は交代でお昼番。……今日は、俺。

「だって、フリント君可愛い顔しているしさ。……あと、純粋に性格が良い」

 真面目な顔して先輩はそう言うけれど、俺は自分の性格がいいなんてこれっぽっちも思ったことはない。

 顔が良い自覚は、あるけれど。

「冗談言わないでくださいよ。俺、顔だけの男です」
「自分でそれを言うなよ」

 けらけらと笑った先輩が、俺の肩をバンバンとたたく。……先輩のこういう軽いノリ、嫌いじゃない。

「言っておきますけれど、俺、性格あんまりよくないですからね」

 近くのカップを手に取って、水を飲みつつそう言う。……心配性ではあるけれど、優しいわけじゃない。人がいいとは言われるし、その自覚はあるけれど、誇れるようなレベルじゃない。

「……でもね、僕はフリント君が優しいことを知っているし」
「……何処を見て」
「だって、ずっと冒険者たちの心配しているしね。……この仕事続けているとさ、割り切ることも必要だって思うんだけれど」

 先輩が、遠くを見つめてそう零す。……あー、それを指摘されると辛い。視線を、自然と彷徨わせた。

「でもまぁ、そこがフリント君のいいところだし。誇っていいよ」
「俺が誇るのはこの美しい顔だけです」
「本当、キミはナルシストっていうか……」

 呆れたような視線を俺に向けてくる先輩。……ナルシストなのは、自覚がある。だって実際、俺、顔良いし。

「けど、それも嫌味にならないのがすごいよ。……僕が言ったらいろんなところから怒られるよ」
「……そうですか? 先輩もきれいな顔だと思いますよ?」
「……キミねぇ」

 そんな会話をしつつ、俺たちは笑う。こんな他愛もない世間話が出来るのも、全部今が閑散としているから。

 ……冒険者が帰ってきたら、そうはいかない。
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