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第4章

失った恋、取り戻すために

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「……はぁ」

 そんなシャノンの決意を聞いたジョナスは、露骨にため息をついた。

 ――やっぱり、ダメなのだろうか。

 心の中に芽生えた不安な気持ちが、むくむくと膨れ上がっていく。

「……シャノン」
「は、い」

 厳しい声で名前を呼ばれた。これは、怒られる前兆なのだろう。

 そう思いシャノンがぎゅっと目を瞑れば、ふと誰かに手を握られた。驚いて目を開け、そちらに視線を向ける。

 そこには、キースがいた。

「マレット伯。僕は、シャノンのことを信じます」
「……キース」

 キースのその言葉に、シャノンの目がぱちぱちと瞬いた。

 対するキースはシャノンの目を見て、こくんと首を縦に振る。

「シャノンは嘘をつきません。それに、シャノンの記憶だって証拠になるはずです」

 はっきりとキースがそう言ってくれたのが、シャノンは嬉しかった。彼はシャノンのことを全面的に信じてくれているのだ。

 それがわかるからこそ、ここであきらめてはいけない。そう、シャノンも思う。

「そうです。どうか、私のことを信じてくださいっ……!」

 這いつくばってでも、縋ってでも。シャノンはニールのことを助けたい。あんな風に優しい人が殺されるなんて……絶対に、嫌だ。

「お前たち……」

 ジョナスが呆れたような声を上げた。

「言っておくが、私は協力しないからな」
「……お父様」
「勝手にしろ」

 そう言ったジョナスが、こちらに背中を向ける。……それすなわち。

(勝手にしろ。つまり、私たちが独断で動いてもいいと言うこと……)

 彼の言葉の真意に気が付き、シャノンの表情がぱぁっと明るくなる。

「シャノン、よかったね」

 隣にいたキースが、シャノンにそう声をかけてきた。だからこそ、シャノンは頷く。

「キースのおかげよ。……ありがとう」

 少しはにかみながらそう伝えれば、キースは口元を押さえた。……気分でも、悪いのだろうか?

「キース?」

 きょとんとしつつシャノンがキースの顔を覗き込めば、彼の顔は真っ赤だった。……何とも言えないほどに、頬が赤い。

「……あのさ、シャノン」
「……うん」
「僕は、何があってもシャノンの幸せを願っているよ」
「なに、それ……」

 まるで、何かをあきらめたような言葉じゃないか。

 心の中でシャノンがそう思っていれば、キースはプイっとシャノンから顔を逸らした。

「……好き、なのにな」
「キース……?」
「ははっ、どう足掻いても、フェリクス殿下には叶わないんだ」

 キースがそう言葉を発すると、シャノンにまっすぐに向き直ってくる。その目には、迷いなどもう見えない。

「ねぇ、シャノン」
「……うん」
「好きだったよ。僕の、初恋はキミだ」

 その言葉は、シャノンの耳にしっかりと、はっきりと届いた。その所為で、シャノンは目を大きく見開く。

「僕は、いつかキミと一緒になりたかったんだ」

 ゆるゆると首を横に振ったキースが、シャノンを見つめる。その目は、何故だろうか。うるんでいた。

「でも、キミを幸せにできるのは僕じゃない。……フェリクス殿下だよ」
「……なに、言って」
「シャノン。僕は初恋をあきらめるけれど、キミはあきらめないで。……一緒に、フェリクス殿下の元に行こう」

 そう言ったキースが、手を差し出してくる。……だから、シャノンは控えめにその手に自分の手を重ねた。

 そうすれば、ぎゅっとその手を握られた。温かい手。つなぎ方は、まるで子供同士がつなぐようなものだ。

「キミと手をつなぐのは、いつぶりかな。……いつか、指を絡めた恋人つなぎが出来るって、信じてたのに」
「……それ、は」
「なのに、キミはフェリクス殿下に恋をした。彼が亡くなったと聞いても、ずっとずーっと想い続けていた。僕には、傷心中のキミに付け込む勇気なんてなかったんだ」

 眉を下げたキースが、何処となく寂しそうな声でそんなことを語った。その声は、微かに震えている。

「それにさ。僕は恋敵を恨む気にはなれなかった。……それくらい、シャノンとお似合いだったから」
「ねぇ、キース」
「僕は、キミを見守るだけでいい。キミを守れない僕が、キミを幸せにできるはずがないんだ。だから、ね――」

 ――せめて、友人として一番側にいさせてくれないかな?

 彼の発した言葉が、シャノンの耳に届いて――脳髄に響き渡っていくような感覚だった。

 だから、シャノンはぎゅっとその手を握り返す。

「……うん。想いに応えられなくて、ごめんなさい」
「いいんだよ」

 どちらともなく手を握り合い、一度離す。

 そして――息を合わせたように駆けだした。

(王城に、行きましょう。そこで、フェリクス殿下に、革命軍の気持ちを伝えましょう)

 それから、無事革命が終わったら――自分のこの恋心を、溢れんばかりの恋心を、彼に伝えよう。

 たとえ受け取ってもらえなくても構わない。ただ、ただ――。

(どうか、好きとだけは、伝えさせてください)

 失った恋を、もう一度取り戻すために。シャノンはキースと共に駆けだした。
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