上 下
23 / 44
第3章

真意は?

しおりを挟む
 そう思っていれば、ニールに手を引かれ食卓テーブルの方に連れていかれる。

 そして、ニールはなんてことない風に「食べるぞ」と声をかけてきた。

「……あの」

 どうして、彼は回答をくれないのだろうか?

 心の中でそう思い、シャノンは小首をかしげた。その後、ニールに向かって手を伸ばそうとする。

 ……その手は、彼に掴まれてしまう。が、すぐに解放された。

「それ以上のことは、聞くな。そのことについて、今の俺は回答できない」

 淡々とそう言った彼は、食事に手を付け始めてしまった。

 これは、きっと今は教えてくれないということなのだろう。

 それを悟り、シャノンはこくりと首を縦に振る。

(でも、いつかは教えてくださるはずよ)

 どうして、シャノンがニールを無視できないのか。嫌いになれないのか。

 もしかしたら、それは――ニールがあまりにもフェリクスにそっくりだからなのかもしれない。

 顔だけじゃない。姿だけじゃない。性格も、声も、口調も。まるで、彼が生きていたらこうなったかのような。

 そんな雰囲気を、孕んでいるからなのだ。

「……なぁ、シャノン」

 ふと、ニールが声をかけてきた。その言葉にきょとんとし、シャノンが彼に視線を向ける。

 すると、彼は「ふぅ」と息を吐いた。

「もうすぐ、この王国は滅ぶだろうよ」
「……え」

 いきなりの話題の転換に、シャノンが驚いた声を上げる。しかも、彼は「この国は滅ぶ」と言った。

 革命軍が言うのならば、おかしな言葉ではない。しかし、彼は王国軍の人間だ。……そんなこと、言うわけがないと思った。

「そもそも、こうなるのも時間の問題だった。……俺は、そう思っている」
「そ、そう……」

 ニールの言葉は間違いない。このジェフリー王国の王族は傲慢で強欲で。民衆を人とは思わない人間だった。

 だから、時間の問題であることも、正解なのだ。

「お前の父親は、きっとお前を取り戻そうとしている」
「……そう、でしょうね」
「もしかしたら、それが革命軍の士気を上げているのかもな」

 そう言ったニールは、笑っていた。けれど、その笑みは自虐的なものだった。

 その表情から、シャノンは目が離せなくなる。

「だから、もうすぐお前はここから出られるよ。……俺が、保証してやる」

 彼の手が、シャノンの頭を優しく撫でる。傷まみれの手は、彼が戦ってきた証なのだろう。

(……ニール様は、どうして王国軍にいらっしゃるの?)

 今まで関わってきて、シャノンは確信した。……彼は、悪い人じゃない。むしろ、いい人の部類だ。

 だからこそ、彼が王国軍として戦う意味がわからない。

(もしかして、大切な人を人質に取られているとか……?)

 その可能性は、ゼロじゃない。

「ね、ねぇ、ニール様。……あの」

 口を開こうとして、言葉に詰まってしまった。それは、彼があまりにも真剣な目をしていたからだ。

 彼が真剣な目でシャノンを見つめ、唇を開いた。

「俺はもう、お前と会うことはないだろうな」
「……そ、れは」

 彼の言葉が、残酷な真実を突きつけてくる。確かに、シャノンがここから出れば彼との縁は切れる。そして、彼と会うことは出来なくなってしまう。

 シャノンの胸に芽生えたこの気持ちが、恋なのかどうかは分からない。ただ、彼を愛おしく思っている。

 これはきっと、看病してくれたことも関係しているのだ。

「お前が出たらな、俺はお前の父親に伝えてほしいことがあるんだ」
「……どうして、ですか?」
「そりゃあ、俺が革命軍のアジトに行くことは出来ないからな」

 にんまりと笑いながら、ニールがそう言う。なのに、彼のその目はひどく寂しそうで。

 シャノンの胸がぎゅっと締め付けられるような感覚だった。

「――この革命の責任は、王家の責任は、全部俺が取る。始末する。そう、伝えてくれ」

 彼の発した言葉の意味が、分からない。

 真意を問いかけたい。シャノンの胸に、そんな感情が芽生えてくる。

「俺は、この王国を終わらせる。……どうか、伝えてくれ」
「それはっ……!」

 ――彼の言っていることは、どういう意味なの?

 シャノンの頭が混乱して、上手く答えを導き出してくれない。

 シャノンが無意識のうちにニールに手を伸ばす。もしも、ここで手を伸ばさなかったら――彼が、消えてしまうような気がしたのだ。

「シャノン」

 優しく名前を呼ばれた。……今までシャノンが聞いてきた彼の声の中で、一番優しげな声。何よりも――ただ、愛おしいと。そう言いたげな声だった。

「少しの間だけでも、お前と過ごせてよかったよ。……俺の人生の中で、二番目に幸せな時間だった」

 彼の言葉はまるで――これから死を覚悟しているかのような言葉だ。

 胸の奥が、ちくちくと痛む。

「この戦いが終わったら、お前はほかの奴のものだ。けどさ、お前の記憶の中に俺が残るんだったら、それは悪くないな」

 どうして、どうして――。

「そんなこと、おっしゃるんですかっ……!」

 シャノンの目から、自然とぽろぽろと涙が零れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...