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第3章
甲斐甲斐しい看病
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「んんっ」
次にシャノンが目覚めたのは、すっかり日も暮れた時間帯だった。
視線だけで周囲を見渡すものの、この部屋の中には誰もいない。それに、ほっと息を吐く。
(……あれは、夢だったの?)
ぼんやりと記憶に残っている、ニールの謝罪の言葉。
でも、あれは現実だとは思えない。だって、ニールがシャノンに謝る理由などないのだから。
いや、理由はたくさんある。ただ、あのときに謝る必要はこれっぽっちもなかった。
(ニール様は、一体何をお考えなの?)
頭がぼんやりとして、くらくらとする。これは熱の所為なのか、はたまたニールのことを考えているからなのか。
それはよくわからなかったが、シャノンはゆっくりと寝台から起き上がる。
そうすれば、部屋の扉が開いた。
「……シャノン」
そこには、ニールがいた。
彼は水桶を持っており、シャノンが起きたことに気が付いてか目を大きく見開いていた。
シャノンを呼ぶ彼の声は、震えている。
「もう、大丈夫か?」
すたすたと歩きながら、ニールがそう問いかけてくる。
なので、シャノンはこくんと首を縦に振った。
「えぇ、かなり。まだちょっと、頭は痛みますが……」
肩をすくめてそう言うと、ニールがサイドテーブルの上に水桶を置いた。
そして、彼はなんてことない風にシャノンの額に触れてくる。……その手がひんやりとしていて、心地いい。
「熱も、かなり下がったみたいだな。……まぁ、明日くらいまで安静にしておけ」
「……はい」
ニールはそう言うと、水桶にタオルを浸す。その後、シャノンの身体を寝台に横たえ、額にタオルを置いた。
「とりあえず、身体を拭くか? 汗ばんでいたら、嫌だろ」
「え、えぇ、そう、ですけれど……」
……なんだか、彼の様子がおかしくないだろうか?
心の中でそう思いつつも、シャノンはその提案を受け入れる。すると、彼は別のタオルを水で浸し、シャノンの腕を拭いてくれた。
「際どいところは、ダーシーに任せる。さすがに俺に拭かれるのは嫌だろうからな」
淡々とそう言いながら、彼はワンピースの上からでも見える肌をタオルで拭いていく。
タオルはほんのりと冷たくて、シャノンの火照った肌を冷やしていく。
(……ところで、どうしてこんなことになっているの?)
熱を出したのは、大方環境の変化に負けてしまったからだろう。
それは、わかる。けれど、どうしてニールがこんなにも甲斐甲斐しくシャノンの世話を焼くのかがわからない。
そう思いつつ彼の顔をぼうっと見つめていれば、彼はシャノンに視線を向けてきた。
「どうした?」
彼がそう問いかけてくる。だからこそ、シャノンはゆるゆると首を横に振る。
「い、いえ、何でもないの。……ただ」
「ただ?」
「どうして、あなたが私の看病をするのかが、分からなくて……」
看病など必要ないし、するとしてもダーシーに任せてしまえばいいだろう。
シャノンがそう思っていれば、彼はなんてことない風にタオルをまた水に浸した。
「今、ダーシーには夕食を作ってもらっているからな」
「……そう」
「だから、俺がした方がいいと思っただけだ」
彼はそう言うが、それでもいまいちぴんと来ない。
(そうよ。そもそも、ニール様は私を捕虜として扱っている……の、よね?)
今までの彼の態度からして、それはあり得ないと思ってしまう。
しかし、彼はシャノンを『捕虜』だという。そのため、そう思うしかなかった。
「普段は夕食は作り置きのものなんだがな」
ニールがふとそう零す。……確かに、ニールと共にする食事。特に夕食は温めただけのものが多かった。
ならば、今日だってそれでいいだろうに。
「……今日は、違うの?」
なんてことない風にそう問いかければ、彼がこくんと首を縦に振る。
「温めただけのものは、消化が悪いだろ。……病人に食べさせるようなもんじゃない」
……彼の思惑が、やはりこれっぽっちも分からなかった。
病人に食べさせるようなものじゃない。そう言われても、そもそも普段の食事が捕虜に食べさせるものではないのだ。
「それに、早くその貧相な身体を何とかしてほしいしな」
不意に思い出したように、彼がそう言う。
その言葉に、シャノンの頭がカチンとくる。貧相なのは自覚している。でも、何も今言うことではないじゃないか。
「悪かったわね、貧相で。男の人なんて、所詮胸の大きな女性の方が好きなのよね」
嫌味ったらしくそう言えば、彼は大きく目を見開いた。が、すぐに笑う。
「そういえるっていうことは、かなり元気になった証拠だな」
「……ポジティブね」
今の言葉の内容を、彼は聞いていたのか。
そんなことを思って眉を顰めれば、ニールはある程度シャノンの身体を拭き終えたらしい。タオルを水桶に戻す。
「じゃあ、俺は一旦仕事に戻るな」
「……えぇ」
そういう報告は、シャノンにするべきことではないだろう。
心の中でそう思っていれば、ふと彼がシャノンの耳元に唇を寄せた。
「貧相だけれど、俺はお前の身体、好きだよ」
その後、彼はなんてことない風にそう言う。
だからこそ、シャノンは――顔に熱を溜めることしか、出来なかった。
次にシャノンが目覚めたのは、すっかり日も暮れた時間帯だった。
視線だけで周囲を見渡すものの、この部屋の中には誰もいない。それに、ほっと息を吐く。
(……あれは、夢だったの?)
ぼんやりと記憶に残っている、ニールの謝罪の言葉。
でも、あれは現実だとは思えない。だって、ニールがシャノンに謝る理由などないのだから。
いや、理由はたくさんある。ただ、あのときに謝る必要はこれっぽっちもなかった。
(ニール様は、一体何をお考えなの?)
頭がぼんやりとして、くらくらとする。これは熱の所為なのか、はたまたニールのことを考えているからなのか。
それはよくわからなかったが、シャノンはゆっくりと寝台から起き上がる。
そうすれば、部屋の扉が開いた。
「……シャノン」
そこには、ニールがいた。
彼は水桶を持っており、シャノンが起きたことに気が付いてか目を大きく見開いていた。
シャノンを呼ぶ彼の声は、震えている。
「もう、大丈夫か?」
すたすたと歩きながら、ニールがそう問いかけてくる。
なので、シャノンはこくんと首を縦に振った。
「えぇ、かなり。まだちょっと、頭は痛みますが……」
肩をすくめてそう言うと、ニールがサイドテーブルの上に水桶を置いた。
そして、彼はなんてことない風にシャノンの額に触れてくる。……その手がひんやりとしていて、心地いい。
「熱も、かなり下がったみたいだな。……まぁ、明日くらいまで安静にしておけ」
「……はい」
ニールはそう言うと、水桶にタオルを浸す。その後、シャノンの身体を寝台に横たえ、額にタオルを置いた。
「とりあえず、身体を拭くか? 汗ばんでいたら、嫌だろ」
「え、えぇ、そう、ですけれど……」
……なんだか、彼の様子がおかしくないだろうか?
心の中でそう思いつつも、シャノンはその提案を受け入れる。すると、彼は別のタオルを水で浸し、シャノンの腕を拭いてくれた。
「際どいところは、ダーシーに任せる。さすがに俺に拭かれるのは嫌だろうからな」
淡々とそう言いながら、彼はワンピースの上からでも見える肌をタオルで拭いていく。
タオルはほんのりと冷たくて、シャノンの火照った肌を冷やしていく。
(……ところで、どうしてこんなことになっているの?)
熱を出したのは、大方環境の変化に負けてしまったからだろう。
それは、わかる。けれど、どうしてニールがこんなにも甲斐甲斐しくシャノンの世話を焼くのかがわからない。
そう思いつつ彼の顔をぼうっと見つめていれば、彼はシャノンに視線を向けてきた。
「どうした?」
彼がそう問いかけてくる。だからこそ、シャノンはゆるゆると首を横に振る。
「い、いえ、何でもないの。……ただ」
「ただ?」
「どうして、あなたが私の看病をするのかが、分からなくて……」
看病など必要ないし、するとしてもダーシーに任せてしまえばいいだろう。
シャノンがそう思っていれば、彼はなんてことない風にタオルをまた水に浸した。
「今、ダーシーには夕食を作ってもらっているからな」
「……そう」
「だから、俺がした方がいいと思っただけだ」
彼はそう言うが、それでもいまいちぴんと来ない。
(そうよ。そもそも、ニール様は私を捕虜として扱っている……の、よね?)
今までの彼の態度からして、それはあり得ないと思ってしまう。
しかし、彼はシャノンを『捕虜』だという。そのため、そう思うしかなかった。
「普段は夕食は作り置きのものなんだがな」
ニールがふとそう零す。……確かに、ニールと共にする食事。特に夕食は温めただけのものが多かった。
ならば、今日だってそれでいいだろうに。
「……今日は、違うの?」
なんてことない風にそう問いかければ、彼がこくんと首を縦に振る。
「温めただけのものは、消化が悪いだろ。……病人に食べさせるようなもんじゃない」
……彼の思惑が、やはりこれっぽっちも分からなかった。
病人に食べさせるようなものじゃない。そう言われても、そもそも普段の食事が捕虜に食べさせるものではないのだ。
「それに、早くその貧相な身体を何とかしてほしいしな」
不意に思い出したように、彼がそう言う。
その言葉に、シャノンの頭がカチンとくる。貧相なのは自覚している。でも、何も今言うことではないじゃないか。
「悪かったわね、貧相で。男の人なんて、所詮胸の大きな女性の方が好きなのよね」
嫌味ったらしくそう言えば、彼は大きく目を見開いた。が、すぐに笑う。
「そういえるっていうことは、かなり元気になった証拠だな」
「……ポジティブね」
今の言葉の内容を、彼は聞いていたのか。
そんなことを思って眉を顰めれば、ニールはある程度シャノンの身体を拭き終えたらしい。タオルを水桶に戻す。
「じゃあ、俺は一旦仕事に戻るな」
「……えぇ」
そういう報告は、シャノンにするべきことではないだろう。
心の中でそう思っていれば、ふと彼がシャノンの耳元に唇を寄せた。
「貧相だけれど、俺はお前の身体、好きだよ」
その後、彼はなんてことない風にそう言う。
だからこそ、シャノンは――顔に熱を溜めることしか、出来なかった。
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