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第1章
ヘクター・ジェフリー
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その後、シャノンが連れてこられたのは豪華絢爛な王城の一室。
以前より多少は豪華さは失われたものの、相変わらず趣味の悪い部屋だ。そう思いつつ、シャノンは床に押し付けられる。もちろん、手枷はつけられたままである。
部屋の中央には、豪華な王座があった。そのに腰掛けている人物に、シャノンは見覚えがある。
このジェフリー王国の現国王であるヘクター・ジェフリー。父王に次いで、圧政で民たちを苦しめる王。
ヘクターを力いっぱいにらみつけていれば、不意に彼の隣から一人の男性が顔を出す。四十代か五十代に見えるその男性の顔を、シャノンはよく知っている。
「やぁやぁ、シャノン・マレット伯爵令嬢。……いや、今はただのシャノン・マレット、か」
わざとらしく芝居がかった口調で、男性はそう言ってシャノンの方に近づき高圧的な態度でシャノンを見下ろしてきた。
「……トゥーミー卿」
シャノンが憎々しいとばかりに彼を見上げ、そう名前を呼ぶ。すると、彼はわざとらしく手を広げた。
「覚えていてくださったとは、光栄です」
彼はその鋭い金色の目を細めながら、シャノンを見下ろす。その目には憎しみがこもっており、大方王家に歯向かうシャノンたちが気に食わないのだろう。
ちらりとヘクターに視線を向ければ、彼は何も言わずに王座に腰掛けている。その目は、シャノンを見つめていない。まるで、興味がないとでも言いたげだ。
(……ヘクター・ジェフリーは私に興味がないのね)
そう思ったものの、この状況が変わるわけではない。
だからこそ、シャノンは口を開く。
「トゥーミー卿。私のことを、どうするつもりで捕らえましたの?」
顔を上げ、そう問いかける。
トゥーミー卿……本名をアントニー・トゥーミーはこのジェフリー王国の宰相である。先代の国王の代から宰相の地位につき、王国を裏で支えてきたと言われている人物だ。しかし、シャノンはどうにもアントニーのことを好きにはなれなかった。
なんというか、胡散臭い雰囲気が全身から漂っているのだ。
「私のことを取引の材料として使うのは、止めた方が良いわよ。……私一人の命で、革命軍が止まるとは思えないもの」
取引に使われるくらいならば、拷問されて殺された方がずっとマシだ。
心の中でそう思うシャノンを見つめ、アントニーは顎を撫でる。
「ふむ……そうですね。確かにそれは一理ある」
少し考えるようなそぶりを見せたアントニーは、後ろに視線を向ける。そこには、ヘクターがいた。
「陛下、シャノン・マレットの処遇をお決めになっていただきたい。……見せしめとしての処刑が、最も正しい判断かと私は思いますが」
「……そう。アントニーの思うとおりにすればいい」
ヘクターはアントニーの言葉にそう返事をすると、王座を立つ。
そのままシャノンの方に近づいてくる。手には剣が握られており、大方彼が自らシャノンを始末するのだろう。
(……まぁ、そっちの方が良いわね)
自分の命が取引の材料に使われるくらいならば――シャノンは舌を噛んで死ぬつもりだった。
国王自ら殺してくれるのならば、死ぬ手間が省けていい。
「おやぁ、陛下自らやられるのですか?」
「……あぁ、この女は嫌いだからね」
それはきっと、シャノンが革命軍リーダージョナスの娘だから出た言葉なのだろう。
そう思いつつ、シャノンは目を瞑る。いっそ無残に殺してくれた方がいい。そうすれば、父も変にシャノンが生きていると期待しなくていいはずだから。
「……命乞いを、しないんだな」
ヘクターがシャノンを見下ろし、喉元に剣の切っ先を当てながらそう問いかけてくる。
……命乞いをしたところで、彼が止まるとは思えないのだ。
「えぇ、革命軍の枷になるくらいならば、私は死んだ方が良いと思っていますもの。……どうぞ、ひと思いに殺してくださいませ」
挑発的に唇の端を吊り上げ、シャノンはそう宣言する。すると、ヘクターの眉間が一瞬だけピクリと動いた。
「……本当に、お前という女は――」
ヘクターが小さく何かを呟く。それは、シャノンの耳に届かなかったが、大方憎いとでも言ったのだろう。
「嫌いだ、俺は、お前が嫌いだ。わかるな? 俺に逆らうから、こうなるんだ」
彼がそう言葉を紡いだのを聞いて、シャノンは目を瞑る。
王国の民たちのために死ねるのならば、これもまた理想の死に方なのではないだろうか。
そんなことを、シャノンが思ったときだった。ふと、シャノンの後ろ側の扉が開く。
「……陛下。おやめください」
誰かが部屋に入ってくるのがわかった。シャノンはそちらに視線を向けることは出来ない。ただ、ヘクターが驚いたように目を見開くのだけが、分かった。
「……その女を殺しても、革命軍の士気を高めるだけかと思われます」
その誰かはブーツを履いているようだ。かつかつと音を立てながら、こちらに近づいてくる。歩幅と声からして、男性のようだ。
「じゃあ、どうすればいい、ニール」
ヘクターが男性にそう問う。
その言葉を聞いたためなのか、ニールと呼ばれた男性が立ち止まった。
「生かしましょう。……取引材料として、いずれ利用できるでしょうから」
以前より多少は豪華さは失われたものの、相変わらず趣味の悪い部屋だ。そう思いつつ、シャノンは床に押し付けられる。もちろん、手枷はつけられたままである。
部屋の中央には、豪華な王座があった。そのに腰掛けている人物に、シャノンは見覚えがある。
このジェフリー王国の現国王であるヘクター・ジェフリー。父王に次いで、圧政で民たちを苦しめる王。
ヘクターを力いっぱいにらみつけていれば、不意に彼の隣から一人の男性が顔を出す。四十代か五十代に見えるその男性の顔を、シャノンはよく知っている。
「やぁやぁ、シャノン・マレット伯爵令嬢。……いや、今はただのシャノン・マレット、か」
わざとらしく芝居がかった口調で、男性はそう言ってシャノンの方に近づき高圧的な態度でシャノンを見下ろしてきた。
「……トゥーミー卿」
シャノンが憎々しいとばかりに彼を見上げ、そう名前を呼ぶ。すると、彼はわざとらしく手を広げた。
「覚えていてくださったとは、光栄です」
彼はその鋭い金色の目を細めながら、シャノンを見下ろす。その目には憎しみがこもっており、大方王家に歯向かうシャノンたちが気に食わないのだろう。
ちらりとヘクターに視線を向ければ、彼は何も言わずに王座に腰掛けている。その目は、シャノンを見つめていない。まるで、興味がないとでも言いたげだ。
(……ヘクター・ジェフリーは私に興味がないのね)
そう思ったものの、この状況が変わるわけではない。
だからこそ、シャノンは口を開く。
「トゥーミー卿。私のことを、どうするつもりで捕らえましたの?」
顔を上げ、そう問いかける。
トゥーミー卿……本名をアントニー・トゥーミーはこのジェフリー王国の宰相である。先代の国王の代から宰相の地位につき、王国を裏で支えてきたと言われている人物だ。しかし、シャノンはどうにもアントニーのことを好きにはなれなかった。
なんというか、胡散臭い雰囲気が全身から漂っているのだ。
「私のことを取引の材料として使うのは、止めた方が良いわよ。……私一人の命で、革命軍が止まるとは思えないもの」
取引に使われるくらいならば、拷問されて殺された方がずっとマシだ。
心の中でそう思うシャノンを見つめ、アントニーは顎を撫でる。
「ふむ……そうですね。確かにそれは一理ある」
少し考えるようなそぶりを見せたアントニーは、後ろに視線を向ける。そこには、ヘクターがいた。
「陛下、シャノン・マレットの処遇をお決めになっていただきたい。……見せしめとしての処刑が、最も正しい判断かと私は思いますが」
「……そう。アントニーの思うとおりにすればいい」
ヘクターはアントニーの言葉にそう返事をすると、王座を立つ。
そのままシャノンの方に近づいてくる。手には剣が握られており、大方彼が自らシャノンを始末するのだろう。
(……まぁ、そっちの方が良いわね)
自分の命が取引の材料に使われるくらいならば――シャノンは舌を噛んで死ぬつもりだった。
国王自ら殺してくれるのならば、死ぬ手間が省けていい。
「おやぁ、陛下自らやられるのですか?」
「……あぁ、この女は嫌いだからね」
それはきっと、シャノンが革命軍リーダージョナスの娘だから出た言葉なのだろう。
そう思いつつ、シャノンは目を瞑る。いっそ無残に殺してくれた方がいい。そうすれば、父も変にシャノンが生きていると期待しなくていいはずだから。
「……命乞いを、しないんだな」
ヘクターがシャノンを見下ろし、喉元に剣の切っ先を当てながらそう問いかけてくる。
……命乞いをしたところで、彼が止まるとは思えないのだ。
「えぇ、革命軍の枷になるくらいならば、私は死んだ方が良いと思っていますもの。……どうぞ、ひと思いに殺してくださいませ」
挑発的に唇の端を吊り上げ、シャノンはそう宣言する。すると、ヘクターの眉間が一瞬だけピクリと動いた。
「……本当に、お前という女は――」
ヘクターが小さく何かを呟く。それは、シャノンの耳に届かなかったが、大方憎いとでも言ったのだろう。
「嫌いだ、俺は、お前が嫌いだ。わかるな? 俺に逆らうから、こうなるんだ」
彼がそう言葉を紡いだのを聞いて、シャノンは目を瞑る。
王国の民たちのために死ねるのならば、これもまた理想の死に方なのではないだろうか。
そんなことを、シャノンが思ったときだった。ふと、シャノンの後ろ側の扉が開く。
「……陛下。おやめください」
誰かが部屋に入ってくるのがわかった。シャノンはそちらに視線を向けることは出来ない。ただ、ヘクターが驚いたように目を見開くのだけが、分かった。
「……その女を殺しても、革命軍の士気を高めるだけかと思われます」
その誰かはブーツを履いているようだ。かつかつと音を立てながら、こちらに近づいてくる。歩幅と声からして、男性のようだ。
「じゃあ、どうすればいい、ニール」
ヘクターが男性にそう問う。
その言葉を聞いたためなのか、ニールと呼ばれた男性が立ち止まった。
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