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終章
愛しい人に愛を込めて
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それから季節は何度か移り変わり。
マーガレットとクローヴィスが契約的な結婚をしてから約一年と半年が経った。
この日、マーガレットはクローヴィスに誘われるがまま中庭でお茶をしていた。ここ最近、共に過ごせば過ごすほど彼のことが好きで好きでたまらなくなってしまう。今だって、だらしなく緩んでしまいそうな表情を引き締めるのに必死だった。
しかし、それはクローヴィスも同じだったらしく。彼はマーガレットを愛おしそうな目で見つめてくる。その視線の熱を感じると、マーガレットは嬉しくなってしまうのだ。
「そういえば、お父様から感謝のお手紙が届きましたわ。本当に何とお礼を言っていいか……」
その場でぺこりと頭を下げてそう言えば、クローヴィスは「気にしなくてもいいのに」と言いながらお茶の入ったカップを口に運ぶ。
「妻の家に援助をするのは、なにもおかしなことじゃないよ」
「ですが……」
「それに、最初に約束したからね」
にっこりと笑ってクローヴィスがそう声をかけてくる。最初の約束。それはきっと、「俺と結婚したら衣食住完全補償」だとか、「キミの実家に援助をする」とかそういうことだろう。
けれど、マーガレットからすればそんなこと忘れてしまいたい約束のようなものだった。
「……旦那様」
そういえば。そう思いなおし、マーガレットはそっとクローヴィスのことを見つめる。彼のその目が驚いたように真ん丸になる。
その姿を見つめ、マーガレットは「旦那様は私との関係をどう思っていらっしゃいますか?」と問う。
「……どうって」
「やはり、まだ契約上の妻だと思っていらっしゃいますか?」
彼がそんな風に思っていないことは、マーガレットだって承知の上だ。そのため、こんなことを言うのはいわゆる意地悪に当たるかもしれない。が、マーガレットは結婚して一年半、まだあの契約は続行なのだと思っている。……彼が、はっきりとした言葉を言ってくれないから。
(いいえ、言ってくださってはいるわ。……ただ、冗談交じりに聞こえてしまうのよ)
それは多分、マーガレットの心が弱いとかそういうことなのだろう。
自分は強欲なのかもしれない。はっきりとした言葉が欲しくてたまらない。そう思いつつマーガレットがクローヴィスのことを見上げれば、彼は「……ははっ」と声を上げて笑っていた。
「……俺が、はっきりしなかったね」
彼は肩をすくめてそう言う。その後、おもむろに立ち上がるとマーガレットの側によって跪いてくる。
「マーガレット。……俺と、正式に結婚してほしい。……遅くなったけれど、俺の本当の妻になってほしい」
じっと目を見つめられ、そう告げられる。
彼の手は何処となく震えており、拒絶されるのを怖く思っているのかもしれない。それはわかるが、マーガレットからすればもう少し自分のことを信じてほしいと思ってしまう。
(私が旦那様のそのお言葉を拒否することなんて、ありえないのに……)
そう思いつつ、マーガレットは彼の手にそっと自分の手を重ねた。
「こんな私ですが……その、貴方様の本当の妻にしてくださいますか?」
ゆっくりとかみしめるようにそう言えば、彼は「……嬉しいよ」と言葉をくれた。そのまま立ち上がると――力いっぱいマーガレットの身体を抱きしめてくる。
「本当に今更だけれど、俺はマーガレットと家庭を持ちたい」
「……はい」
「マーガレットに、俺の子を産んでほしいんだ。……俺も、出来る限りのことはするから」
そんなことを言わなくても、クローヴィスならばマーガレットのことを支えてくれる。それはマーガレットにだってわかる。
「……私も、旦那様のお子が欲しいです」
彼の背に腕を回しながらマーガレットはそう答えた。
そして見つめ合い、どちらともなく笑いあう。
契約から始まった二人の関係の末路は契約の破棄。のち、本当の夫婦という関係になった。
マーガレットはいつしか周囲からもオルブルヒ公爵夫人として認められるようになり、二人はとても仲睦まじいお似合いの夫婦として社交界で語られることになる。
これは、男色疑惑のあった公爵様と貧乏だった子爵令嬢が本当の幸せをつかんだ――お話。
【END】
マーガレットとクローヴィスが契約的な結婚をしてから約一年と半年が経った。
この日、マーガレットはクローヴィスに誘われるがまま中庭でお茶をしていた。ここ最近、共に過ごせば過ごすほど彼のことが好きで好きでたまらなくなってしまう。今だって、だらしなく緩んでしまいそうな表情を引き締めるのに必死だった。
しかし、それはクローヴィスも同じだったらしく。彼はマーガレットを愛おしそうな目で見つめてくる。その視線の熱を感じると、マーガレットは嬉しくなってしまうのだ。
「そういえば、お父様から感謝のお手紙が届きましたわ。本当に何とお礼を言っていいか……」
その場でぺこりと頭を下げてそう言えば、クローヴィスは「気にしなくてもいいのに」と言いながらお茶の入ったカップを口に運ぶ。
「妻の家に援助をするのは、なにもおかしなことじゃないよ」
「ですが……」
「それに、最初に約束したからね」
にっこりと笑ってクローヴィスがそう声をかけてくる。最初の約束。それはきっと、「俺と結婚したら衣食住完全補償」だとか、「キミの実家に援助をする」とかそういうことだろう。
けれど、マーガレットからすればそんなこと忘れてしまいたい約束のようなものだった。
「……旦那様」
そういえば。そう思いなおし、マーガレットはそっとクローヴィスのことを見つめる。彼のその目が驚いたように真ん丸になる。
その姿を見つめ、マーガレットは「旦那様は私との関係をどう思っていらっしゃいますか?」と問う。
「……どうって」
「やはり、まだ契約上の妻だと思っていらっしゃいますか?」
彼がそんな風に思っていないことは、マーガレットだって承知の上だ。そのため、こんなことを言うのはいわゆる意地悪に当たるかもしれない。が、マーガレットは結婚して一年半、まだあの契約は続行なのだと思っている。……彼が、はっきりとした言葉を言ってくれないから。
(いいえ、言ってくださってはいるわ。……ただ、冗談交じりに聞こえてしまうのよ)
それは多分、マーガレットの心が弱いとかそういうことなのだろう。
自分は強欲なのかもしれない。はっきりとした言葉が欲しくてたまらない。そう思いつつマーガレットがクローヴィスのことを見上げれば、彼は「……ははっ」と声を上げて笑っていた。
「……俺が、はっきりしなかったね」
彼は肩をすくめてそう言う。その後、おもむろに立ち上がるとマーガレットの側によって跪いてくる。
「マーガレット。……俺と、正式に結婚してほしい。……遅くなったけれど、俺の本当の妻になってほしい」
じっと目を見つめられ、そう告げられる。
彼の手は何処となく震えており、拒絶されるのを怖く思っているのかもしれない。それはわかるが、マーガレットからすればもう少し自分のことを信じてほしいと思ってしまう。
(私が旦那様のそのお言葉を拒否することなんて、ありえないのに……)
そう思いつつ、マーガレットは彼の手にそっと自分の手を重ねた。
「こんな私ですが……その、貴方様の本当の妻にしてくださいますか?」
ゆっくりとかみしめるようにそう言えば、彼は「……嬉しいよ」と言葉をくれた。そのまま立ち上がると――力いっぱいマーガレットの身体を抱きしめてくる。
「本当に今更だけれど、俺はマーガレットと家庭を持ちたい」
「……はい」
「マーガレットに、俺の子を産んでほしいんだ。……俺も、出来る限りのことはするから」
そんなことを言わなくても、クローヴィスならばマーガレットのことを支えてくれる。それはマーガレットにだってわかる。
「……私も、旦那様のお子が欲しいです」
彼の背に腕を回しながらマーガレットはそう答えた。
そして見つめ合い、どちらともなく笑いあう。
契約から始まった二人の関係の末路は契約の破棄。のち、本当の夫婦という関係になった。
マーガレットはいつしか周囲からもオルブルヒ公爵夫人として認められるようになり、二人はとても仲睦まじいお似合いの夫婦として社交界で語られることになる。
これは、男色疑惑のあった公爵様と貧乏だった子爵令嬢が本当の幸せをつかんだ――お話。
【END】
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