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第三章

極端な選択

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(もう、こうなったら――)

 ――物理攻撃しかない。

 そう思い、マーガレットは――バルトルトの頬を力いっぱいグーで殴った。

「っつ⁉」

 身体中の魔力を手のひらに込めバルトルトをぶん殴れば、彼の身体が飛び近くの壁にぶち当たる。そのまま彼は壁に背を打ち付け、痛みに悶えていた。

(……は、はぁ)

 正直なところ、マーガレットはこういう風に身体強化の魔法を使うことがあまり好きではない。その分体力の消耗が激しく、しばし動けなくなってしまうからだ。

 しかし、背に腹は代えられない。

 クローヴィス以外に穢されるくらいならば――今、ここで自害した方がマシだ。そう思えるほどだった。

「な、にするんだっ!」

 よろよろと起き上がりながらバルトルトがマーガレットのことをにらみつけ、そう叫ぶ。

 何をするんだ。

 それはこっちのセリフだ。心の中でそう思い、マーガレットは「こっちのセリフだわ!」と言いながらバルトルトを指さす。

「好きでもない男に穢されそうになるこっちの身にもなりなさいよ!」

 息も絶え絶えになりながらそう言えば、バルトルトは「知るか!」と言いながらマーガレットに詰め寄ってくる。そのため、マーガレットは「もう一回ぶっ飛ばされたいの⁉」と威勢よく叫ぶ。……ちなみに、もう一度ぶっ飛ばすような体力や魔力は残っていない。完全にはったりだった。

「旦那様がお嫌いなのは、よーくわかったわ。けれど、周りを傷つければっていう思考回路が下衆なのよ! 恥を知りなさい!」
「……たかが貧乏子爵家の娘ごときに説教される筋合いはない!」
「残念だけれど、生憎今は公爵夫人なのよ」

 バルトルトに思いきり本心を告げながら、叫び合う。罵声怒声、様々な聞くに堪えない言葉を並べながら、マーガレットは時間稼ぎに励むことにした。

 クローヴィスのことだ。ある程度の時間があれば見つけてくれる……と信じている。彼はそれほどまでに有能な男性だとマーガレットは知っているのだ。

「クソッ、大人しくしていれば……」
「今は手加減してあげたわ。何だったら、急所を蹴り上げてやってもよかったのよ?」

 はったりの笑みを浮かべながらそう言えば、バルトルトはさすがに堪えたのか黙り込んでしまった。

 それにほっとしていれば、バルトルトは「……あの男も、とんだ娘を娶ったものだ」と零していた。

「こんなじゃじゃ馬みたいな娘を娶りやがって……」

 どうやら、バルトルトにとってマーガレットはじゃじゃ馬に映ったらしい。

 確かに、それは間違いないかもしれない。契約結婚の相手でしかないクローヴィスに純潔を捧げた。さらには今、バルトルトを殴った。じゃじゃ馬だとかお転婆だとか、考えなしだとか。そういう罵倒を受けても当然の行動を取っている。

「わかったなら、さっさとこれを外して頂戴」

 ツンと澄ましてバルトルトにそう指示する。その視線の先には、足枷があった。

 だが、バルトルトは「嫌だ」と言うと立ち上がりマーガレットに近づいてくる。……どうして、彼はここまでして足枷を外そうとはしないのだろうか。

「何よ、もう一回――」
「その足枷、外れたら媚薬の成分がこみあげる仕組みになってんだ」

 けれど、バルトルトのその言葉にマーガレットは「……嘘」と呟いてしまった。

 マーガレットのその言葉を聞いて、バルトルトは「残念だが、ここで外したらお前はどうなるかな?」と言う。

「じゃ、じゃあ、どうすれば――っ!」

 足枷を外して媚薬がこみあげるのならば、ずっとこのままと言うことだろうか。そんなのは絶対に嫌だ。そう思いマーガレットが手のひらを握りしめれば、彼は「知らないなぁ」と言いながらくすくすと笑う。

「お前の愛する公爵が助けに来てくれるのを待つしかないんだろうなぁ。ま、俺としてはここで外しても、外さなくても。構わないんだけれど」

 バルトルトのその言葉にマーガレットの顔色がサーっと蒼くなる。

 もしも、ここで外されてしまえば。自分はこのバルトルトに行為を強請ってしまうのか。そう思い青ざめるマーガレットを他所に、バルトルトは「そういう表情が見たかったんだよなぁ」と言いながら笑いだす。

「鍵を外せば媚薬の成分がこみあげるし、このままだったらお前はどうなるんだろうなぁ?」
「ど、どうなるって……」
「この部屋、爆発するようになっているから、お前は死ぬ」

 ――なんだその両極端な仕組みは。

 そう思いマーガレットがバルトルトをにらみつければ、彼は「さぁ、死ぬのか俺に快楽を強請るのか、どっちがいい?」と問いかけてくる。……そんなの、そんなの――。

「どっちも嫌に決まっているでしょう⁉」

 強がってそう言ってみるものの、このままでは解決策がない。

(もう魔力もないし……どうしよう)

 もしも、バルトルトが先ほど魔力をわざと使わせたのだとすれば。彼はかなりの策士かもしれない。……まぁ、彼の表情を見るにそんなこと一切なさそうだが。
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