【完結】【R18】男色疑惑のある公爵様の契約妻となりましたが、気がついたら愛されているんですけれど!?

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

文字の大きさ
上 下
44 / 52
第三章

バルトルト・トマミュラー

しおりを挟む
「んんっ」

 ぼんやりとする意識の中、マーガレットが瞼を開く。

 ずきずきと痛む頭を押さえながら身体を起こせば、ここは見知らぬ場所だった。

(……ここ、どこ?)

 そう思いながら、意識を失うまでの記憶を脳内から引っ張り出す。

 その記憶はあっさりと出てきたためか、マーガレットの顔がさぁーっと蒼くなっていった。

(そうだわ。早く……旦那様の元にっ!)

 心の中でそう唱え動こうとすると、じゃらりと言うような音が足元から聞こえてくる。慌ててそちらに視線を向ければ、マーガレットの足首には重たい足枷が付けられていた。その足枷には鎖がついてあり、鎖の先は部屋の柱に括りつけてある。……どうやら、マーガレットが逃げられないようにとあの青年は先手を打ったらしい。

 何度か足を動かすものの、足枷はとれそうにない。そのため、マーガレットは足枷から意識を逸らすことにした。

 とりあえずということで部屋の中を見渡せば、部屋はきれいな桃色の家具で整えられていた。とても女性らしく可愛らしい家具たちが並んでいる。……少なくとも、ここは物置などではない。そう思いほっと息を吐くものの、今の状態はいわば監禁状態である。そんな風に安心している場合ではない。

「と、とにかく、ここからでなくちゃ――」

 そう呟いて寝かされていたソファーから立ち上がると、タイミングよく部屋の扉が開く。

 そこには一人の青年がいた。その青年には見覚えがある。……マヌエルに成りすましていた青年だ。

「お目覚めですか、お姫様」

 彼は胡散臭いような笑みを浮かべマーガレットにそう言ってくる。その言動に恐怖を覚え身を震わせれば、彼はその貼り付けたような笑みを一気に崩す。その後、近くにあったテーブルの脚を蹴り上げると、マーガレットの方に近づいてくる。

 彼のその青い目がマーガレットを射貫く。その目に込められた様々な感情に恐れを抱きマーガレットが身を震わせれば、彼は「俺はバルトルト・トマミュラーだ」と名乗ってくれた。

 その名前には聞き覚えがある。ほかでもないクローヴィスが注意するべき人物だと上げていた人。

 バルトルトはマーガレットの手首をそっとつかむ。そのまま手首に触れるような口づけを落とした。

「ひぃっ!」

 その瞬間、マーガレットの身体にゾクゾクとした嫌な感覚が這いまわる。思わず悲鳴を漏らせば、彼は「ちっ」と露骨に舌打ちをしていた。

「お前を落とせば、こちらとしても簡単だったんだけれどな」
「お、落とすって……」
「俺に惚れさせるっていうこと」

 やれやれとばかりの仕草を見せ、バルトルトはマーガレットのことを見据えてくる。その後、彼は「……やっぱり、お前には餌以外の役割はないな」と言いながらマーガレットの身体をソファーに押し付けてきた。

「……な、なに、何よっ!」

 首元に手を這わされ、首筋を露わにされる。そこについた無数の口づけの跡に気が付いてか、バルトルトが大きく目を見開いていた。

「やっぱり、愛されているのか」

 それから、彼はボソッとそう言葉を零す。そして、何を思ったのかマーガレットの身体を抱き上げると部屋の隅にある寝台へと連れていく。

 その行為が示すのは、たった一つの可能性。それに気が付き、マーガレットは自身の身体から血の気が引くような感覚に襲われてしまう。

(……まさか、まさかっ!)

 もしかしたら、バルトルトはマーガレットのことを穢すつもりなのかもしれない。そうなれば、クローヴィスとて傷つかないはずがないと。

 クローヴィスはマーガレットのことを心の底から愛してくれている。もしも、マーガレットが彼を裏切ったとなれば――それが不可抗力だったとしても、彼は深く傷つく。

「は、放して、放しなさいっ!」

 だからこそ、マーガレットはバルトルトの腕の中で暴れる。けれど、彼は容赦がない。マーガレットの身体を寝台に放り投げると、そのまま覆いかぶさってくる。

(あの行為を、旦那様以外とするの……?)

 そんな自分を想像して、反吐が出そうになる。それほどまでに、マーガレットはあの行為をクローヴィス以外とはしたくなかった。

 マーガレットのその気持ちに気が付いてか、バルトルトがにたりと笑う。その笑みは気色の悪いものであり、マーガレットの身体から力が抜けていく。

「さすがのオルブルヒ公爵も、愛する妻が穢されてしまえば傷つくに違いない」

 そう言って、バルトルトがマーガレットのワンピースに手をかける。その触れ方の厭らしさにマーガレットの背筋がゾクゾクと粟立ち、柄にもなく涙がこみ上げてきそうになった。

(ダメよ。泣いてはダメ。ここは、きちんと対処法を――)

 対処法を考えるにしても、この状況はいただけない。話し合いで解決するような相手でもないため、時間はない。変な時間稼ぎもできない。……ともなれば、マーガレットが出来ることは。

 バルトルトの手がマーガレットのワンピースをまくり上げる。そして、彼の手がマーガレットの胸に触れようとしたとき。

 一瞬の隙が、出来た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...