36 / 52
第二章
からかわないで!
しおりを挟む
それに驚きマーガレットが目を見開けば、クローヴィスはマーガレットの上から退く。
「ごめんごめん。ちょっと、からかってみたんだよ」
その後、クローヴィスはやれやれといった風に手を挙げ、マーガレットのことを見つめる。
だからこそ、マーガレットは顔を一気に赤くして――……。
「最低!」
思わず、そう叫んでしまった。
しかし、その言葉はクローヴィスには通じなかったらしく、彼はニコニコと笑いながら「マーガレットだって、乗り気だったでしょ?」と言いながら肩をすくめる。
(の、乗り気だなんて……)
確かに、口づけで身体が火照り始めていたことは認める。けれど、それは決して乗り気だったわけではない。
そんな風に思うものの、きっと今のマーガレットには説得力などないだろう。顔を真っ赤にし、目を潤ませたマーガレットの姿は男性の欲情を煽ってしまうだけなのだ。
その証拠に、クローヴィスは「……ごめん、からかいすぎた」と言って額を押さえてしまった。
「……旦那様?」
「今のマーガレットの姿、ちょっと、いろいろとクる」
真剣な声音でそう言われ、マーガレットはさらに顔を真っ赤にしてしまった。
「最低! 変態!」
もうこうなったら容赦なんてしない。そう思いマーガレットがクローヴィスの胸をぽかぽかとたたいていれば、彼は「ごめんってば」と言いながらマーガレットの背を撫でてくる。
(――本当に最低! 変態! このあほ!)
内心でクローヴィスを罵倒しながら、マーガレットは彼の顔を見つめる。すると、彼の表情は何処となく嬉しそうに緩んでいた。
(まさか、罵られて悦ぶ人⁉)
一瞬そう思ったマーガレットの気持ちが伝わったのか、彼は「マーガレットが、俺と一線を引かなくなったみたいで嬉しいんだよ」と言いながらふんわりと笑う。
「……ぁ」
「容赦なく俺を罵って、楽しそうにぽかぽかたたいてきて。……可愛いなぁって」
その後、クローヴィスはマーガレットの唇に触れるだけの口づけを施す。それに驚いて顔を背けようとするものの、クローヴィスに手で頬を挟まれてしまい逃げるに逃げられない。
「ちょっ!」
クローヴィスの手がマーガレットの髪の毛を梳く。その優しい手つきにぼうっとしてしまえば、個室の扉がノックされた。
「あぁ、どうぞ」
まるで何もなかったかのようにのんきに返事をするクローヴィスを内心恨めしく思いながらマーガレットも席に座る。
すると、顔を出したのは中年の男性だった。彼はマーガレットのことを見るとぱぁっと顔を明るくし、「旦那様もついに奥様を……!」と言う。
「……マーク。心配かけたな」
「本当にそうでございますよ!」
マークと呼ばれた男性はクローヴィスの方に近づくと深々と礼をする。そして、マーガレットに視線を向け「マークと申します」と自己紹介をしてくれた。
「以前はオルブルヒ公爵家で料理長を務めておりました」
「……マーガレット・オルブルヒです」
軽く会釈をしてそう自己紹介をすれば、マークは「なんと素晴らしい奥様でしょうか!」と感激とばかりに手をパンっとたたく。
「本日はせっかくですし、旦那様の結婚祝いとしましょうか」
「……いいのか?」
「えぇ、おかげさまで繁盛しておりますので。もう少々お待ちくださいませ」
マークはそれだけを告げるときびきびとした動きで個室を出て行く。
その後ろ姿を呆然とマーガレットが見つめていると、不意に後ろから抱きしめられてしまう。……その手は、間違いなくクローヴィスのものだ。
「……旦那様?」
ゆっくりと彼のことを呼べば、彼は「嫉妬した」とむすっとしたような声で告げてくる。
「し、嫉妬って……」
「ほら、俺、どうにも嫉妬深いみたいだからさ」
マーガレットの身体を抱きしめながらクローヴィスはそういう。……嫉妬深い。それは、マーガレットも同じ……かもしれない。
「……わ、私も、です」
消え入りそうなほど小さな声でそう言えば、彼は大きく目を見開いていた。
「私も……その、ウェイトレスの人と旦那様がお話しているのを見て、ほんの少し……ほんの少しですよ? 妬きました」
こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。内心でそう零しながらそう告げれば、クローヴィスは嬉しそうに口元を緩めた。
「今日も、帰ったら覚悟しておいて。……飛ぶまで、愛してあげるから」
マーガレットの身体をワンピース越しに撫でながら、クローヴィスはそういう。その言葉に、マーガレットは顔を真っ赤にすることしか出来なかった。
(っていうか、これって――)
――契約結婚だったはずなのに。
そう思いながらも、マーガレットはクローヴィスから与えられる愛情を心地よく思い始めていた。
それからしばらくして、レモンを使ったスイーツがたくさん出てきた。それらはすべて美味であり、マーガレットの心が弾む。
途中、クローヴィスに「あーん」をされたのは大層不本意だったのだが。
「ごめんごめん。ちょっと、からかってみたんだよ」
その後、クローヴィスはやれやれといった風に手を挙げ、マーガレットのことを見つめる。
だからこそ、マーガレットは顔を一気に赤くして――……。
「最低!」
思わず、そう叫んでしまった。
しかし、その言葉はクローヴィスには通じなかったらしく、彼はニコニコと笑いながら「マーガレットだって、乗り気だったでしょ?」と言いながら肩をすくめる。
(の、乗り気だなんて……)
確かに、口づけで身体が火照り始めていたことは認める。けれど、それは決して乗り気だったわけではない。
そんな風に思うものの、きっと今のマーガレットには説得力などないだろう。顔を真っ赤にし、目を潤ませたマーガレットの姿は男性の欲情を煽ってしまうだけなのだ。
その証拠に、クローヴィスは「……ごめん、からかいすぎた」と言って額を押さえてしまった。
「……旦那様?」
「今のマーガレットの姿、ちょっと、いろいろとクる」
真剣な声音でそう言われ、マーガレットはさらに顔を真っ赤にしてしまった。
「最低! 変態!」
もうこうなったら容赦なんてしない。そう思いマーガレットがクローヴィスの胸をぽかぽかとたたいていれば、彼は「ごめんってば」と言いながらマーガレットの背を撫でてくる。
(――本当に最低! 変態! このあほ!)
内心でクローヴィスを罵倒しながら、マーガレットは彼の顔を見つめる。すると、彼の表情は何処となく嬉しそうに緩んでいた。
(まさか、罵られて悦ぶ人⁉)
一瞬そう思ったマーガレットの気持ちが伝わったのか、彼は「マーガレットが、俺と一線を引かなくなったみたいで嬉しいんだよ」と言いながらふんわりと笑う。
「……ぁ」
「容赦なく俺を罵って、楽しそうにぽかぽかたたいてきて。……可愛いなぁって」
その後、クローヴィスはマーガレットの唇に触れるだけの口づけを施す。それに驚いて顔を背けようとするものの、クローヴィスに手で頬を挟まれてしまい逃げるに逃げられない。
「ちょっ!」
クローヴィスの手がマーガレットの髪の毛を梳く。その優しい手つきにぼうっとしてしまえば、個室の扉がノックされた。
「あぁ、どうぞ」
まるで何もなかったかのようにのんきに返事をするクローヴィスを内心恨めしく思いながらマーガレットも席に座る。
すると、顔を出したのは中年の男性だった。彼はマーガレットのことを見るとぱぁっと顔を明るくし、「旦那様もついに奥様を……!」と言う。
「……マーク。心配かけたな」
「本当にそうでございますよ!」
マークと呼ばれた男性はクローヴィスの方に近づくと深々と礼をする。そして、マーガレットに視線を向け「マークと申します」と自己紹介をしてくれた。
「以前はオルブルヒ公爵家で料理長を務めておりました」
「……マーガレット・オルブルヒです」
軽く会釈をしてそう自己紹介をすれば、マークは「なんと素晴らしい奥様でしょうか!」と感激とばかりに手をパンっとたたく。
「本日はせっかくですし、旦那様の結婚祝いとしましょうか」
「……いいのか?」
「えぇ、おかげさまで繁盛しておりますので。もう少々お待ちくださいませ」
マークはそれだけを告げるときびきびとした動きで個室を出て行く。
その後ろ姿を呆然とマーガレットが見つめていると、不意に後ろから抱きしめられてしまう。……その手は、間違いなくクローヴィスのものだ。
「……旦那様?」
ゆっくりと彼のことを呼べば、彼は「嫉妬した」とむすっとしたような声で告げてくる。
「し、嫉妬って……」
「ほら、俺、どうにも嫉妬深いみたいだからさ」
マーガレットの身体を抱きしめながらクローヴィスはそういう。……嫉妬深い。それは、マーガレットも同じ……かもしれない。
「……わ、私も、です」
消え入りそうなほど小さな声でそう言えば、彼は大きく目を見開いていた。
「私も……その、ウェイトレスの人と旦那様がお話しているのを見て、ほんの少し……ほんの少しですよ? 妬きました」
こんなこと、言うつもりじゃなかったのに。内心でそう零しながらそう告げれば、クローヴィスは嬉しそうに口元を緩めた。
「今日も、帰ったら覚悟しておいて。……飛ぶまで、愛してあげるから」
マーガレットの身体をワンピース越しに撫でながら、クローヴィスはそういう。その言葉に、マーガレットは顔を真っ赤にすることしか出来なかった。
(っていうか、これって――)
――契約結婚だったはずなのに。
そう思いながらも、マーガレットはクローヴィスから与えられる愛情を心地よく思い始めていた。
それからしばらくして、レモンを使ったスイーツがたくさん出てきた。それらはすべて美味であり、マーガレットの心が弾む。
途中、クローヴィスに「あーん」をされたのは大層不本意だったのだが。
42
お気に入りに追加
2,539
あなたにおすすめの小説
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜
本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」
王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。
偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。
……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。
それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。
いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。
チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。
……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。
3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる