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第二章

そういうのは……ちょっと

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 しかし、それに反応することはない。

 マーガレットはクローヴィスに手を握られたままウェイトレスの後に続く。

 ウェイトレスがクローヴィスとマーガレットのことを案内したのは、店の奥の奥にある個室だった。どうしてたかがカフェに個室があるのか……と言うことを疑問に思ったものの、どうやらここには度々クローヴィスが訪れているらしい。そのために、個室を作ったと。

「メニューはどうなさいますか?」
「俺はいつも通りでいいよ。……マーガレットは?」

 席に着くとクローヴィスはそう問いかけてくる。なので、マーガレットは「えぇっと」と少し困ったように眉を下げる。

 こういう風に外食をすることはめったになかった。そのため、どういう風にすればいいかがいまいちよく分からない。

 そんなマーガレットの気持ちにクローヴィスは気が付いていたらしく、彼は「マーガレットも、一緒で」とにこやかな笑みのまま注文を済ませてしまう。

「かしこまりました。今、マークさんが少し手を離せないので、落ち着いたら挨拶に来るようにと言っておきますね」
「あぁ、お願いね」

 ウェイトレスはそれだけを告げて個室を出て行く。

 残されたのはクローヴィスとマーガレットの二人だけ。……なんとなく、気まずい。そんなことを思って周囲をちらりと視線で観察するものの、話題になりそうなものはない。……どうしようか。

「マーガレット」

 視線を彷徨わせていれば、不意にクローヴィスにそう声をかけられる。それに驚いて身を引けば、椅子ががたんと音を立てた。……驚きすぎて、恥ずかしい。

「ねぇ、ちょっとそっちに行ってもいい?」

 そんなマーガレットを笑うでもなく、クローヴィスはそう言ってくる。……そっちということは、隣に座るということだろうか。今は対面で座っているものの、どうやら彼はマーガレットの隣に移動したいらしい。

 ……意味が、分からない。

(……まぁ、隣に移動するくらいならば)

 いいや。

 そう考え、マーガレットは「ど、どうぞ」と少し上ずったような声で返事をする。そうすれば、クローヴィスは立ち上がりマーガレットのすぐ隣の椅子に腰を下ろした。

 個室にあるテーブルは四人掛けのものだ。真っ白なテーブルクロスがかけられたテーブルに視線を向けていれば、クローヴィスが「マーガレット」と名前を呼んでくる。

「な、なにっ――んっ⁉」

 顔を上げれば、何の前触れもなく口づけられた。それに驚いてマーガレットが目を大きく見開けば、クローヴィスが舌でとんとんとマーガレットの唇をたたいてくる。

 どうやら、口を開けろと言うことらしい。

(こ、こんな、ところで――っ⁉)

 先ほどのウェイトレスの話が正しければ、『マーク』という人も来るだろうし、ウェイトレスがメニューをもっていつ入ってくるかがわからない。なのに、クローヴィスはマーガレットと触れあおうとしている。

 マーガレットが彼の行動に戸惑っていれば、クローヴィスの手がマーガレットの背に回されそのまま引き寄せられる。その手に驚いて唇をうっすらと開けば、その隙間を狙ったかのようにクローヴィスは舌を差し込んできた。

「んんっ、んぅ……」

 クローヴィスの手は気がつけばマーガレットの後頭部に移動しており、逃げることは許さないとばかりに頭を押さえてくる。

 彼の舌はマーガレットの口内を蹂躙する。歯列をなぞられ、舌を絡められる。

 たったそれだけなのに、マーガレットは腰が砕けそうなほど気持ちよかった。がくがくと身体が揺れ始め、クローヴィスの衣服に縋る。

「……ぁ」

 ゆっくりと離れていくクローヴィスの唇。それを見つめながら、何となく「寂しい」と思ってしまって。

(こ、こんなの――っ!)

 こんなので、どうして自分は乱れてしまうのだろうか。内心でそう思いながらそっと彼から視線を逸らせば、クローヴィスの指がマーガレットの唇の端に押し付けられる。そこには、飲み込めなかった唾液が伝っていた。

「……いやらしい」

 耳に唇を近づけそう囁かれ、マーガレットは「だ、れの!」と言ってしまう。

 マーガレットがこんなにもぼうっとしているのはクローヴィスの所為だ。彼が不意打ちで口づけてくるから。だから……こんなにも身体がゾクゾクとする。這い上がってくる何かに、耐えなければならなくなる。

 そんなことを思っていれば、マーガレットの視線がひっくり返り、気がつけば天井を見上げていた。

(……え?)

 一瞬何が起こったかがわからず、マーガレットが目をぱちぱちと瞬かせてしまう。

(こ、これって?)

 それからしばらくして、マーガレットは理解する。……自分は今、テーブルクロスの上に押し倒されている。ほかでもない、クローヴィスの手によって。

 彼のその手がマーガレットのワンピースにかけられる。それに気が付き、マーガレットは「ま、ま、まっ!」と言葉にならない声を上げてしまう。

(ここ、お店の中じゃない……!)

 こんなところでやるなんて――絶対に無理!

 そう思いマーガレットがクローヴィスの胸を押せば、彼は声を上げて笑い始める。
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