34 / 52
第二章
ちょっぴり、妬いた……かも?
しおりを挟む
(信じられないっ!)
どうして、こんなにも丁寧に扱ってくれるのだろうか。
そんなことを思ってマーガレットが内心でクローヴィスのことを子供のように罵倒していると、不意に馬車が止まる。
それに驚いてマーガレットが顔を上げれば、クローヴィスは「ついたみたいだね」と言ってニコニコと笑っていた。
「は、早くないですか……?」
「そりゃあ、そんなに離れてないから」
マーガレットの言葉に淡々と返事をしたクローヴィスは御者に扉を開けてもらい地面に足をつける。その後、マーガレットに手を差し出してきた。……どうやら、エスコートしてくれるらしい。
(こういうところは……その)
とても、素敵かもしれない。
一瞬だけそう思ったが、その感情を振り払うように首をぶんぶんと横に振る。クローヴィスに惹かれてはいけない。万が一彼がこの感情を間違いだと気が付いてしまった時、傷つくのは自分なのだ。
しかし、クローヴィスのエスコートを無下にすることもできなかった。そのため、マーガレットは渋々彼の手に自分の手を重ね馬車を降りる。綺麗な石畳とヒールがぶつかるような音がして、顔をパッと上げる。
そうすれば、きれいな街並みが少し遠くに見えた。その賑わいはここにいても聞こえてくるほどであり、マーガレットの心が無意識のうちに弾んでいく。
「騒ぎになるといけないから、少し遠くから歩くよ。……大丈夫?」
「は、はい」
確かにお忍びで公爵がやってくると騒ぎになるだろう。それを瞬時に理解し、マーガレットはクローヴィスに手を取られたまま歩く。
街に入ればとてもきれいな街並みに視線を奪われてしまう。レンガ建ての建物。地面は石畳であり、上品な印象も与えてくる。どうやらこの街は警備も行き届いているらしく、周辺で制服姿の騎士が見えた。
「マーガレット、まずは何処に行く?」
にっこりと笑ってクローヴィスがそう問いかけてくる。なので、マーガレットは考えてみる。……行きたい場所。やっぱり、美味しいものが食べたいかもしれない。色気よりも食い気だと笑われてしまいそうだが、そもそも目的がレモンを使ったお菓子なのだ。
「では、美味しいものが食べたいです」
クローヴィスにそう答えれば、彼は「わかった」と言ってマーガレットの手を掴んだまま歩き出す。
何処に向かうのだろうか。ぼんやりとそう思いながら彼について歩けば、彼は人通りの多い道を通っていく。マーガレットが人ごみに流されないようにと盾になりながら進む様子はとても紳士だ。
(……旦那様、とてもお優しいのよね)
それを再認識して、マーガレットはクローヴィスに続いて歩く。
それからしばらく歩くと、クローヴィスが足を止めた。そこには一つのこじんまりとしたカフェがある。クローヴィスは何でもない風に「ここでいい?」とマーガレットに問いかけてきた。
「……ここは?」
「元々オルブルヒ公爵家で働いていた料理人が開いた店だよ。だから、味は保証する」
彼は何でもない風にそう言ってマーガレットの顔を覗き込んでくる。……公爵家で働いていた料理人と言うことは、腕は相当なものだろう。
(……美味しいんだろうなぁ)
そう思うと、無意識のうちにごくりと唾をのんだ。気が早いかもしれないが、頭の中に思い浮かぶスイーツの数々にマーガレットの意識が向かう。それに気が付いてか、クローヴィスは「よさそうだね」と言ってマーガレットの手を掴んだまま店内に入った。
扉を開けばからんカランとベルが鳴る。そして、店の奥から顔を見せたウェイトレスがクローヴィスの顔を見て驚いたように目を見開いた。
「領主――」
「しぃっ」
ウェイトレスに遠回しに黙るようにクローヴィスが仕草で告げれば、彼女は慌てて自身の口をふさぐ。
「今日はお忍びで来ているからさ。……マークはいる?」
「えぇ、いますよ。……奥の個室でよろしいですか?」
「うん、よろしく」
クローヴィスとウェイトレスはこそこそとそんな会話をする。その姿にほんの少し妬いてしまいそうになるが、ウェイトレスは視線をマーガレットに向けてきたことによりマーガレットはにっこりとした笑みを貼り付けた。
「まぁ、奥様ですか⁉」
すると、ウェイトレスは嬉しそうに手をパンっとたたいてそう尋ねてくる。それに対し、クローヴィスはマーガレットの肩を抱き寄せながら「そう。俺の妻のマーガレット」と言っていた。……その声音には何処となく自慢が含まれているようにも聞こえてしまう。
「とてもお美しい奥様ですね!」
それに、ニコニコと無邪気に笑みを向けられてしまえばマーガレットとて無下には出来ない。出来る限り歪に見えないような笑みを浮かべて、「マーガレットと言います」と自己紹介をする。
「マーガレット様ですか。……領主様にお似合いでございますね。さぁさぁ、奥へどうぞ」
ウェイトレスはニコニコとした笑みを崩さずにクローヴィスとマーガレットのことを店の奥へと案内する。
後に続く途中、クローヴィスがマーガレットの手をぎゅっと握ってきたことにマーガレットは気が付いていた。
どうして、こんなにも丁寧に扱ってくれるのだろうか。
そんなことを思ってマーガレットが内心でクローヴィスのことを子供のように罵倒していると、不意に馬車が止まる。
それに驚いてマーガレットが顔を上げれば、クローヴィスは「ついたみたいだね」と言ってニコニコと笑っていた。
「は、早くないですか……?」
「そりゃあ、そんなに離れてないから」
マーガレットの言葉に淡々と返事をしたクローヴィスは御者に扉を開けてもらい地面に足をつける。その後、マーガレットに手を差し出してきた。……どうやら、エスコートしてくれるらしい。
(こういうところは……その)
とても、素敵かもしれない。
一瞬だけそう思ったが、その感情を振り払うように首をぶんぶんと横に振る。クローヴィスに惹かれてはいけない。万が一彼がこの感情を間違いだと気が付いてしまった時、傷つくのは自分なのだ。
しかし、クローヴィスのエスコートを無下にすることもできなかった。そのため、マーガレットは渋々彼の手に自分の手を重ね馬車を降りる。綺麗な石畳とヒールがぶつかるような音がして、顔をパッと上げる。
そうすれば、きれいな街並みが少し遠くに見えた。その賑わいはここにいても聞こえてくるほどであり、マーガレットの心が無意識のうちに弾んでいく。
「騒ぎになるといけないから、少し遠くから歩くよ。……大丈夫?」
「は、はい」
確かにお忍びで公爵がやってくると騒ぎになるだろう。それを瞬時に理解し、マーガレットはクローヴィスに手を取られたまま歩く。
街に入ればとてもきれいな街並みに視線を奪われてしまう。レンガ建ての建物。地面は石畳であり、上品な印象も与えてくる。どうやらこの街は警備も行き届いているらしく、周辺で制服姿の騎士が見えた。
「マーガレット、まずは何処に行く?」
にっこりと笑ってクローヴィスがそう問いかけてくる。なので、マーガレットは考えてみる。……行きたい場所。やっぱり、美味しいものが食べたいかもしれない。色気よりも食い気だと笑われてしまいそうだが、そもそも目的がレモンを使ったお菓子なのだ。
「では、美味しいものが食べたいです」
クローヴィスにそう答えれば、彼は「わかった」と言ってマーガレットの手を掴んだまま歩き出す。
何処に向かうのだろうか。ぼんやりとそう思いながら彼について歩けば、彼は人通りの多い道を通っていく。マーガレットが人ごみに流されないようにと盾になりながら進む様子はとても紳士だ。
(……旦那様、とてもお優しいのよね)
それを再認識して、マーガレットはクローヴィスに続いて歩く。
それからしばらく歩くと、クローヴィスが足を止めた。そこには一つのこじんまりとしたカフェがある。クローヴィスは何でもない風に「ここでいい?」とマーガレットに問いかけてきた。
「……ここは?」
「元々オルブルヒ公爵家で働いていた料理人が開いた店だよ。だから、味は保証する」
彼は何でもない風にそう言ってマーガレットの顔を覗き込んでくる。……公爵家で働いていた料理人と言うことは、腕は相当なものだろう。
(……美味しいんだろうなぁ)
そう思うと、無意識のうちにごくりと唾をのんだ。気が早いかもしれないが、頭の中に思い浮かぶスイーツの数々にマーガレットの意識が向かう。それに気が付いてか、クローヴィスは「よさそうだね」と言ってマーガレットの手を掴んだまま店内に入った。
扉を開けばからんカランとベルが鳴る。そして、店の奥から顔を見せたウェイトレスがクローヴィスの顔を見て驚いたように目を見開いた。
「領主――」
「しぃっ」
ウェイトレスに遠回しに黙るようにクローヴィスが仕草で告げれば、彼女は慌てて自身の口をふさぐ。
「今日はお忍びで来ているからさ。……マークはいる?」
「えぇ、いますよ。……奥の個室でよろしいですか?」
「うん、よろしく」
クローヴィスとウェイトレスはこそこそとそんな会話をする。その姿にほんの少し妬いてしまいそうになるが、ウェイトレスは視線をマーガレットに向けてきたことによりマーガレットはにっこりとした笑みを貼り付けた。
「まぁ、奥様ですか⁉」
すると、ウェイトレスは嬉しそうに手をパンっとたたいてそう尋ねてくる。それに対し、クローヴィスはマーガレットの肩を抱き寄せながら「そう。俺の妻のマーガレット」と言っていた。……その声音には何処となく自慢が含まれているようにも聞こえてしまう。
「とてもお美しい奥様ですね!」
それに、ニコニコと無邪気に笑みを向けられてしまえばマーガレットとて無下には出来ない。出来る限り歪に見えないような笑みを浮かべて、「マーガレットと言います」と自己紹介をする。
「マーガレット様ですか。……領主様にお似合いでございますね。さぁさぁ、奥へどうぞ」
ウェイトレスはニコニコとした笑みを崩さずにクローヴィスとマーガレットのことを店の奥へと案内する。
後に続く途中、クローヴィスがマーガレットの手をぎゅっと握ってきたことにマーガレットは気が付いていた。
32
お気に入りに追加
2,539
あなたにおすすめの小説
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
獣人公爵のエスコート
ざっく
恋愛
デビューの日、城に着いたが、会場に入れてもらえず、別室に通されたフィディア。エスコート役が来ると言うが、心当たりがない。
将軍閣下は、番を見つけて興奮していた。すぐに他の男からの視線が無い場所へ、移動してもらうべく、副官に命令した。
軽いすれ違いです。
書籍化していただくことになりました!それに伴い、11月10日に削除いたします。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる