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第二章
はき違えたりしない
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翌朝。早くに別邸をたち、マーガレットはクローヴィスと共に馬車に揺られていた。
今日は領地にある最も大きな街に向かう予定である。クローヴィス曰く美味しいレストランやカフェが多い美食の街だということだ。
しかし、マーガレットは朝から不機嫌だった。
「ごめんってば、マーガレット。許して?」
「無理です」
クローヴィスの謝罪を一蹴し、マーガレットはプイっと顔を背ける。
昨日。昼間から抱かれた。クローヴィスに熱烈に愛され、悪い気はしなかった。が、それと関連することでもう一つ問題があったのだ。
「夜もあんなに激しく抱いてこられて……!」
そう。クローヴィスは昼間だけでは飽き足らず夜までマーガレットを激しく抱いたのだ。それが原因でマーガレットは腰の鈍い痛みに耐える羽目になった。今日は領地に行くとわかっていたのだから、手加減してくれればいいのに。
そういう面でマーガレットは怒っていたのだ。
「けれど、いいじゃん。マーガレットだって気持ちよさそうだったし」
「そ、それは……」
それを言われると辛い。実際、マーガレットは昨夜もあんあんと喘がされてしまった。気持ちよくておかしくなりそうなほど甘ったるく、優しく抱かれた。もちろん激しさはあったもののマーガレットのことを労わってくれる抱き方には間違いなく。
「それに……ほら。腰が痛いんだったら俺が抱き上げて移動してあげるからさ」
肩を掴みマーガレットのことを引き寄せながらクローヴィスがそう言う。……抱き上げて。それはつまりお姫様抱っこということだろう。そんなもの無理である。恥ずかしすぎて顔から火が出る。
「そ、それこそ無理ですっ! 私、恥ずかしくて……」
視線をそっとそらしてそう言えば、クローヴィスは「残念」なんて全く残念がっていないような声でそう言う。その後、マーガレットの額に触れるだけの口づけを落としてくる。ちゅっと音を立てて口づけられマーガレットの目が見る見るうちに見開かれる。
「可愛らしいね」
そんなマーガレットのことを見つめてクローヴィスはそう言う。彼は昨日からずっとこの調子である。甘ったるくて、溶かされてしまいそうで。それほどまでに彼はマーガレットのことを愛してくれる。……混乱するなと言う方が無理だった。
(旦那様は私の勇気を認めてくださっている。……けれど、それは所詮一時期の気の迷いでは?)
マーガレットがクローヴィスのことを媚薬から救った。彼はそれでマーガレットに惚れこんだと言っていた。
しかし、それは所詮救われた恩を恋と勘違いしているだけではないのだろうか。そんな不安が頭の中に浮かんでしまい、マーガレットはそっと目を伏せる。
「……マーガレット?」
マーガレットのそんな様子に気が付いたのか、クローヴィスは怪訝そうに声をかけてくる。なので、「い、いえ、なんでも……」と言おうとした。だが、言えなかった。クローヴィスに両頬を挟まれてしまい、半ば無理やり彼と視線を合わせられたのだ。
彼の美しい目がマーガレットのことを射貫く。……心臓がとくとくと早足に音を鳴らし、顔に熱が溜まっていく。それほどまでに、クローヴィスは魅力的なのだ。
「何か思うことがあるんだったら、きちんと伝えて」
先ほどとは全く違う、いわば真剣な声音だった。しかも、その顔もとても真剣な面持ちであり、その所為でマーガレットがぽかんとしてしまう。けれど、すぐに現実に戻ってくると「……別に」と言いながらまた彼から視線を逸らす。
「別にじゃないでしょ? 俺はマーガレットと本当の夫婦になりたいって思っているんだ。……だから、どうか教えてほしい」
そんな風に真摯な声音で強請らないでほしい。心が陥落してしまって、彼に惚れこんでしまいそうになるから。内心でそう思いながらも、マーガレットは「……一時期の、気の迷いじゃないですか」と恐る恐る声をかけた。
「マーガレット?」
「旦那様が私に向けている感情は、所詮一時期の感情の迷いにすぎません。だって、そうじゃないですか。……自分のことを身を挺して救ってくれた。ということは、恩と恋をはき違えているだけだと思うのです」
視線を逸らしながらそう言えば、クローヴィスは一瞬ぽかんとしたようだった。しかし、すぐに「ぷっ」と噴き出してしまう。
それが癪に触ってしまい、マーガレットは「何がおかしいのですか⁉」と彼に詰め寄った。
「……いや、マーガレットは可愛らしいなぁって」
それに対し、クローヴィスはそういう。その声には未だに笑いが含まれているようであり、マーガレットの怒りのメーターがどんどん上がっていく。
「俺は二十八年も生きているから、いろいろと経験しているつもりだよ」
「……はぁ」
「だから、恋と恩をはき違えるようなことはしない。俺はいろいろな経験をしているから……これが恋だって、わかっているつもりだ」
「っつ」
マーガレットの髪の毛を少しだけ手に取り、そこに口づける。その手つきが壊れ物を扱うかのようなほどに丁寧だった所為で、マーガレットの心臓がまた高鳴ってしまった。
今日は領地にある最も大きな街に向かう予定である。クローヴィス曰く美味しいレストランやカフェが多い美食の街だということだ。
しかし、マーガレットは朝から不機嫌だった。
「ごめんってば、マーガレット。許して?」
「無理です」
クローヴィスの謝罪を一蹴し、マーガレットはプイっと顔を背ける。
昨日。昼間から抱かれた。クローヴィスに熱烈に愛され、悪い気はしなかった。が、それと関連することでもう一つ問題があったのだ。
「夜もあんなに激しく抱いてこられて……!」
そう。クローヴィスは昼間だけでは飽き足らず夜までマーガレットを激しく抱いたのだ。それが原因でマーガレットは腰の鈍い痛みに耐える羽目になった。今日は領地に行くとわかっていたのだから、手加減してくれればいいのに。
そういう面でマーガレットは怒っていたのだ。
「けれど、いいじゃん。マーガレットだって気持ちよさそうだったし」
「そ、それは……」
それを言われると辛い。実際、マーガレットは昨夜もあんあんと喘がされてしまった。気持ちよくておかしくなりそうなほど甘ったるく、優しく抱かれた。もちろん激しさはあったもののマーガレットのことを労わってくれる抱き方には間違いなく。
「それに……ほら。腰が痛いんだったら俺が抱き上げて移動してあげるからさ」
肩を掴みマーガレットのことを引き寄せながらクローヴィスがそう言う。……抱き上げて。それはつまりお姫様抱っこということだろう。そんなもの無理である。恥ずかしすぎて顔から火が出る。
「そ、それこそ無理ですっ! 私、恥ずかしくて……」
視線をそっとそらしてそう言えば、クローヴィスは「残念」なんて全く残念がっていないような声でそう言う。その後、マーガレットの額に触れるだけの口づけを落としてくる。ちゅっと音を立てて口づけられマーガレットの目が見る見るうちに見開かれる。
「可愛らしいね」
そんなマーガレットのことを見つめてクローヴィスはそう言う。彼は昨日からずっとこの調子である。甘ったるくて、溶かされてしまいそうで。それほどまでに彼はマーガレットのことを愛してくれる。……混乱するなと言う方が無理だった。
(旦那様は私の勇気を認めてくださっている。……けれど、それは所詮一時期の気の迷いでは?)
マーガレットがクローヴィスのことを媚薬から救った。彼はそれでマーガレットに惚れこんだと言っていた。
しかし、それは所詮救われた恩を恋と勘違いしているだけではないのだろうか。そんな不安が頭の中に浮かんでしまい、マーガレットはそっと目を伏せる。
「……マーガレット?」
マーガレットのそんな様子に気が付いたのか、クローヴィスは怪訝そうに声をかけてくる。なので、「い、いえ、なんでも……」と言おうとした。だが、言えなかった。クローヴィスに両頬を挟まれてしまい、半ば無理やり彼と視線を合わせられたのだ。
彼の美しい目がマーガレットのことを射貫く。……心臓がとくとくと早足に音を鳴らし、顔に熱が溜まっていく。それほどまでに、クローヴィスは魅力的なのだ。
「何か思うことがあるんだったら、きちんと伝えて」
先ほどとは全く違う、いわば真剣な声音だった。しかも、その顔もとても真剣な面持ちであり、その所為でマーガレットがぽかんとしてしまう。けれど、すぐに現実に戻ってくると「……別に」と言いながらまた彼から視線を逸らす。
「別にじゃないでしょ? 俺はマーガレットと本当の夫婦になりたいって思っているんだ。……だから、どうか教えてほしい」
そんな風に真摯な声音で強請らないでほしい。心が陥落してしまって、彼に惚れこんでしまいそうになるから。内心でそう思いながらも、マーガレットは「……一時期の、気の迷いじゃないですか」と恐る恐る声をかけた。
「マーガレット?」
「旦那様が私に向けている感情は、所詮一時期の感情の迷いにすぎません。だって、そうじゃないですか。……自分のことを身を挺して救ってくれた。ということは、恩と恋をはき違えているだけだと思うのです」
視線を逸らしながらそう言えば、クローヴィスは一瞬ぽかんとしたようだった。しかし、すぐに「ぷっ」と噴き出してしまう。
それが癪に触ってしまい、マーガレットは「何がおかしいのですか⁉」と彼に詰め寄った。
「……いや、マーガレットは可愛らしいなぁって」
それに対し、クローヴィスはそういう。その声には未だに笑いが含まれているようであり、マーガレットの怒りのメーターがどんどん上がっていく。
「俺は二十八年も生きているから、いろいろと経験しているつもりだよ」
「……はぁ」
「だから、恋と恩をはき違えるようなことはしない。俺はいろいろな経験をしているから……これが恋だって、わかっているつもりだ」
「っつ」
マーガレットの髪の毛を少しだけ手に取り、そこに口づける。その手つきが壊れ物を扱うかのようなほどに丁寧だった所為で、マーガレットの心臓がまた高鳴ってしまった。
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