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第二章
不本意でしたか?
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重苦しい瞼を開け、マーガレットはそっと身体を起こした。
その瞬間、ずきんとした腰の重い痛みに顔をしかめまた寝台に倒れこむ。
「……わた、し、どうなったんだっけ」
それからそう呟き、マーガレットは天井を見つめる。ここはいつも眠っている私室の寝台ではないようだ。それよりももっと豪奢で、広くて、ふかふかで――。
「もしかして、ここ……?」
一つの可能性が思い浮かび、マーガレットは天蓋のカーテンを開け室内を見渡す。……あまり使われていないためか、半分物置となっているこの部屋。ここは、間違いなく――。
「……夫婦の寝室じゃない」
そう呟いて、マーガレットはもう一度寝台に横たわる。ずきずきと痛む頭を押さえながら、記憶の引き出しを引っ張り出す。そうすれば、あっけなく眠りに落ちる前の記憶が出てきた。
そうだ。自分は媚薬を盛られたクローヴィスを助けるためにこの身体を使って――。
思い出すだけで、顔から火が出そうなほど顔に熱が溜まっていく。けれど、今はそれどころではない。そう思い頭を横に振りマーガレットはそっと天蓋を見つめた。
(……いや、私よりも旦那様の方が……)
マーガレットは身体を使っただけだ。が、クローヴィスの方は相当媚薬が回ってしまっていた。何か彼の身体に悪影響がなければいいのだけれど。
そんなことを思いながら天蓋を見つめていれば、寝室の扉が開いたのがわかった。ハッとしてマーガレットがカーテンの隙間からそちらを見つめれば、そこにはジビレがいた。彼女はマーガレットに気が付くと「奥様」と小さな声でマーガレットのことを呼ぶ。
「……ジビレ。一つ、いいかしら?」
「どうぞ」
「旦那様は、ご無事かしら……?」
恐る恐るそう問えば、ジビレは「はい」と言ってあまり動かないその表情をほんのりと緩める。それに、マーガレットはほっと息をついた。
「侍医にも見ていただきましたが、三日ほど安静にすれば調子は元に戻るということでございます」
「……そう、よかったわ」
クローヴィスが無事なのならば、自分も身体を張ったかいがあったというものだろう。内心でそう思いながらマーガレットがほっと胸をなでおろせば、ジビレは「奥様も、ご無事でよかったです」という言葉をくれる。
「何でも、旦那様に……その」
「言わないで頂戴。でも、必要なことだったから」
マーガレットがそう言えば、ジビレは「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。それはきっと、使用人を代表しての言葉だろう。そう思いながらマーガレットが息を吐いていれば、今度は扉がノックされた。
「……旦那様でしょうか?」
ジビレが小さくそう呟くので、マーガレットは「通して頂戴」と零す。そうすれば、ジビレは「かしこまりました」と返事をくれて寝室の扉を開けに動く。
「あぁ、ジビレ、いたんだね」
扉の方から聞こえてくるのはクローヴィスの声だった。その声音は元気そうであり、どうやらもう回復しているらしい。それにマーガレットがもう一度胸をなでおろしていれば、カーテンの扉が開きクローヴィスが顔を出す。
「マーガレット。大丈夫?」
彼はいつも通りの柔和な笑みを浮かべてそう問いかけてくる。……眠る前に見た彼の目は、恐ろしいほど欲情していたというのに。今の彼からはそんな表情が全く見えない。
(……なんていうか、不思議)
そんな様子の彼に一抹の寂しさを覚えてしまう。自分だけがひどく意識して、彼からすればあれは所詮薬を抜くための行為だったのだろう。そう思うと胸が痛むような気がした。
「マーガレット?」
マーガレットが返事をしないためか、クローヴィスが怪訝そうな表情でもう一度名前を呼ぶ。そのため、マーガレットはハッとして「だ、大丈夫です!」と慌てて返事をする。
「そ、その、旦那様の方は、もう、大丈夫ですか……?」
毛布を口元まで引き上げながらそう尋ねれば、彼は「うん、もう少しの間安静だけれどね」と肩をすくめながら言う。
「マーガレットのおかげだよ。……本当に、ありがとうね」
にっこりと笑ってそう言われ、マーガレットの顔がカーっと熱くなる。行為の最中に見た彼の艶っぽい表情を思い出してしまって、体中が熱くなるような感覚だった。
(って、一体いつの間に私はこんなにも淫らに……!)
たった一度クローヴィスと交わっただけなのに、マーガレットの身体は彼を求めるようになってしまっていた。それに自分自身で幻滅しながら毛布で顔を隠していれば、彼は「……あと、ごめんね」とゆるゆると首を横に振りながら言う。
「契約的な結婚だったのに、半ば無理やり純潔を奪うような真似をして、本当にごめん」
……謝らないでほしかった。
心の奥底でそう思いながら、マーガレットは「かまいま、せん」と今にも消え入りそうなほど小さな声で言う。
(……もしかして、旦那様にとって私と交わるのは不本意だったの?)
そして、胸の中にそんな女々しい感情が芽生えてしまう。
クローヴィスは自分と交わるのが不本意で、仕方がなく交わったのではないか。そんな想像をすると何故か胸が痛んだ。
その瞬間、ずきんとした腰の重い痛みに顔をしかめまた寝台に倒れこむ。
「……わた、し、どうなったんだっけ」
それからそう呟き、マーガレットは天井を見つめる。ここはいつも眠っている私室の寝台ではないようだ。それよりももっと豪奢で、広くて、ふかふかで――。
「もしかして、ここ……?」
一つの可能性が思い浮かび、マーガレットは天蓋のカーテンを開け室内を見渡す。……あまり使われていないためか、半分物置となっているこの部屋。ここは、間違いなく――。
「……夫婦の寝室じゃない」
そう呟いて、マーガレットはもう一度寝台に横たわる。ずきずきと痛む頭を押さえながら、記憶の引き出しを引っ張り出す。そうすれば、あっけなく眠りに落ちる前の記憶が出てきた。
そうだ。自分は媚薬を盛られたクローヴィスを助けるためにこの身体を使って――。
思い出すだけで、顔から火が出そうなほど顔に熱が溜まっていく。けれど、今はそれどころではない。そう思い頭を横に振りマーガレットはそっと天蓋を見つめた。
(……いや、私よりも旦那様の方が……)
マーガレットは身体を使っただけだ。が、クローヴィスの方は相当媚薬が回ってしまっていた。何か彼の身体に悪影響がなければいいのだけれど。
そんなことを思いながら天蓋を見つめていれば、寝室の扉が開いたのがわかった。ハッとしてマーガレットがカーテンの隙間からそちらを見つめれば、そこにはジビレがいた。彼女はマーガレットに気が付くと「奥様」と小さな声でマーガレットのことを呼ぶ。
「……ジビレ。一つ、いいかしら?」
「どうぞ」
「旦那様は、ご無事かしら……?」
恐る恐るそう問えば、ジビレは「はい」と言ってあまり動かないその表情をほんのりと緩める。それに、マーガレットはほっと息をついた。
「侍医にも見ていただきましたが、三日ほど安静にすれば調子は元に戻るということでございます」
「……そう、よかったわ」
クローヴィスが無事なのならば、自分も身体を張ったかいがあったというものだろう。内心でそう思いながらマーガレットがほっと胸をなでおろせば、ジビレは「奥様も、ご無事でよかったです」という言葉をくれる。
「何でも、旦那様に……その」
「言わないで頂戴。でも、必要なことだったから」
マーガレットがそう言えば、ジビレは「ありがとうございます」と深々と頭を下げた。それはきっと、使用人を代表しての言葉だろう。そう思いながらマーガレットが息を吐いていれば、今度は扉がノックされた。
「……旦那様でしょうか?」
ジビレが小さくそう呟くので、マーガレットは「通して頂戴」と零す。そうすれば、ジビレは「かしこまりました」と返事をくれて寝室の扉を開けに動く。
「あぁ、ジビレ、いたんだね」
扉の方から聞こえてくるのはクローヴィスの声だった。その声音は元気そうであり、どうやらもう回復しているらしい。それにマーガレットがもう一度胸をなでおろしていれば、カーテンの扉が開きクローヴィスが顔を出す。
「マーガレット。大丈夫?」
彼はいつも通りの柔和な笑みを浮かべてそう問いかけてくる。……眠る前に見た彼の目は、恐ろしいほど欲情していたというのに。今の彼からはそんな表情が全く見えない。
(……なんていうか、不思議)
そんな様子の彼に一抹の寂しさを覚えてしまう。自分だけがひどく意識して、彼からすればあれは所詮薬を抜くための行為だったのだろう。そう思うと胸が痛むような気がした。
「マーガレット?」
マーガレットが返事をしないためか、クローヴィスが怪訝そうな表情でもう一度名前を呼ぶ。そのため、マーガレットはハッとして「だ、大丈夫です!」と慌てて返事をする。
「そ、その、旦那様の方は、もう、大丈夫ですか……?」
毛布を口元まで引き上げながらそう尋ねれば、彼は「うん、もう少しの間安静だけれどね」と肩をすくめながら言う。
「マーガレットのおかげだよ。……本当に、ありがとうね」
にっこりと笑ってそう言われ、マーガレットの顔がカーっと熱くなる。行為の最中に見た彼の艶っぽい表情を思い出してしまって、体中が熱くなるような感覚だった。
(って、一体いつの間に私はこんなにも淫らに……!)
たった一度クローヴィスと交わっただけなのに、マーガレットの身体は彼を求めるようになってしまっていた。それに自分自身で幻滅しながら毛布で顔を隠していれば、彼は「……あと、ごめんね」とゆるゆると首を横に振りながら言う。
「契約的な結婚だったのに、半ば無理やり純潔を奪うような真似をして、本当にごめん」
……謝らないでほしかった。
心の奥底でそう思いながら、マーガレットは「かまいま、せん」と今にも消え入りそうなほど小さな声で言う。
(……もしかして、旦那様にとって私と交わるのは不本意だったの?)
そして、胸の中にそんな女々しい感情が芽生えてしまう。
クローヴィスは自分と交わるのが不本意で、仕方がなく交わったのではないか。そんな想像をすると何故か胸が痛んだ。
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