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第二章

これぞお決まりの展開ですよね?

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「ねぇ、フローラ。旦那様の容態は大丈夫なの?」

 クローヴィスの私室に向かいながら、マーガレットは前を歩くフローラにそう問いかける。そうすれば、彼女は「私の方からは、なんとも……」と言って口を閉ざしてしまう。

(うーむ、何となく嫌な予感がするわねぇ……)

 マーガレットの勘は正確とは言い難い。けれど、何故かこういう嫌な予感はよく当たってしまうのだ。そんな自分に何処となく嫌な気持ちを抱きながら、フローラに連れられクローヴィスの私室の前に立つ。

 クローヴィスの私室はマーガレットの私室と一部屋挟んだ場所にある。その間にある一部屋こそ、夫婦の寝室となっている。まぁ、二人とも私室の寝台を使っているので夫婦の寝室はいわば物置となっているのだが。

「旦那様。フローラです。入ってもよろしいでしょうか?」

 コンコンコンと三回扉をノックし、フローラが室内にそう声をかける。すると、何か物が倒れるような音が部屋の中から聞こえた。その後「……悪いけれど、一人にして」といううごめくような声が聞こえる。

「……どうなさいますか?」

 フローラがマーガレットに意見を求めてくる。フローラの主はクローヴィスであり、彼が「一人にして」と言っている以上、それを尊重するのが仕事である。だからこそ、彼の身に何かがあると確信できない以上突入は出来ない。

 それがわかるからこそ、マーガレットはフローラに「私が、様子を見てくるわ」とゆるゆると首を横に振りながら言う。

「奥様」
「大丈夫よ。ちょっと風邪をもらってきたとかそういうレベルのことだろうし」

 多分、そんな簡単なものではない。マーガレットとてそれはわかっているものの、フローラの心配を和らげるためにそう言うことしか出来なかった。

「ただし、私が許可を出すまで室内に入ってはダメよ」

 それから、追加でそう指示を飛ばす。すると、フローラは一度だけ大きく目を見開くものの、主人の命令には逆らえないと悟ったらしい。「かしこまりました」と言葉をくれる。

「侍医が到着したら、何かがあったときのために待機をお願いしておいて」
「……かしこまりました」

 フローラに素早く指示を飛ばし、マーガレットはクローヴィスの私室の扉を見据える。複雑な模様が彫られた木の扉は普通のものにしか見えない。が、今のマーガレットからすればここは魔王の部屋の前である。

(……本当に、杞憂で済んで頂戴――!)

 そう思い、マーガレットはクローヴィスの私室の扉を開き一歩足を踏み入れた。そのまま、バタンと後ろ手で扉を閉める。

 室内はとても暗かった。灯り一つついておらず、分厚いカーテンで太陽の光が遮られている。そんな中、マーガレットは足元に転がる本を見つけた。軽く魔法で灯りをともし、マーガレットはタイトルを見つめる。

(……『解毒剤』、か)

 タイトルを心の中で読み上げ、マーガレットはソファーに横になるクローヴィスの方に近づいていく。彼の息は荒く、近づけば近づくほどその甘い香りに頭の中がくらくらしそうだ。

(ったく、本当に面倒なことになってるじゃないの――!)

 自分が想像した『最悪なこと』が現実になっていることに気が付き、マーガレットはクローヴィスには感づかれないようにため息をついた。いや、今の彼にマーガレットのことを意識する余裕などないのだろう。

「旦那様」

 そう声をかけ、クローヴィスの目元を覆う腕に軽く触れてみる。そうすれば、彼の身体が露骨にびくんと跳ねた。

 そのまま彼はマーガレットの腕を振り払い「……出て行って」とかすれたような声で告げる。

「……マーガレット、頼むから出て行って」

 先ほどの言葉でも出て行こうとしないマーガレットに追い打ちをかけるようにそう言葉を発する。彼のその目は焦点があっておらず、マーガレットのことを見つめているようで見つめていない。

 対してマーガレットはゆるゆると首を横に振りながら「嫌です」とはっきりと拒否した。

「……どうして」
「どうしてって……私、貴方のことが心配なので様子を見に来たのです」

 肩をすくめながらそう言えば、クローヴィスは「余計なお世話だ」と言う。その声には熱っぽさがこもっている。言葉とは裏腹に全く覇気がなく、今にも消え入りそうなほど小さい。

「……旦那様」

 ゆっくりと彼に手を伸ばせば、クローヴィスにその華奢な手首をつかまれる。その力の弱さにマーガレットの心臓がどくんと音を鳴らした。……やはり、相当危ないらしい。

「出て行って。頼むから、本当に出て行って――」

 どうやら、彼は何処までも人のことを頼りたくない人種らしい。それがわかるからこそ、マーガレットはクローヴィスの自身の手首をつかむ手にもう片方の手を重ねる。

「旦那様。私は、旦那様の妻ですよ?」

 覚悟が決まったような目でクローヴィスのことを見つめれば、彼のその漆黒色の目がマーガレットのことを射貫く。その目にこもった感情は驚きだろうか。

 内心でそう思いながら、マーガレットはクローヴィスのその手を撫でる。ごつごつとした、男性の手だった。

「――私と、身体の関係を持ちましょう」

 そして、マーガレットは何のためらいもなくそう言う。
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