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第一章
うわさの鵜呑みは危険です
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(っていうか、そもそもクローヴィス様がうわさを否定してくださっていたらこんなことにはなっていなかったんじゃない……⁉)
マーガレットは一度クローヴィスにうわさの真意を確かめている。その時、彼は適当にはぐらかしていた。だからこそ、このうわさを信じたというのに。
「クローヴィス様が、あの時否定してくだされば……!」
ボソッとそう言葉を零せば、クローヴィスは「あぁ、俺の方も謝罪するべきだったね」と言葉をくれた。その後「ごめんね、マーガレット」とにこやかな笑みを浮かべて言う。……まったく、反省していない。
「でも、言い訳させてもらうと俺たちは身分的な問題から変なことは出来ないんだ」
それからクローヴィスはそんな言葉を続けた。その言葉を聞いたためか、ジークハルトは「そうなんだよねぇ」と言いながらニコニコと笑っている。
「女遊びなんてもってのほか。女性と一夜を共にすることも……うん、後々面倒なことになるから嫌なんだ」
「……はぁ」
「だから、俺たちは男色家といううわさを否定しなかった。……そうすれば、近づいてくる女性がある程度減るからね」
……どうやら、この二人は自身のあまりよくないうわさもしっかりと利用していたらしい。
それに気が付き、マーガレットは頭が痛くなってしまう。けれど、そうなればいろいろと不可解な点も出てくる。……どうして、クローヴィスはマーガレットと結婚することにしたのだろうか?
「では……その、一つだけ疑問が」
ゆっくりと手を挙げてそう言えば、クローヴィスは「マーガレットと結婚した理由かな?」と言葉を先読みしてくる。そのため、マーガレットは静かに頷いた。
「利害が一致したから、かな」
そして、彼は何のためらいもなくそう言う。……利害の一致。結局、自分はやはり愛されていたわけではないのだ。
「俺の周囲がそろそろ妻を娶れ……ってうるさくてさ。だから、形式だけの妻が欲しかった。……俺に恋愛感情を抱かずに、贅沢もしない。まぁ、いえば弱みを握り合うような関係になりたかった」
彼はニコニコと笑ってそう言うが、言っていることは何とも無茶苦茶だ。
確かにクローヴィスはマーガレットの弱み……というか実家への援助という大切なものを握っている。つまり、彼からすればこの結婚に不満を抱かず、かつ裏切らない人間が欲しかったということらしい。
「……一つだけ言えることがあるとすれば……うん。うわさを鵜呑みにするのは危険だっていうことだよ」
先ほどまで黙り込んでいたジークハルトがけらけらと笑いながらそう言う。……まったくもって、その通りだ。今回のことでそれは身に染みた。そう思いマーガレットがへろへろとソファーの背もたれにもたれかかれば、クローヴィスが「マーガレット」と名前を呼んでくれた。……その声が、何処となく優しい。
「ようやく真意を明かせて、俺はすっきりしたよ。……実はまぁ、俺もいろいろと思うことがあってね」
肩をすくめながらクローヴィスはそう告げる。……一体、何を思うの言うのだ。そういう意味を込めて彼を恨めしく見つめれば、彼は「マーガレットにだけは、真実を明かすかとか悩んだんだ」と言いながら首を横に振る。
「だって、俺たち夫婦だし。……まぁ、契約的なものだけれどね」
その言葉にマーガレットは「……まぁ、そうですね」と返事をするのが精いっぱいだった。
そんなマーガレットを無視して、ジークハルトは「あ、今日の昼食は何?」と素っ頓狂な問いかけをしてくる。
「僕、オルブルヒ公爵家の食事が大好きなんだ。……とっても美味しいからね」
そのまま彼はそう続け、わくわくという言葉が似合うような面持ちになる。それをよそ目に、マーガレットはクローヴィスの言葉を待つ。こういうことはクローヴィスの方がよく知っている。
「今日は焼き鶏とコーンのサラダ。あとはコンソメスープだってさ。フルーツはメロンだ」
「わぁ、僕の好きなメニューだ」
「……っていうか、ジークハルトが来るときはいっつもジークハルトの好きなメニューを用意しているよね?」
「そりゃそうだ」
マーガレットのことを無視して会話を続ける二人の空気は、何処となく朗らかだ。……それに、予想外に仲睦まじい。これならば……うん。
(男色家っていううわさが流れても仕方がないわね……)
内心でそう思い苦笑を浮かべていれば、クローヴィスが不意に「マーガレットはどんな食べ物が好き?」と問うてくる。……なんだ、その質問は。
「私は……そうですねぇ」
野草とか……と言おうとして、口ごもる。少なくともこの二人が野草を食べるとは思えない。そう思いマーガレットは誤魔化すように笑って「と、鶏肉、ですかねぇ……」と言っておいた。
「そっか。じゃあ、今後は鶏肉を使った料理を優先的に出してもらおうかな」
けれど、クローヴィスのその言葉には柄にもなくきゅんとした……ような気がした。我ながら現金だとは思うものの、何事も食べ物には勝てないのである。
マーガレットは一度クローヴィスにうわさの真意を確かめている。その時、彼は適当にはぐらかしていた。だからこそ、このうわさを信じたというのに。
「クローヴィス様が、あの時否定してくだされば……!」
ボソッとそう言葉を零せば、クローヴィスは「あぁ、俺の方も謝罪するべきだったね」と言葉をくれた。その後「ごめんね、マーガレット」とにこやかな笑みを浮かべて言う。……まったく、反省していない。
「でも、言い訳させてもらうと俺たちは身分的な問題から変なことは出来ないんだ」
それからクローヴィスはそんな言葉を続けた。その言葉を聞いたためか、ジークハルトは「そうなんだよねぇ」と言いながらニコニコと笑っている。
「女遊びなんてもってのほか。女性と一夜を共にすることも……うん、後々面倒なことになるから嫌なんだ」
「……はぁ」
「だから、俺たちは男色家といううわさを否定しなかった。……そうすれば、近づいてくる女性がある程度減るからね」
……どうやら、この二人は自身のあまりよくないうわさもしっかりと利用していたらしい。
それに気が付き、マーガレットは頭が痛くなってしまう。けれど、そうなればいろいろと不可解な点も出てくる。……どうして、クローヴィスはマーガレットと結婚することにしたのだろうか?
「では……その、一つだけ疑問が」
ゆっくりと手を挙げてそう言えば、クローヴィスは「マーガレットと結婚した理由かな?」と言葉を先読みしてくる。そのため、マーガレットは静かに頷いた。
「利害が一致したから、かな」
そして、彼は何のためらいもなくそう言う。……利害の一致。結局、自分はやはり愛されていたわけではないのだ。
「俺の周囲がそろそろ妻を娶れ……ってうるさくてさ。だから、形式だけの妻が欲しかった。……俺に恋愛感情を抱かずに、贅沢もしない。まぁ、いえば弱みを握り合うような関係になりたかった」
彼はニコニコと笑ってそう言うが、言っていることは何とも無茶苦茶だ。
確かにクローヴィスはマーガレットの弱み……というか実家への援助という大切なものを握っている。つまり、彼からすればこの結婚に不満を抱かず、かつ裏切らない人間が欲しかったということらしい。
「……一つだけ言えることがあるとすれば……うん。うわさを鵜呑みにするのは危険だっていうことだよ」
先ほどまで黙り込んでいたジークハルトがけらけらと笑いながらそう言う。……まったくもって、その通りだ。今回のことでそれは身に染みた。そう思いマーガレットがへろへろとソファーの背もたれにもたれかかれば、クローヴィスが「マーガレット」と名前を呼んでくれた。……その声が、何処となく優しい。
「ようやく真意を明かせて、俺はすっきりしたよ。……実はまぁ、俺もいろいろと思うことがあってね」
肩をすくめながらクローヴィスはそう告げる。……一体、何を思うの言うのだ。そういう意味を込めて彼を恨めしく見つめれば、彼は「マーガレットにだけは、真実を明かすかとか悩んだんだ」と言いながら首を横に振る。
「だって、俺たち夫婦だし。……まぁ、契約的なものだけれどね」
その言葉にマーガレットは「……まぁ、そうですね」と返事をするのが精いっぱいだった。
そんなマーガレットを無視して、ジークハルトは「あ、今日の昼食は何?」と素っ頓狂な問いかけをしてくる。
「僕、オルブルヒ公爵家の食事が大好きなんだ。……とっても美味しいからね」
そのまま彼はそう続け、わくわくという言葉が似合うような面持ちになる。それをよそ目に、マーガレットはクローヴィスの言葉を待つ。こういうことはクローヴィスの方がよく知っている。
「今日は焼き鶏とコーンのサラダ。あとはコンソメスープだってさ。フルーツはメロンだ」
「わぁ、僕の好きなメニューだ」
「……っていうか、ジークハルトが来るときはいっつもジークハルトの好きなメニューを用意しているよね?」
「そりゃそうだ」
マーガレットのことを無視して会話を続ける二人の空気は、何処となく朗らかだ。……それに、予想外に仲睦まじい。これならば……うん。
(男色家っていううわさが流れても仕方がないわね……)
内心でそう思い苦笑を浮かべていれば、クローヴィスが不意に「マーガレットはどんな食べ物が好き?」と問うてくる。……なんだ、その質問は。
「私は……そうですねぇ」
野草とか……と言おうとして、口ごもる。少なくともこの二人が野草を食べるとは思えない。そう思いマーガレットは誤魔化すように笑って「と、鶏肉、ですかねぇ……」と言っておいた。
「そっか。じゃあ、今後は鶏肉を使った料理を優先的に出してもらおうかな」
けれど、クローヴィスのその言葉には柄にもなくきゅんとした……ような気がした。我ながら現金だとは思うものの、何事も食べ物には勝てないのである。
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