14 / 52
第一章
手のひらの上
しおりを挟む
「――あの貧乏子爵家の令嬢が、僕のクローヴィスにどうやって取り入ったのかな?」
ジークハルトはその目を鋭く細め、マーガレットを吟味するように見つめてくる。
マーガレットはそれに恐れ……るよりも先にジークハルトの発言が気になってしまった。
(……僕のって、ことは……?)
まさかまさかで、二人は本当に恋仲だったのか。そう思い頬が引きつるのを実感しながら、マーガレットは「……取り入った、わけでは」と眉を下げて答える。
「嘘だよね。取り入らないと、あいつが結婚なんて考えられない。だって、僕たち約束したから」
「や、約束とは……?」
「二人の目的が同じである以上、僕たちはずっと独身だっていうこと」
ゆるゆると首を横に振りながらそう言うジークハルトに、マーガレットは内心で「クローヴィス様ぁぁ!」と絶叫してしまった。
(こんな面倒ごとに巻き込まれるんだったら、さっさと断ったわよ!)
恋の邪魔ものになるつもりなどこれっぽっちもなかった。ただ、ちょっと援助に目がくらんだだけだ。そう思いマーガレットが冷や汗をだらだらとかいていれば、ジークハルトは露骨に「はぁ」とため息をつく。
見た目麗しき男性のため息はとても絵になるものだ。けれど、今のマーガレットにそんなことを考える余裕などない。このままだとガチで――殺される。もう、命の危険さえ覚えてしまっている。
「クローヴィスってば、ひどいよねぇ。僕のことを捨てて、一人置いてきぼりにするんだから」
やれやれと言った風にそう零すジークハルトの真っ赤な目が、マーガレットを射貫く。……もう、どうにでもなれ。そんなことを思ってしまい、マーガレットは天井を仰いだ。
「……本当に、キミのことが目障りかも」
その後、ジークハルトはマーガレットの方に近づいてくると、その銀色の髪を優しく撫でる。その手つきには何処となく下心のようなものがこもっているのは気のせいだろうか? いや、きっと気のせいである。だって、彼はクローヴィスのことを愛しているはずなのだから。
「ねぇ、どうせだし――」
――僕と、秘密の関係でも持たない?
耳元でそう囁かれ、マーガレットの頬が一気にぶわっと熱くなった。
(っていうか、男色家同士の恋のスパイスになるならばまだしも、秘密の関係ってどういうことですか⁉)
混乱する頭はそんなことを絶叫する。だが、それは生憎と言っていいのかジークハルトには伝わっていなかったらしく、彼はそのきれいな指先でマーガレットの身体を撫で――その頬に指を押し当てる。
「――ねぇ、口づけしようか」
そう言われ、マーガレットはさらに混乱した。本当に、このジークハルトの思惑がこれっぽっちもわからない。これでも思惑を読み取るのは得意な方だと思ってきた。が、ジークハルトに関してはこれっぽっちもわからない。その所為で、目を回してしまう。
「僕、キミみたいな子も大好きなんだ」
その唇が、どんどんマーガレットに近づいていく。端正な顔が視界いっぱいに広がって……マーガレットはさらに目を回し、頭の上から湯気を放つ。
「そう。そういう子が――」
「――ジークハルト」
唇と唇が触れるほんの寸前。不意にその間に手が入ってくる。それに驚いてその手の持ち主に視線を向ければ――そこには、にっこりと笑ったクローヴィスがいた。
彼はジークハルトとマーガレットの身体を引き離すと、何故かマーガレットの隣に腰掛けてくる。
「あ、あの……?」
これでは、自分がジークハルトに妬まれてしまうじゃないか。そんな不安を抱きクローヴィスのことを憎たらしく見つめれば、彼は「ジークハルト、からかいすぎだ」と彼に注意する。
「……からかう、って?」
もう何も考えたくない。そう思いだらしなくもソファーの背もたれにもたれかかっていれば、ジークハルトのくすくすという笑い声が耳に届いた。
「ごめんごめん。こういう子を見ると、ついついからかいたくなっちゃって」
肩をすくめながら反省した様子もなくジークハルトは謝罪をしてくる。……これは一体、どういう状態なのだろうか?
「ごめんね、マーガレット。ジークハルトはマーガレットみたいな子が大好きなんだ」
首を横に振りながらクローヴィスはそう言う。しかし、それは尚更意味が分からない。だって、ジークハルトはクローヴィスの恋人で――……。
「……この場合、マーガレットには種明かしした方が良いかもね。……あのね、マーガレット。僕とクローヴィスは恋仲でも何でもない。ただの親友だよ」
「え?」
「男色家っていうのは……僕たちがあまりにも仲良くしているから流れちゃったただの噂に過ぎないんだ。……驚かせちゃった、ごめんね?」
いやいやいや、先ほどジークハルトは『僕のクローヴィス』と言ったじゃないか。そんな意味を込めて彼を見つめれば、彼は「キミみたいな純粋な子って、からかいたくなるよねぇ」とけらけらと笑いながら言う。……完全に、彼の手のひらの上だったらしい。
ジークハルトはその目を鋭く細め、マーガレットを吟味するように見つめてくる。
マーガレットはそれに恐れ……るよりも先にジークハルトの発言が気になってしまった。
(……僕のって、ことは……?)
まさかまさかで、二人は本当に恋仲だったのか。そう思い頬が引きつるのを実感しながら、マーガレットは「……取り入った、わけでは」と眉を下げて答える。
「嘘だよね。取り入らないと、あいつが結婚なんて考えられない。だって、僕たち約束したから」
「や、約束とは……?」
「二人の目的が同じである以上、僕たちはずっと独身だっていうこと」
ゆるゆると首を横に振りながらそう言うジークハルトに、マーガレットは内心で「クローヴィス様ぁぁ!」と絶叫してしまった。
(こんな面倒ごとに巻き込まれるんだったら、さっさと断ったわよ!)
恋の邪魔ものになるつもりなどこれっぽっちもなかった。ただ、ちょっと援助に目がくらんだだけだ。そう思いマーガレットが冷や汗をだらだらとかいていれば、ジークハルトは露骨に「はぁ」とため息をつく。
見た目麗しき男性のため息はとても絵になるものだ。けれど、今のマーガレットにそんなことを考える余裕などない。このままだとガチで――殺される。もう、命の危険さえ覚えてしまっている。
「クローヴィスってば、ひどいよねぇ。僕のことを捨てて、一人置いてきぼりにするんだから」
やれやれと言った風にそう零すジークハルトの真っ赤な目が、マーガレットを射貫く。……もう、どうにでもなれ。そんなことを思ってしまい、マーガレットは天井を仰いだ。
「……本当に、キミのことが目障りかも」
その後、ジークハルトはマーガレットの方に近づいてくると、その銀色の髪を優しく撫でる。その手つきには何処となく下心のようなものがこもっているのは気のせいだろうか? いや、きっと気のせいである。だって、彼はクローヴィスのことを愛しているはずなのだから。
「ねぇ、どうせだし――」
――僕と、秘密の関係でも持たない?
耳元でそう囁かれ、マーガレットの頬が一気にぶわっと熱くなった。
(っていうか、男色家同士の恋のスパイスになるならばまだしも、秘密の関係ってどういうことですか⁉)
混乱する頭はそんなことを絶叫する。だが、それは生憎と言っていいのかジークハルトには伝わっていなかったらしく、彼はそのきれいな指先でマーガレットの身体を撫で――その頬に指を押し当てる。
「――ねぇ、口づけしようか」
そう言われ、マーガレットはさらに混乱した。本当に、このジークハルトの思惑がこれっぽっちもわからない。これでも思惑を読み取るのは得意な方だと思ってきた。が、ジークハルトに関してはこれっぽっちもわからない。その所為で、目を回してしまう。
「僕、キミみたいな子も大好きなんだ」
その唇が、どんどんマーガレットに近づいていく。端正な顔が視界いっぱいに広がって……マーガレットはさらに目を回し、頭の上から湯気を放つ。
「そう。そういう子が――」
「――ジークハルト」
唇と唇が触れるほんの寸前。不意にその間に手が入ってくる。それに驚いてその手の持ち主に視線を向ければ――そこには、にっこりと笑ったクローヴィスがいた。
彼はジークハルトとマーガレットの身体を引き離すと、何故かマーガレットの隣に腰掛けてくる。
「あ、あの……?」
これでは、自分がジークハルトに妬まれてしまうじゃないか。そんな不安を抱きクローヴィスのことを憎たらしく見つめれば、彼は「ジークハルト、からかいすぎだ」と彼に注意する。
「……からかう、って?」
もう何も考えたくない。そう思いだらしなくもソファーの背もたれにもたれかかっていれば、ジークハルトのくすくすという笑い声が耳に届いた。
「ごめんごめん。こういう子を見ると、ついついからかいたくなっちゃって」
肩をすくめながら反省した様子もなくジークハルトは謝罪をしてくる。……これは一体、どういう状態なのだろうか?
「ごめんね、マーガレット。ジークハルトはマーガレットみたいな子が大好きなんだ」
首を横に振りながらクローヴィスはそう言う。しかし、それは尚更意味が分からない。だって、ジークハルトはクローヴィスの恋人で――……。
「……この場合、マーガレットには種明かしした方が良いかもね。……あのね、マーガレット。僕とクローヴィスは恋仲でも何でもない。ただの親友だよ」
「え?」
「男色家っていうのは……僕たちがあまりにも仲良くしているから流れちゃったただの噂に過ぎないんだ。……驚かせちゃった、ごめんね?」
いやいやいや、先ほどジークハルトは『僕のクローヴィス』と言ったじゃないか。そんな意味を込めて彼を見つめれば、彼は「キミみたいな純粋な子って、からかいたくなるよねぇ」とけらけらと笑いながら言う。……完全に、彼の手のひらの上だったらしい。
23
お気に入りに追加
2,543
あなたにおすすめの小説
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
【完結】【R18】跡継ぎが生まれたら即・離縁! なのに訳あり女嫌い伯爵さまが甘すぎます!
夏琳トウ(明石唯加)
恋愛
2024.08.29 一度引き下げていましたが、再公開させていただきました。
――
「どうか、俺と契約結婚して跡継ぎを産んでくれ」――女嫌いと有名な上司は、ある日そんな打診をしてきた。
ローゼはシャハナー王国の貧乏な子爵家レーヴェン家の長女であり、王立騎士団に女騎士として所属している。
五人の弟妹たちのために日々身を粉にして働くローゼは、気が付けば結婚適齢期を逃した23歳になっていた。
そんな中、三つ年下の妹エリーに婚約話が持ち上がる。しかし、子爵家に持参金を用意するような財力はない。
エリーは家に迷惑をかけたくないから……と婚約話を断ろうとする。でも、ローゼは彼女には自分のような嫁き遅れになってほしくないと思った。
「姉さんが持参金は何とか用意するから」
そうエリーに告げたものの、あてなどない。
どうしようか……と悩む中、騎士団長である上司イグナーツがローゼの事情を聞きつけてひとつの打診をしてきた。
それこそ――彼と契約結婚をして、跡継ぎを産むということだった。
「跡継ぎが生まれたら、すぐに離縁しても構わない」
そう言われ、ローゼは飛びついた。どうせ嫁き遅れの自分がまともな結婚を出来るとは思えない。ならば、エリーのためにここは一肌脱ごう。
そう決意してイグナーツの元に嫁いだのだが。
「ちょ、ちょっと待ってください!」「いやだ」
彼は何故か契約妻のローゼを甘く溺愛してきて……。
訳あり女嫌いの伯爵さま(28)×貧乏な子爵家の令嬢兼女騎士(23)の契約結婚から始まる、子作りラブ
▼hotランキング 最高2位ありがとうございます♡
――
◇掲載先→アルファポリス、ムーンライトノベルズ、エブリスタ
【R18】寡黙で大人しいと思っていた夫の本性は獣
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
侯爵令嬢セイラの家が借金でいよいよ没落しかけた時、支援してくれたのは学生時代に好きだった寡黙で理知的な青年エドガーだった。いまや国の経済界をゆるがすほどの大富豪になっていたエドガーの見返りは、セイラとの結婚。
だけど、周囲からは爵位目当てだと言われ、それを裏付けるかのように夜の営みも淡白なものだった。しかも、彼の秘書のサラからは、エドガーと身体の関係があると告げられる。
二度目の結婚記念日、ついに業を煮やしたセイラはエドガーに離縁したいと言い放ち――?
※ムーンライト様で、日間総合1位、週間総合1位、月間短編1位をいただいた作品になります。
【R18】騎士団長は××な胸がお好き 〜胸が小さいからと失恋したら、おっぱいを××されることになりました!~
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
「胸が小さいから」と浮気されてフラれた堅物眼鏡文官令嬢(騎士団長補佐・秘書)キティが、真面目で不真面目な騎士団長ブライアンから、胸と心を優しく解きほぐされて、そのまま美味しくいただかれてしまう話。
※R18には※
※ふわふわマシュマロおっぱい
※もみもみ
※ムーンライトノベルズの完結作
クソつよ性欲隠して結婚したら草食系旦那が巨根で絶倫だった
山吹花月
恋愛
『穢れを知らぬ清廉な乙女』と『王子系聖人君子』
色欲とは無縁と思われている夫婦は互いに欲望を隠していた。
◇ムーンライトノベルズ様へも掲載しております。
スパダリ猟犬騎士は貧乏令嬢にデレ甘です!【R18/完全版】
鶴田きち
恋愛
★初恋のスパダリ年上騎士様に貧乏令嬢が溺愛される、ロマンチック・歳の差ラブストーリー♡
★貧乏令嬢のシャーロットは、幼い頃からオリヴァーという騎士に恋をしている。猟犬騎士と呼ばれる彼は公爵で、イケメンで、さらに次期騎士団長として名高い。
ある日シャーロットは、ひょんなことから彼に逆プロポーズしてしまう。オリヴァーはそれを受け入れ、二人は電撃婚約することになる。婚約者となった彼は、シャーロットに甘々で――?!
★R18シーンは第二章の後半からです。その描写がある回はアスタリスク(*)がつきます
★ムーンライトノベルズ様では第二章まで公開中。(旧タイトル『初恋の猟犬騎士様にずっと片想いしていた貧乏令嬢が、逆プロポーズして電撃婚約し、溺愛される話。』)
★エブリスタ様では【エブリスタ版】を公開しています。
★「面白そう」と思われた女神様は、毎日更新していきますので、ぜひ毎日読んで下さい!
その際は、画面下の【お気に入り☆】ボタンをポチッとしておくと便利です。
いつも読んで下さる貴女が大好きです♡応援ありがとうございます!
禁断の愛~初恋の人が義父になりました~
ほのじー
恋愛
国王の従姉である母が若くて格好いい外交官と再婚したのだが、母が亡くなってしまい、メアリーは義父と二人の生活となる。大好きなパパへの恋心に気付きながら十六歳を迎えるが、義父はメアリーをいつまでも子供扱いで!?
※一日一話、週末余裕があれば二話投稿予定
※R18は☆を付けています
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる