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第一章
朝の仕度
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ゆっくりと目を覚ます。ずきずきと痛む頭を押さえながらマーガレットは寝台から身体を起こした。
寝台の隣にあるテーブルの上に置いてある時計の針が示しているのは、朝の六時半。言われた通りの時間帯だ。
そのままちりんと侍女を呼ぶベルを鳴らせば、即座にジビレがやってきた。彼女は深々と頭を下げると「おはようございます、奥様」と声をかけてくれる。その後、ほかの侍女たちが温かいお湯が入った洗面器を持ってきてくれる。
「どうぞ、お顔を洗ってくださいませ」
侍女はにこやかに笑いながらそう言う。……あぁ、そういえば貴族の女性とは部屋までお湯を運んでもらうのだったか。不意にそんなことを思いだし、マーガレットは「あ、ありがとう」と少しぎこちなく笑う。
(子爵家にいた頃は自分のことは全部自分でしていたから、驚いてしまったわ……)
そう思いながらお湯で顔を洗い、清潔なタオルで顔を拭く。その後、侍女たちは「では、お着替えをしましょうか」と言うとてきぱきと動き出す。
彼女たちは部屋の中扉を開け、その中から豪奢な衣服を取り出してくる。……てっきり、中扉かと思っていたがどうやらあそこはクローゼットだったらしい。
(いや、それにしても多すぎない⁉)
クローヴィスはマーガレットに苦労させないようにと、衣装の類もたくさん用意してくれると言っていた。けれど、さすがにこの量はない。さらにいえば、クローゼットは広そうなのでまだまだあるのだろう。……子爵家にいた頃では、考えられない。
「奥様。本日のお召し物はどうなさいますか?」
ジビレはそう問うてくるが、マーガレットからすれば何が何だかわからない。そう思い、顔が引きつるのを実感しながら「お、お任せで……」と震える声で告げた。
そうすれば、侍女たちが一斉に張り切りだす。そのままもみくちゃにされ、軽い化粧を施され、髪の毛をセットされ。マーガレットはクローヴィスが待つという食堂へと向かうことになった。
食堂の場所はいまいちよく分からないので、ジビレが案内してくれるということだった。彼女はマーガレットに声をかけてくることはなく、淡々と歩いている。その態度を何処か好ましく思いながらも、マーガレットは彼女について歩く。
それから三分ほど歩いた頃だろうか。ジビレは「こちらでございます」と言って一つの豪華絢爛な扉に視線を向ける。……確かに、一目見て食堂だとわかるかもしれない。内心でそう思いながら、マーガレットはにこやかな笑みを浮かべ「覚えたわ」と言う。
実際、マーガレットの記憶力はかなりのものである。些細なことならば簡単に覚えられるし、屋敷の部屋の配置などは割と覚えるのが得意だと思っている。
そんなマーガレットに対し一礼をし、ジビレは食堂の扉を開けてくれた。そのため、マーガレットはそちらに一歩を踏み入れる。
食堂はとても広々としていた。長方形の巨大なテーブルが中央に置いてあり、その傍に十を超える量の椅子が並べられている。暖炉からはぱちぱちという心地の良い音が聞こえ、壁には歴代の公爵家の当主なのか男性の肖像画が飾られていた。その数、八枚。
そして、マーガレットから見て食堂の一番奥の席にクローヴィスはいた。彼はマーガレットを見つめ「おはよう」とにこやかな笑みを浮かべる。
「お、おはよう、ございます……」
ワンピースのスカート部分の端をつまみ、マーガレットは一礼をする。そうすれば、クローヴィスは「夫婦なんだから、かしこまらないでほしいな」と告げ、マーガレットに椅子に腰かけるようにと指示をくれた。
「しかしまぁ、驚いたよ」
マーガレットが椅子に腰かけたのを見て、クローヴィスはくすくすと笑いながらそう言葉を発する。その言葉にマーガレットが疑問符を浮かべていれば、彼は「昨日は疲れただろうから、今日は起きてこないと思っていたんだ」と言いながら肩をすくめる。
「……まぁ、挙式やら披露宴やらで、とても疲れましたけれど……」
「そうだろう? 俺もいつも以上に疲れちゃってね。……久々に寝坊しそうになったよ」
そんなことを言う割には、彼の装いはきっちりとしたものだし寝坊しそうになったという面影はない。
(それにしても、やっぱりクローヴィス様って美形ねぇ……)
昨日よりはラフな装いではあるものの、彼の装いはとてもしっかりとしたものだ。朝の仕度の途中に聞いたのだが、今日は屋敷に客人が来る予定だそうだ。そのため、一応マーガレットもしっかりとした装いを……と言われたのをよく覚えている。
「そういえば、本日は来客があると聞いております」
どうせならば、それを会話の種にしよう。そう判断しマーガレットがそう言えば、クローヴィスは「そうだよ」とニコニコと笑いながら告げる。
「俺の友人が結婚祝いに来てくれるそうでね。……個人的に祝いたいからと、昨日は披露宴に参加しなかったんだ」
「そうなの、ですね」
確かに披露宴は自由参加である。なので、参加しないということもあり得る。けれど、大体の貴族はコネを作るために参加する。……参加しないなど、相当何かがあるに違いない。
寝台の隣にあるテーブルの上に置いてある時計の針が示しているのは、朝の六時半。言われた通りの時間帯だ。
そのままちりんと侍女を呼ぶベルを鳴らせば、即座にジビレがやってきた。彼女は深々と頭を下げると「おはようございます、奥様」と声をかけてくれる。その後、ほかの侍女たちが温かいお湯が入った洗面器を持ってきてくれる。
「どうぞ、お顔を洗ってくださいませ」
侍女はにこやかに笑いながらそう言う。……あぁ、そういえば貴族の女性とは部屋までお湯を運んでもらうのだったか。不意にそんなことを思いだし、マーガレットは「あ、ありがとう」と少しぎこちなく笑う。
(子爵家にいた頃は自分のことは全部自分でしていたから、驚いてしまったわ……)
そう思いながらお湯で顔を洗い、清潔なタオルで顔を拭く。その後、侍女たちは「では、お着替えをしましょうか」と言うとてきぱきと動き出す。
彼女たちは部屋の中扉を開け、その中から豪奢な衣服を取り出してくる。……てっきり、中扉かと思っていたがどうやらあそこはクローゼットだったらしい。
(いや、それにしても多すぎない⁉)
クローヴィスはマーガレットに苦労させないようにと、衣装の類もたくさん用意してくれると言っていた。けれど、さすがにこの量はない。さらにいえば、クローゼットは広そうなのでまだまだあるのだろう。……子爵家にいた頃では、考えられない。
「奥様。本日のお召し物はどうなさいますか?」
ジビレはそう問うてくるが、マーガレットからすれば何が何だかわからない。そう思い、顔が引きつるのを実感しながら「お、お任せで……」と震える声で告げた。
そうすれば、侍女たちが一斉に張り切りだす。そのままもみくちゃにされ、軽い化粧を施され、髪の毛をセットされ。マーガレットはクローヴィスが待つという食堂へと向かうことになった。
食堂の場所はいまいちよく分からないので、ジビレが案内してくれるということだった。彼女はマーガレットに声をかけてくることはなく、淡々と歩いている。その態度を何処か好ましく思いながらも、マーガレットは彼女について歩く。
それから三分ほど歩いた頃だろうか。ジビレは「こちらでございます」と言って一つの豪華絢爛な扉に視線を向ける。……確かに、一目見て食堂だとわかるかもしれない。内心でそう思いながら、マーガレットはにこやかな笑みを浮かべ「覚えたわ」と言う。
実際、マーガレットの記憶力はかなりのものである。些細なことならば簡単に覚えられるし、屋敷の部屋の配置などは割と覚えるのが得意だと思っている。
そんなマーガレットに対し一礼をし、ジビレは食堂の扉を開けてくれた。そのため、マーガレットはそちらに一歩を踏み入れる。
食堂はとても広々としていた。長方形の巨大なテーブルが中央に置いてあり、その傍に十を超える量の椅子が並べられている。暖炉からはぱちぱちという心地の良い音が聞こえ、壁には歴代の公爵家の当主なのか男性の肖像画が飾られていた。その数、八枚。
そして、マーガレットから見て食堂の一番奥の席にクローヴィスはいた。彼はマーガレットを見つめ「おはよう」とにこやかな笑みを浮かべる。
「お、おはよう、ございます……」
ワンピースのスカート部分の端をつまみ、マーガレットは一礼をする。そうすれば、クローヴィスは「夫婦なんだから、かしこまらないでほしいな」と告げ、マーガレットに椅子に腰かけるようにと指示をくれた。
「しかしまぁ、驚いたよ」
マーガレットが椅子に腰かけたのを見て、クローヴィスはくすくすと笑いながらそう言葉を発する。その言葉にマーガレットが疑問符を浮かべていれば、彼は「昨日は疲れただろうから、今日は起きてこないと思っていたんだ」と言いながら肩をすくめる。
「……まぁ、挙式やら披露宴やらで、とても疲れましたけれど……」
「そうだろう? 俺もいつも以上に疲れちゃってね。……久々に寝坊しそうになったよ」
そんなことを言う割には、彼の装いはきっちりとしたものだし寝坊しそうになったという面影はない。
(それにしても、やっぱりクローヴィス様って美形ねぇ……)
昨日よりはラフな装いではあるものの、彼の装いはとてもしっかりとしたものだ。朝の仕度の途中に聞いたのだが、今日は屋敷に客人が来る予定だそうだ。そのため、一応マーガレットもしっかりとした装いを……と言われたのをよく覚えている。
「そういえば、本日は来客があると聞いております」
どうせならば、それを会話の種にしよう。そう判断しマーガレットがそう言えば、クローヴィスは「そうだよ」とニコニコと笑いながら告げる。
「俺の友人が結婚祝いに来てくれるそうでね。……個人的に祝いたいからと、昨日は披露宴に参加しなかったんだ」
「そうなの、ですね」
確かに披露宴は自由参加である。なので、参加しないということもあり得る。けれど、大体の貴族はコネを作るために参加する。……参加しないなど、相当何かがあるに違いない。
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