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第1章

第10話

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「だ、だめ、だめ……」

 弱々しい声で、拒否する。

 瞬間、私の乳房を掴む彼の手の力が強くなった。

 さらには、彼の顔が私の耳元に近づくのがわかってしまう。

「嘘、言わないでください」

 まるで私の心の奥底も見透かしているような言葉だと思った。

 自然とごくりと息を呑んで、指先に力がこもる。……あぁ、ダメだ。

(気持ちいい……)

 なんだろう。私の気持ちがあっさりと陥落してしまいそうだった。

「可愛いですね。昨夜もとっても可愛かったんですけど、明るい場所で見るともっと可愛いです」
「……ぁ」

 丁寧なのに、確かな欲を孕んだ声。

 お腹の奥底がゾクゾクとする。この感覚は、身体の奥底に染みついている。

「杏珠さん。……許可、してください」

 ……彼は、私が許可を出さなければ抱こうとはしないだろう。

 本当に拒否すれば、諦めてくださるだろう。ただ、なんだろうか。このまま続けてほしいって思う気持ちもある。

「ぁ、あっ、た、すく、さん……」

 何処か上ずったような声で彼を呼んで、彼のほうに顔を向けて。

 彼の目に映る私自身を、見せつけられる。……無理、恥ずかしい。

「どうしました?」
「……も、っと」

 口から望んでいない言葉が零れる。

 違う。私の心は本当は望んでいるんだ。嫌と言うほどに思い知らされて、零れる吐息が荒くなって。

 なんだか不思議と脚ががくがくと震える。

「……そう、ですか」

 彼が嬉しそうにそう呟いて、私の乳首をつまみ上げる。

 ぎゅってされて、指の腹でぐりぐりって刺激されて。爪で引っかかれて。

 小さな快感に翻弄されて、おかしくなりそうな私の身体。

「ぁ、あっ」
「杏珠さんって、本当に可愛い」

 私のつむじにキスを落とした彼が、色っぽく囁く。

「昨夜はちょっと無理させちゃったんで……その、本当は、我慢するつもりだったんです」

 ……ちょっと無理って、一体何度やったんだろうか?

 そういうことは、怖くて聞けない。

「けど、あなたが朝からあんまりにもきれいで……やっぱり、我慢できなくて」

 きれいとか、美しいとか、可愛いとか。

 男の人に言われても今までなんとも思わなかった……のに。

(好みの人だと、こんなにも違うものなの――?)

 それに戸惑っていれば、洗面台の上に置いていた私のスマホがぶるると震える。

「……電話、ですか?」

 丞さんにそう問いかけられて、私はゆるゆると首を横に振る。

「め、っせーじ……」

 これはメッセージアプリの通知音だ。こんな朝からメッセージを送ってくるのは、一人しかいない。

 ……お母さんだ。

「そう、ですか」

 彼の声が何処か沈んだ。

「その、心配されているのなら……」
「だ、いじょうぶ、です」

 どうしてこう返事をしたのかは、わからない。

 だって、ここで肯定すれば角が立たずに断れたのに。

「……あの、もっと、したい、です」

 どうして私の口がそんな言葉を紡いだのか。それは生憎――私自身にもわからなかった。
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