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第1章
第8話
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(えっと、どうしよう。ここは、スルーして帰るべき?)
自分のスマホをタップする。ディスプレイに映った時間は、午前五時。すごく、中途半端だ。
「というか、一度帰って出社するの、間に合うの……?」
本当に最悪だ。これが休日だったら……と思って、私は項垂れる。
そうしていれば、ふと隣から音が聞こえる。もぞもぞと動いたような音で、恐る恐るそちらに視線を向けた。
「あぁ、杏珠さん。おはようございます」
「お、おはよう、ございます……」
頬を引きつらせつつ、冷静を装ってそう返す。
……って、おはようございますじゃない!
(時間的にはおはようで間違いないんだけど)
そういう問題じゃないけれど、現実逃避だ、現実逃避。
(唯一幸運なことがあるとすれば、今、私が一人暮らしであるということくらいか……)
普段はお母さんと二人で暮らしているのだけれど、今お母さんはわけあって入院中。そのため、私が家に帰らなくても不審に思う人はない。……不幸中の幸いだ。
「……杏珠さん?」
副社長……丞さんが私の名前を呼んでこられる。
ぴくりと肩を跳ねさせて、彼のほうに顔を向ける。彼は寝癖がついた頭を掻きつつ、私を見つめる。
「なにか、連絡でもありましたか?」
「い、いえいえ、そういうわけでは!」
慌ててスマホのディスプレイを暗くして、曖昧に笑う。
というか、今の格好がいただけないような気もする。
「あの、えぇっと。服、着てきます……!」
私は慌ててベッドから下りて、散らばる衣服を拾い上げる。なんだろうか。……こういうシチュエーション自体が初めてなので、どういう反応をすればいいかがわからない。
(シチュエーション自体じゃない、か。……私、男の人とこういう風になるのハジメテだし)
理想を貫きすぎた結果、処女を貫いていた。あれ、ということは、私のハジメテの人って丞さんになる……の、か?
(うぅ、本当、好みド真ん中だから許せてしまう……!)
記憶がないのが、ちょっと悲しい。
私がどういうことを言ったとか、どういう態度だったとか。そういうのは蘇ってこないでいいから、彼の肉体美だけは蘇ってきてほしい。……都合がいいか。
そう思いつつ衣服と下着を集める。そのまま逃げるようにバスルームに入って、扉を閉めた。
「これ、感じ悪くなかったよね……?」
とくとくと早足に音を鳴らす心臓。その音を感じつつ、私はそう呟いた。
そうだ。私の処女云々よりも、今後も彼と顔を合わせるのだ。気まずくならないようにせねばならない。
「一夜だけの関係でも、別に私は良いんだけど……」
……本心ではそれは嫌だって思ってる。でも、丞さんほどの人になれば、より取り見取りだ。
なにも私を選ぶ必要なんてない。それだけは、わかる。
そんなことを考えて、私はショーツを履いて、ふと気が付く。
「もしかして、ブラ忘れた……?」
今更この格好で戻るの、気まずい……。
でも、戻らなくちゃ。ブラウスだけ着るかな。
そんなことを考えていると、扉がノックされる。私は慌てて返事をする。
「は、はい!」
上ずったような声だった。緊張がこれでもかというほどに伝わる声で、なんだか恥ずかしい。
そんな私を他所に、扉が開いて丞さんが顔を見せる。
「その、あんまり、こういうの持ってくるのどうかと思ったんですけど……」
彼が気まずそうに視線を逸らして、ぶっきらぼうに私に手を差し出す。そこには、私のブラがあった。
自分のスマホをタップする。ディスプレイに映った時間は、午前五時。すごく、中途半端だ。
「というか、一度帰って出社するの、間に合うの……?」
本当に最悪だ。これが休日だったら……と思って、私は項垂れる。
そうしていれば、ふと隣から音が聞こえる。もぞもぞと動いたような音で、恐る恐るそちらに視線を向けた。
「あぁ、杏珠さん。おはようございます」
「お、おはよう、ございます……」
頬を引きつらせつつ、冷静を装ってそう返す。
……って、おはようございますじゃない!
(時間的にはおはようで間違いないんだけど)
そういう問題じゃないけれど、現実逃避だ、現実逃避。
(唯一幸運なことがあるとすれば、今、私が一人暮らしであるということくらいか……)
普段はお母さんと二人で暮らしているのだけれど、今お母さんはわけあって入院中。そのため、私が家に帰らなくても不審に思う人はない。……不幸中の幸いだ。
「……杏珠さん?」
副社長……丞さんが私の名前を呼んでこられる。
ぴくりと肩を跳ねさせて、彼のほうに顔を向ける。彼は寝癖がついた頭を掻きつつ、私を見つめる。
「なにか、連絡でもありましたか?」
「い、いえいえ、そういうわけでは!」
慌ててスマホのディスプレイを暗くして、曖昧に笑う。
というか、今の格好がいただけないような気もする。
「あの、えぇっと。服、着てきます……!」
私は慌ててベッドから下りて、散らばる衣服を拾い上げる。なんだろうか。……こういうシチュエーション自体が初めてなので、どういう反応をすればいいかがわからない。
(シチュエーション自体じゃない、か。……私、男の人とこういう風になるのハジメテだし)
理想を貫きすぎた結果、処女を貫いていた。あれ、ということは、私のハジメテの人って丞さんになる……の、か?
(うぅ、本当、好みド真ん中だから許せてしまう……!)
記憶がないのが、ちょっと悲しい。
私がどういうことを言ったとか、どういう態度だったとか。そういうのは蘇ってこないでいいから、彼の肉体美だけは蘇ってきてほしい。……都合がいいか。
そう思いつつ衣服と下着を集める。そのまま逃げるようにバスルームに入って、扉を閉めた。
「これ、感じ悪くなかったよね……?」
とくとくと早足に音を鳴らす心臓。その音を感じつつ、私はそう呟いた。
そうだ。私の処女云々よりも、今後も彼と顔を合わせるのだ。気まずくならないようにせねばならない。
「一夜だけの関係でも、別に私は良いんだけど……」
……本心ではそれは嫌だって思ってる。でも、丞さんほどの人になれば、より取り見取りだ。
なにも私を選ぶ必要なんてない。それだけは、わかる。
そんなことを考えて、私はショーツを履いて、ふと気が付く。
「もしかして、ブラ忘れた……?」
今更この格好で戻るの、気まずい……。
でも、戻らなくちゃ。ブラウスだけ着るかな。
そんなことを考えていると、扉がノックされる。私は慌てて返事をする。
「は、はい!」
上ずったような声だった。緊張がこれでもかというほどに伝わる声で、なんだか恥ずかしい。
そんな私を他所に、扉が開いて丞さんが顔を見せる。
「その、あんまり、こういうの持ってくるのどうかと思ったんですけど……」
彼が気まずそうに視線を逸らして、ぶっきらぼうに私に手を差し出す。そこには、私のブラがあった。
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