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第1章

第6話

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 その後、私が副社長を連れてやってきたのは、小さな個人経営の居酒屋だった。

 扉をくぐれば、見知った店員の女性が駆けてきてくれる。

「あら、香坂さん。いらっしゃい」
「突然ごめんなさい。……奥のお部屋、空いてる?」

 この居酒屋には奥に個室が一室だけある。そこならば、ゆっくりと食事も出来るだろうと思ったのだ。

「空いてますよ。準備してきますので、少し待っててください」
「うん、よろしく」

 彼女を送りだせば、副社長が私の隣に並ばれた。

 ……並べば余計になんというか、彼の背丈の高さを実感してしまう。

「ここ、よく来るんですか?」

 彼がそう問いかけてくる。なので、私は頷いた。

「はい。ここ、私の親戚が経営しているんです」

 親戚……と言っても、そこまで近いものじゃない。

 ただ、幼少期に度々遊んでもらった『親戚のお姉ちゃん』が旦那さんと経営している。だから、よく来るのだと。

 そう説明すれば、副社長は大きく頷いてくれた。

「その、なんでしょうか。こういう場所でも、大丈夫でしょうか……?」

 なんだか今更不安になって、そう問いかけてみる。副社長はきょろきょろと店内を見ているようだけれど、しばらくして私に視線を向けてこられた。

「俺は別に、何処でもいいので。お任せしたのは俺なので、何処に連れていかれても文句を言うつもりはなかったです」
「……そうですか」

 ただ、なんだか。少し困ったような表情をされているのは気のせいだろうか?

(さすがに、大企業の御曹司を連れてくるには、庶民的過ぎた……かな?)

 とはいっても、居酒屋なんてあんまり知らないし……。

 だって、さすがに居酒屋で会食なんてないんだもの。

「奥のほう、準備出来ました。案内しますね、どうぞ」

 私が考え込んでいれば、女性が戻ってくる。そのため、私は副社長と並んで彼女について歩いた。


 奥の個室に入って、私はメニューを見て注文をする。

 副社長にはお酒と食べたいものを選んでもらって、それに追加でおススメなんかを注文する。

 女性が出て行けば、この場には二人きりになった。

「……その、なんていうか、意外ですね」

 しばらくして、副社長がそう言葉を零された。……意外。

「香坂さんって、お綺麗なのでもっとこう……おしゃれな場所に行くのかと」

 彼のお言葉に、からかいの色は含まれていない。多分、心の底からそう思っているのだろう。

 ……悪い気はしない。だって、何度もいうように彼は私の好みド真ん中なのだから。

「個人的主観で申し訳ないのですが、おしゃれなお店って割と高いじゃないですか」

 そりゃあ、おしゃれなお店でリーズナブルなところだってあるとは思う。ただ、うん。私の知っているおしゃれなお店は、とても高級な場所ばかりなのだ。

 ……会食のためにお店を探すから、それはそれで当然なのかもしれないけれど。

「私は、その。……節約が趣味みたいなものなので」

 あと、二週に一度飲みに行くのが楽しみ。……もちろん、同性と。

 それは心の中だけで付け足して、私はメニュー表を元の場所に戻した。

「その、副社長は、こういう場所で本当に大丈夫でしたか?」

 さすがに店員さんの前では本音を言えないだろうから。

 その一心で問いかけてみる。副社長は、きょとんとされていた。

「別に俺は。……あなたと一緒だったら、それでいいです」

 かといって。そのお言葉はさすがにないだろう。勘違い、してしまいそうになる。

「そ、そうですか。……まぁ、よかったです」

 後半は聞こえないように本当に小声でつぶやいた。

 そうしていれば、先ほどの女性がお酒を持ってきてくれる。

 私は自分のレモンサワーを受け取る。副社長はハイボールらしかった。

「……あと、こんなことを言ってはなんですが。香坂さんに一つお願いが」

 彼はハイボールを一口飲んで、意を決したようにそうおっしゃった。……お願い。
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