【R18】男嫌いと噂の美人秘書はエリート副社長に一夜から始まる恋に落とされる。

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1章

第2話

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「香坂さん。こちらが、甥っ子の丞だ」
「初めまして。真田 丞です」

 社長の隣に立っている男性が、軽く頭を下げてそう名乗られる。

 百八十は余裕で超えているであろう高い背丈。体格はがっしりとしていて、筋肉質。声は男性の中でも低い部類だと思う。

 顔立ちは精悍で、短く切りそろえられた髪が特徴的な人。

 ……私の意識は彼にくぎ付けになってしまう。

 自然と、ごくりと息を呑んでしまった。

(え、な、なに、このお人……)

 どういう反応をするのが正解なのだろうか。

 頭の中で葛藤して、戸惑って。表情には出さないまま慌てふためく私。

 社長が、こほんと咳ばらいをしたのがわかった。だから、私は慌てて背筋を正す。

「香坂 杏珠と申します。秘書課に所属しております」

 きちんと自己紹介が出来ただろうか?

 子供のような心配を抱く私に、社長が笑いかけてくれる。

「丞はこんな顔だが、心は優しい奴だ。……初めて見る人は、大体圧倒されるしね」
「……うるさいです、叔父さん」

 どうやら、社長は私がぼうっとしたのは、甥っ子さんのお顔に圧倒されたと思ってくださったらしい。

 ……ある意味、正解なのだけれど。ただ、理由が違う。全然違う。

「というわけだ。丞には明日から業務にあたってもらうとして、今日は本社ビルの見学でも……と思っていてね。香坂さん、案内役を頼めるかい?」

 なんてことない風に、社長がそう問いかけてこられる。

 あ、案内役……。普段ならば、特に考えることなく引き受けただろう。

 でも、けど。

(いいえ、私は社会人なのよ。それに、そんな好き嫌いでお仕事を選べるような立場ではないじゃない)

 それに、今後は社長の甥っ子さんと一緒に業務にあたるのだ。今のうちに、少しくらい慣れておくのは必要だと思う。

 そう思って、私は静かに頷いた。

「そうかい。では、丞。今日のところは香坂さんに従ってくれ。香坂さん、頼むよ」
「は、はい」

 それだけをおっしゃって、社長がにっこりと笑われた。

 これは、もうお話は終わりということだろう。それを悟って、私は社長の甥っ子さん……副社長に視線を向ける。

 私は女性としては長身の部類で、百七十手前ほどの背丈がある。なのに、そんな私でも見上げなければならないほどの長身。

(学生時代はスポーツをやっていらっしゃったのよね。なに、なさっていたのかしら?)

 社長にある程度の情報はいただいていたので、会話のネタに困ることはなさそうだ。

 問題があるとすれば……やっぱり、私の態度。この動揺を、いかにして隠すか。そこが焦点。

「では、副社長、行きましょうか」

 さすがに社長の甥っ子さんと呼ぶことは出来なくて、私は副社長と呼ぶことにした。

 彼は返事とばかりに頷かれる。……あまり、口数の多いお人ではない……そうだ。

 社長室を出て、私は彼に視線を向ける。心臓がとくとくと早足になっている。ダメだ、冷静にならなくちゃ。

「……香坂さん」

 自分自身にそう言い聞かせていれば、ふと副社長に名前を呼ばれた。

 驚いて勢いよく振り返って……首が痛かった。

 自然と首を押さえる私を見て、副社長が「大丈夫ですか?」と声をかけてくださった。

「……その、すみません。俺の図体がでかいばかりに……」
「い、いえ、今後、気を付ければいいので……」

 じんじんと痛む首を押さえつつ、私はぎこちない笑みを向けた。

 ……今後、気を付けよう。心に強くそう誓う。
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