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第1章
第1話
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『秘書課の香坂 杏珠は男性が嫌いだ』
そんな噂が流れ始めたのは、一体いつからだっただろうか。
記憶にある限り、入社して一年すればそう言われていたような気がする。
別に男性が嫌いなわけじゃない。ただ、私は自分の理想を妥協できないだけ。
彼氏にするならば、絶対に筋肉のついたスポーツマンが良い!
その理想を壊すことなく、二十六年間生きて来た。結果、見事な拗らせ女が誕生。
年齢イコール彼氏いない歴なのは、ある意味当然だと思う。あと、処女なのも、仕方がないと思う。
別にそれを悲観しているわけではない。ただ、そう。そろそろ、自分の理想の人が現れてくれてもいいんじゃないか。そんなことを思って、願って。神さまって意地悪だなぁとか思って。
そういう風に考えて。最近では少し妥協しようかと思っては、やっぱり妥協なんて出来ないと思い直して。
挙句、母についてしまった『とある嘘』をいつ撤回しようかと思って、これまた頭を抱えていたとき。
私は自身が勤める真田ホールディングスの社長である、真田 直樹さんに呼び出された。
「香坂さん。突然来てもらって、悪いね」
社長は簡単に言えば気のいいおじさんである。身なりにも気を遣っているらしく、『ダンディなおじさま』という言葉が似合う。
ただ、色々と思うことがあって独身を貫かれている。まぁ、その思うことというのは、一社員でしかない私にはわからないのだけれど。
「いえ、なにか、専務にお伝えすることがあるのでしょうか?」
このときの私は、専務の秘書だった。だから、専務に伝言でもあるのか……と思っていたのに。
「そういうわけじゃないよ。ただ、香坂さんにお願いがあるだけなんだ」
社長はゆるゆると首を横に振って、そう言う。
……お願い。見当もつかない。
「実は、今度兄の息子……私から見て甥っ子を本社に呼び戻そうと思うんだ」
「……甥っ子さん、ですか?」
「あぁ、そうだ。私は彼を後継者にしたいと思っていてね」
大きく頷いて、社長が真剣な眼差しのままそう言う。
社長の甥っ子さんについては、度々耳に挟んでいた。二十代後半で、大学卒業後は地方の支社を回っているとか、なんとか。
「正直、副社長である私の兄は役には立たなくてね。甥っ子のほうがよっぽど役に立つ」
「……まぁ、それは」
言葉は濁したけれど、それは間違いないと思う。
社長のお兄さん……現在の副社長は、研究にしか興味がないような人だ。
そのため、社長の立場を弟に譲ったという噂もあるくらい。
「だから、呼び戻すことにしたんだが。香坂さん。甥っ子を秘書としてサポートしてくれないだろうか?」
けど、その提案は予想外だった。
「ベテランに任せてもいいんだが、やっぱり同年代のほうがなにかと話しやすいかと思ってね」
まぁ、そりゃあ、そうかもしれない。ただ、私に務まるかどうかが、不安だった。
「ですが、私はまだ経験不足……」
「若手なのだから、経験不足は当然だろう。今から学んでいけばいい」
社長は年功序列があまり好きではない。有能ならば、若手にも重要な仕事を割り振ってくれるような人だ。
その社長に、見込まれているんだ。……そう思ったら、なんだかちょっと嬉しい。
「どうだろうか? お願いできるか?」
真剣な眼差しで見つめられて、そう問いかけられた。
……私は、少し迷って頷く。
「私で、よろしければ」
「そうか。では、専務の秘書の役割は佐原さんに引き継いでくれ」
「かしこまりました」
佐原とは、私の一つ下の後輩。明るくて話しやすいけれど、ちょっとドジな子だ。
「三週間ほどしたら、甥っ子はこっちに来る。その際に、早めに紹介しよう」
「はい。よろしくお願いいたします」
そんな会話を社長と交わしたのが、二十日ほど前。これから二十日後。私は、副社長となる真田 丞さんと、出逢った。
そんな噂が流れ始めたのは、一体いつからだっただろうか。
記憶にある限り、入社して一年すればそう言われていたような気がする。
別に男性が嫌いなわけじゃない。ただ、私は自分の理想を妥協できないだけ。
彼氏にするならば、絶対に筋肉のついたスポーツマンが良い!
その理想を壊すことなく、二十六年間生きて来た。結果、見事な拗らせ女が誕生。
年齢イコール彼氏いない歴なのは、ある意味当然だと思う。あと、処女なのも、仕方がないと思う。
別にそれを悲観しているわけではない。ただ、そう。そろそろ、自分の理想の人が現れてくれてもいいんじゃないか。そんなことを思って、願って。神さまって意地悪だなぁとか思って。
そういう風に考えて。最近では少し妥協しようかと思っては、やっぱり妥協なんて出来ないと思い直して。
挙句、母についてしまった『とある嘘』をいつ撤回しようかと思って、これまた頭を抱えていたとき。
私は自身が勤める真田ホールディングスの社長である、真田 直樹さんに呼び出された。
「香坂さん。突然来てもらって、悪いね」
社長は簡単に言えば気のいいおじさんである。身なりにも気を遣っているらしく、『ダンディなおじさま』という言葉が似合う。
ただ、色々と思うことがあって独身を貫かれている。まぁ、その思うことというのは、一社員でしかない私にはわからないのだけれど。
「いえ、なにか、専務にお伝えすることがあるのでしょうか?」
このときの私は、専務の秘書だった。だから、専務に伝言でもあるのか……と思っていたのに。
「そういうわけじゃないよ。ただ、香坂さんにお願いがあるだけなんだ」
社長はゆるゆると首を横に振って、そう言う。
……お願い。見当もつかない。
「実は、今度兄の息子……私から見て甥っ子を本社に呼び戻そうと思うんだ」
「……甥っ子さん、ですか?」
「あぁ、そうだ。私は彼を後継者にしたいと思っていてね」
大きく頷いて、社長が真剣な眼差しのままそう言う。
社長の甥っ子さんについては、度々耳に挟んでいた。二十代後半で、大学卒業後は地方の支社を回っているとか、なんとか。
「正直、副社長である私の兄は役には立たなくてね。甥っ子のほうがよっぽど役に立つ」
「……まぁ、それは」
言葉は濁したけれど、それは間違いないと思う。
社長のお兄さん……現在の副社長は、研究にしか興味がないような人だ。
そのため、社長の立場を弟に譲ったという噂もあるくらい。
「だから、呼び戻すことにしたんだが。香坂さん。甥っ子を秘書としてサポートしてくれないだろうか?」
けど、その提案は予想外だった。
「ベテランに任せてもいいんだが、やっぱり同年代のほうがなにかと話しやすいかと思ってね」
まぁ、そりゃあ、そうかもしれない。ただ、私に務まるかどうかが、不安だった。
「ですが、私はまだ経験不足……」
「若手なのだから、経験不足は当然だろう。今から学んでいけばいい」
社長は年功序列があまり好きではない。有能ならば、若手にも重要な仕事を割り振ってくれるような人だ。
その社長に、見込まれているんだ。……そう思ったら、なんだかちょっと嬉しい。
「どうだろうか? お願いできるか?」
真剣な眼差しで見つめられて、そう問いかけられた。
……私は、少し迷って頷く。
「私で、よろしければ」
「そうか。では、専務の秘書の役割は佐原さんに引き継いでくれ」
「かしこまりました」
佐原とは、私の一つ下の後輩。明るくて話しやすいけれど、ちょっとドジな子だ。
「三週間ほどしたら、甥っ子はこっちに来る。その際に、早めに紹介しよう」
「はい。よろしくお願いいたします」
そんな会話を社長と交わしたのが、二十日ほど前。これから二十日後。私は、副社長となる真田 丞さんと、出逢った。
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