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第1章 お見合い相手は同業者!? その場で結婚決まりですか?
第9話
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(え? ちょ、え?)
私の頭が、一瞬で混乱した。
心臓がどきどきとして、異様なまでに早くに音を鳴らす。
顔に熱が溜まる。熱くて熱くて、たまらない。
「りょ、燎、さん……」
そっと視線を上げて、燎さんを見つめる。彼の目は、真剣な色を帯びていた。
「あんたからそんなこと言わせたら、男が廃る」
「……え、あの」
その言葉の意味がいまいちよくわからなくて、私は目を瞬かせた。多分、今の私はここ最近で一番の間抜け面だと思う。
「俺は、一生妻を迎えるつもりは、なかったんだ」
ふと、燎さんが何処か懐かしむような声で、そうおっしゃる。頭の上から降ってくるその声に、ドキドキしっぱなしだ。
「だって、そうじゃないか。この世界に巻き込むなんてこと、出来るわけがない。そう、思ってきた」
彼が私に視線を落とす。その視線は、なんともいえないほどに優しそうで。視線を逸らせず、見つめ合ってしまう。
「だが、あんたに会ったらそんな考え吹き飛んだな」
「……そ、れは」
「俺と、結婚を前提に付き合ってくれ」
真剣な声音。嘘の可能性なんて、微塵も感じさせない。いや、違う。そもそも、この世界の人間は質の悪い嘘を嫌う。
こんな質の悪すぎる嘘を、燎さんがつくわけがないと、思った。
「……あ、あの」
いきなりの告白に、どういう風に言葉を返せばいいかわからなくて。私は困ったように視線を彷徨わせる。
そんな私を他所に、燎さんが私の髪の毛を手に取られた。きれいに結い上げられた髪の毛が、先ほど転んだ衝撃で少し解けているらしい。
「……それとも、あんたは嫌か?」
彼が私の顔を覗き込んでこられて、そう問いかけてこられる。……言葉は悲しそうな言葉。だけど、彼の声音からして、微塵もそう思っちゃいない。それが、とてもよく伝わってくる。
「嫌だったら、無理にとは言わない。女を不幸にさせるつもりはない」
……突き放された。
(違う。これは――試されているんだわ)
一瞬よぎった考えを振り払い、私は燎さんをまっすぐに見つめる。
「そんなこと、ないです」
彼の腕の中にいるのが、なんだか非日常で。私は実感がわかないまま、自らの気持ちを口にする。
「私も、燎さんと付き合いたいです」
この気持ちに、嘘も偽りも含まれていない。このお人とだったら……私も、幸せな結婚が出来るような気がしたのだ。
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
ぎゅっと彼の衣服を握って、私は今にも消え入りそうなほどに小さな声でそう言う。……燎さんが、息を呑んだのがよくわかった。
「後悔、しないな?」
「……するわけ、ありません。裏の女に、二言はありませんから」
私は生まれてからずっとこの世界にいる。この世界にいる女に――二言はない。さらには、こんなにも質の悪い嘘を言うわけがない。
「ははっ、そうか。……随分と、肝の据わった嬢だな」
「……よく、言われます」
ちょっと恥ずかしいけれど、それは真実だ。
そう思いつつ私が燎さんの腕の中にいると、遠くからなにかを落とすような音が聞こえてきた。……ハッとしてそちらを見る。
「お、お、お祖父さま!?」
そこには、驚いているのか。はたまた、感激しているのか。なんともいえない表情をされたお祖父さまがいらっしゃって。
「すみれちゃん!」
「ひゃぁっ!」
お祖父さまが、お年寄りとは思えないスピードでこちらに駆けてくる。その後、燎さんに頭を下げていた。
「可愛い孫娘を、どうかよろしく頼む。……すぐにでも、結婚の準備を進めるからな」
「え、あ、あの……」
「すみれちゃんが気に入ってくれて、よかったよかった。蔵数の奴にも報告してくるな」
「ちょ、あのっ……!」
お祖父さまは、思い込んだら一直線。もう、人の話を聞かない。
……ぜ、ぜ――。
(絶対に、勘違いされた……!)
私と燎さんは、結婚を誓ったわけじゃない。結婚を前提に、付き合おうっていうお話の段階だったのに……!
私の頭が、一瞬で混乱した。
心臓がどきどきとして、異様なまでに早くに音を鳴らす。
顔に熱が溜まる。熱くて熱くて、たまらない。
「りょ、燎、さん……」
そっと視線を上げて、燎さんを見つめる。彼の目は、真剣な色を帯びていた。
「あんたからそんなこと言わせたら、男が廃る」
「……え、あの」
その言葉の意味がいまいちよくわからなくて、私は目を瞬かせた。多分、今の私はここ最近で一番の間抜け面だと思う。
「俺は、一生妻を迎えるつもりは、なかったんだ」
ふと、燎さんが何処か懐かしむような声で、そうおっしゃる。頭の上から降ってくるその声に、ドキドキしっぱなしだ。
「だって、そうじゃないか。この世界に巻き込むなんてこと、出来るわけがない。そう、思ってきた」
彼が私に視線を落とす。その視線は、なんともいえないほどに優しそうで。視線を逸らせず、見つめ合ってしまう。
「だが、あんたに会ったらそんな考え吹き飛んだな」
「……そ、れは」
「俺と、結婚を前提に付き合ってくれ」
真剣な声音。嘘の可能性なんて、微塵も感じさせない。いや、違う。そもそも、この世界の人間は質の悪い嘘を嫌う。
こんな質の悪すぎる嘘を、燎さんがつくわけがないと、思った。
「……あ、あの」
いきなりの告白に、どういう風に言葉を返せばいいかわからなくて。私は困ったように視線を彷徨わせる。
そんな私を他所に、燎さんが私の髪の毛を手に取られた。きれいに結い上げられた髪の毛が、先ほど転んだ衝撃で少し解けているらしい。
「……それとも、あんたは嫌か?」
彼が私の顔を覗き込んでこられて、そう問いかけてこられる。……言葉は悲しそうな言葉。だけど、彼の声音からして、微塵もそう思っちゃいない。それが、とてもよく伝わってくる。
「嫌だったら、無理にとは言わない。女を不幸にさせるつもりはない」
……突き放された。
(違う。これは――試されているんだわ)
一瞬よぎった考えを振り払い、私は燎さんをまっすぐに見つめる。
「そんなこと、ないです」
彼の腕の中にいるのが、なんだか非日常で。私は実感がわかないまま、自らの気持ちを口にする。
「私も、燎さんと付き合いたいです」
この気持ちに、嘘も偽りも含まれていない。このお人とだったら……私も、幸せな結婚が出来るような気がしたのだ。
「どうぞ、よろしくお願いいたします」
ぎゅっと彼の衣服を握って、私は今にも消え入りそうなほどに小さな声でそう言う。……燎さんが、息を呑んだのがよくわかった。
「後悔、しないな?」
「……するわけ、ありません。裏の女に、二言はありませんから」
私は生まれてからずっとこの世界にいる。この世界にいる女に――二言はない。さらには、こんなにも質の悪い嘘を言うわけがない。
「ははっ、そうか。……随分と、肝の据わった嬢だな」
「……よく、言われます」
ちょっと恥ずかしいけれど、それは真実だ。
そう思いつつ私が燎さんの腕の中にいると、遠くからなにかを落とすような音が聞こえてきた。……ハッとしてそちらを見る。
「お、お、お祖父さま!?」
そこには、驚いているのか。はたまた、感激しているのか。なんともいえない表情をされたお祖父さまがいらっしゃって。
「すみれちゃん!」
「ひゃぁっ!」
お祖父さまが、お年寄りとは思えないスピードでこちらに駆けてくる。その後、燎さんに頭を下げていた。
「可愛い孫娘を、どうかよろしく頼む。……すぐにでも、結婚の準備を進めるからな」
「え、あ、あの……」
「すみれちゃんが気に入ってくれて、よかったよかった。蔵数の奴にも報告してくるな」
「ちょ、あのっ……!」
お祖父さまは、思い込んだら一直線。もう、人の話を聞かない。
……ぜ、ぜ――。
(絶対に、勘違いされた……!)
私と燎さんは、結婚を誓ったわけじゃない。結婚を前提に、付き合おうっていうお話の段階だったのに……!
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