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第1章 お見合い相手は同業者!? その場で結婚決まりですか?
第7話
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この料亭にはとても広々とした庭園がある。何処となく落ち着く雰囲気で、そこに来て私はようやくほっと胸をなでおろす。
(ようやく、落ち着けた)
今日はずっと緊張していた。その所為か、いろいろな意味で汗がすごい。
(それにしても、本当に男らしい人……)
ちらりと隣に立つ燎さんを見つめて、私はそう思う。
冷たく見える美貌。でも、その中にある人情っていうのか。そういうものが、にじみ出てきている。
「少し、落ち着いたか?」
しばらくして、燎さんがそう問いかけてくる。驚いて彼の顔を見つめれば、彼がふっと口元を緩めていた。……とても色っぽくて、私の心臓がどくんと音を立てる。
「いや、あんた、ずっと緊張していただろう。……見合いの席だから当然と言えば、当然かもしれない。だが、ずっと緊張していたら疲れるだろうに」
……どうやら、燎さんには私の緊張なんてお見通しだったらしい。
それが、嬉しいような、もどかしいような。どくんと大きく音を鳴らした心臓を押さえるように、胸を押さえる。
「そもそも、祖父さんどもの思いつきなんだ。嫌だったら、断ればいい」
彼が視線を庭園に移して、はっきりとそう告げる。
……燎さんのおっしゃっていることは、嫌というほど理解している。お祖父さまも、私が嫌がればこのお話をなかったことにしてくださるし……。
「だから、そんな緊張することはない。俺は、この話がなかったことになっても、恨みはしねぇよ」
ぶっきらぼうな言葉。でも、何処となく穏やかな声。……私の心臓が、どくんと脈打つ。まるで、この人に興味を示しているように。
「ま、そういうことだ。……こんな九つも年上の男に嫁ぐなんて、あんたは嫌だろうし」
……別に、嫌というわけじゃない。
心の中でそう呟いて、私は燎さんのほうに一歩を踏み出した。
「……嫌じゃ、ないです」
そして、はっきりと彼にそう告げた。瞬間、彼の目が大きく見開かれる。少し、意外だったのかもしれない。
「私、燎さんのこと、もっと知りたいって、思っています」
それは、間違いない自分の気持ち。嘘も偽りも、こもっていない。
じぃっと彼の目をまっすぐに見つめてそう言えば、彼の頬が仄かに朱に染まった。……照れて、いらっしゃるの?
「……あんた、な」
「……嫌じゃ、ないのです」
震える声で、そう言う。実際そうだ。燎さんに会うまでは、いろいろと思うことはあった。だけど、この人に会って。
……この人のこと、もっと知りたいって、思ってしまった。
「もちろん、燎さんが私を気に入らないのならば、無理強いはしません。ただ、本当に……その」
俯いて、手をぎゅっと握りしめて。言葉を、探した。
恋愛感情なんて微塵もわからない。恋をしたこともない。その所為で、私が今、燎さんに抱いている感情はなんなのか。はっきりとは、していない。だけど……。
「私、あなたさまとだったら、いい関係を築けると、思うのです」
そもそも、私は男性が苦手だ。特に、同年代の。
そう考えれば、結婚するのならばずっと年上か年下だろう。……燎さんの年齢は、ちょうどよかった。
一歩、また彼のほうに踏み出す。
瞬間、私は転びそうになった。……元々、普段慣れない下駄に苦戦していたのだ。こうなることは、予想内だったというべきか。
「――おいっ!」
そして、地面に打ち付けられるような感覚は――来なかった。
驚いて、目を開ける。すると……燎さんの顔が、すぐ目の前にあって。
「……え」
どうやら、彼は私の下敷きになっているらしかった。
(ようやく、落ち着けた)
今日はずっと緊張していた。その所為か、いろいろな意味で汗がすごい。
(それにしても、本当に男らしい人……)
ちらりと隣に立つ燎さんを見つめて、私はそう思う。
冷たく見える美貌。でも、その中にある人情っていうのか。そういうものが、にじみ出てきている。
「少し、落ち着いたか?」
しばらくして、燎さんがそう問いかけてくる。驚いて彼の顔を見つめれば、彼がふっと口元を緩めていた。……とても色っぽくて、私の心臓がどくんと音を立てる。
「いや、あんた、ずっと緊張していただろう。……見合いの席だから当然と言えば、当然かもしれない。だが、ずっと緊張していたら疲れるだろうに」
……どうやら、燎さんには私の緊張なんてお見通しだったらしい。
それが、嬉しいような、もどかしいような。どくんと大きく音を鳴らした心臓を押さえるように、胸を押さえる。
「そもそも、祖父さんどもの思いつきなんだ。嫌だったら、断ればいい」
彼が視線を庭園に移して、はっきりとそう告げる。
……燎さんのおっしゃっていることは、嫌というほど理解している。お祖父さまも、私が嫌がればこのお話をなかったことにしてくださるし……。
「だから、そんな緊張することはない。俺は、この話がなかったことになっても、恨みはしねぇよ」
ぶっきらぼうな言葉。でも、何処となく穏やかな声。……私の心臓が、どくんと脈打つ。まるで、この人に興味を示しているように。
「ま、そういうことだ。……こんな九つも年上の男に嫁ぐなんて、あんたは嫌だろうし」
……別に、嫌というわけじゃない。
心の中でそう呟いて、私は燎さんのほうに一歩を踏み出した。
「……嫌じゃ、ないです」
そして、はっきりと彼にそう告げた。瞬間、彼の目が大きく見開かれる。少し、意外だったのかもしれない。
「私、燎さんのこと、もっと知りたいって、思っています」
それは、間違いない自分の気持ち。嘘も偽りも、こもっていない。
じぃっと彼の目をまっすぐに見つめてそう言えば、彼の頬が仄かに朱に染まった。……照れて、いらっしゃるの?
「……あんた、な」
「……嫌じゃ、ないのです」
震える声で、そう言う。実際そうだ。燎さんに会うまでは、いろいろと思うことはあった。だけど、この人に会って。
……この人のこと、もっと知りたいって、思ってしまった。
「もちろん、燎さんが私を気に入らないのならば、無理強いはしません。ただ、本当に……その」
俯いて、手をぎゅっと握りしめて。言葉を、探した。
恋愛感情なんて微塵もわからない。恋をしたこともない。その所為で、私が今、燎さんに抱いている感情はなんなのか。はっきりとは、していない。だけど……。
「私、あなたさまとだったら、いい関係を築けると、思うのです」
そもそも、私は男性が苦手だ。特に、同年代の。
そう考えれば、結婚するのならばずっと年上か年下だろう。……燎さんの年齢は、ちょうどよかった。
一歩、また彼のほうに踏み出す。
瞬間、私は転びそうになった。……元々、普段慣れない下駄に苦戦していたのだ。こうなることは、予想内だったというべきか。
「――おいっ!」
そして、地面に打ち付けられるような感覚は――来なかった。
驚いて、目を開ける。すると……燎さんの顔が、すぐ目の前にあって。
「……え」
どうやら、彼は私の下敷きになっているらしかった。
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