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第1章 お見合い相手は同業者!? その場で結婚決まりですか?
第6話
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「いえ……その、お構いなく」
燎さんの言葉に、私はゆるゆると首を横に振ってそう言う。すると、彼がふっと口元を緩めた。
瞬間、私の心臓がどくんと大きく音を立てる。……何だろうか。色っぽくて、ドキドキする。
「そう言ってもらえると、ありがたい」
彼が心地のいい声で、そう言ってくれる。
私の心臓が、どくんどくんと音を立てている。……本当に、感じたことのない感情と感覚だった。
「ところで、すみれ……さん、は」
「……はい」
少し困ったように、燎さんが私の名前を呼ばれる。多分、どう呼べばいいかわからなかったのだろう。そりゃあ、私たちほど年が離れていれば、ちゃん付けでもおかしくない。だけど、さん付けで呼んでくださった。
……女性扱いされているみたいで、嬉しい。
「なんだろうか。……俺との見合いに関して、どう思っていたのか教えてほしい」
「……え」
彼の言葉に、私が目を瞬かせる。
……どう思っていたか、って。
「はっきりと言えば、あなたくらいの女性ならばこの世界から逃げたいと思うだろう」
「あ……」
それは、真実だった。
ずっと、特殊な世界で生きてきた。その所為なのか、普通の世界に憧れていて。
小さな頃は、結婚するならば普通の人。堅気の人だと決めていた。でも、燎さんはこの世界の人だ。裏の世界の人。堅気の人じゃない。
「もしも、あなたが嫌なのならば。俺は、無理強いはしない。俺と結婚してしまえば、あなたはこの世界から逃げられなくなる」
それは、間違いない。
(燎さんと結婚すれば、私は立松組の人間だものね……)
燎さんが立松組の若頭である以上、結婚すれば私はその組の人間だ。逃げ道は完全にふさがれ、ずっとこの世界に身を置くことになる。
(……でも、不思議と嫌じゃない)
血で血を洗い流すような世界を、嫌だと思ったことは一度や二度じゃない。
だけど……どうして、なのかな。燎さんとだったら、この世界でもやっていけるような気がした。
「……わた、しは」
声が震えていた。ゆっくりと燎さんの目を見つめる。意志の強そうな、男らしい人。……好き、なのかも。
「私は、この世界の人間です。今更怖気ついて逃げるなんて、しません」
はっきりと、そう告げる。私のその声は、不思議と震えていなくて。私は、じぃっと燎さんを見つめる。
「ずっと、ずっとこの世界に身を置いてきました。なので、あなたさまとの結婚に、恐怖はありません」
だって、結局この世界の人間も人間なのだ。お祖父さまだって、お父様だって。基本的にはお優しい人。ただ、仲間を傷つけられたら黙っていないだけ。ただ、それだけじゃない。
「……そうか」
燎さんがお酒を手に取って、口に運ばれた。その仕草の色っぽさに、私の心臓がさらに音を立てる。
「そういう肝の据わった女のほうが、いいかもな」
ちらりと彼が私を見つめる。……私の心臓が、忙しなく音を立てる。顔に熱が溜まる。
「わりぃが、ちょっと外に出たい。……ここにいたら、祖父さんどもにウザ絡みされそうだからな」
ふと燎さんがそうおっしゃって、立ち上がった。
「あんたも、行くか?」
ゆっくりとそう問いかけられて、手を差し伸べられた。その手を、自然と私は掴む。
(今、あんたって……)
先ほど「あなた」と言っていたのは、大方取り繕った言葉遣いだったのだろう。
それを、私は察する。……もしかしたら、私を怖がらせないようにしてくださったのかな……なんて。
(そういうところ、とってもお優しいのね)
無意識のうちに、私はそう思っていた。
燎さんの言葉に、私はゆるゆると首を横に振ってそう言う。すると、彼がふっと口元を緩めた。
瞬間、私の心臓がどくんと大きく音を立てる。……何だろうか。色っぽくて、ドキドキする。
「そう言ってもらえると、ありがたい」
彼が心地のいい声で、そう言ってくれる。
私の心臓が、どくんどくんと音を立てている。……本当に、感じたことのない感情と感覚だった。
「ところで、すみれ……さん、は」
「……はい」
少し困ったように、燎さんが私の名前を呼ばれる。多分、どう呼べばいいかわからなかったのだろう。そりゃあ、私たちほど年が離れていれば、ちゃん付けでもおかしくない。だけど、さん付けで呼んでくださった。
……女性扱いされているみたいで、嬉しい。
「なんだろうか。……俺との見合いに関して、どう思っていたのか教えてほしい」
「……え」
彼の言葉に、私が目を瞬かせる。
……どう思っていたか、って。
「はっきりと言えば、あなたくらいの女性ならばこの世界から逃げたいと思うだろう」
「あ……」
それは、真実だった。
ずっと、特殊な世界で生きてきた。その所為なのか、普通の世界に憧れていて。
小さな頃は、結婚するならば普通の人。堅気の人だと決めていた。でも、燎さんはこの世界の人だ。裏の世界の人。堅気の人じゃない。
「もしも、あなたが嫌なのならば。俺は、無理強いはしない。俺と結婚してしまえば、あなたはこの世界から逃げられなくなる」
それは、間違いない。
(燎さんと結婚すれば、私は立松組の人間だものね……)
燎さんが立松組の若頭である以上、結婚すれば私はその組の人間だ。逃げ道は完全にふさがれ、ずっとこの世界に身を置くことになる。
(……でも、不思議と嫌じゃない)
血で血を洗い流すような世界を、嫌だと思ったことは一度や二度じゃない。
だけど……どうして、なのかな。燎さんとだったら、この世界でもやっていけるような気がした。
「……わた、しは」
声が震えていた。ゆっくりと燎さんの目を見つめる。意志の強そうな、男らしい人。……好き、なのかも。
「私は、この世界の人間です。今更怖気ついて逃げるなんて、しません」
はっきりと、そう告げる。私のその声は、不思議と震えていなくて。私は、じぃっと燎さんを見つめる。
「ずっと、ずっとこの世界に身を置いてきました。なので、あなたさまとの結婚に、恐怖はありません」
だって、結局この世界の人間も人間なのだ。お祖父さまだって、お父様だって。基本的にはお優しい人。ただ、仲間を傷つけられたら黙っていないだけ。ただ、それだけじゃない。
「……そうか」
燎さんがお酒を手に取って、口に運ばれた。その仕草の色っぽさに、私の心臓がさらに音を立てる。
「そういう肝の据わった女のほうが、いいかもな」
ちらりと彼が私を見つめる。……私の心臓が、忙しなく音を立てる。顔に熱が溜まる。
「わりぃが、ちょっと外に出たい。……ここにいたら、祖父さんどもにウザ絡みされそうだからな」
ふと燎さんがそうおっしゃって、立ち上がった。
「あんたも、行くか?」
ゆっくりとそう問いかけられて、手を差し伸べられた。その手を、自然と私は掴む。
(今、あんたって……)
先ほど「あなた」と言っていたのは、大方取り繕った言葉遣いだったのだろう。
それを、私は察する。……もしかしたら、私を怖がらせないようにしてくださったのかな……なんて。
(そういうところ、とってもお優しいのね)
無意識のうちに、私はそう思っていた。
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