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第1章 お見合い相手は同業者!? その場で結婚決まりですか?
第3話
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「ところで、お祖父さま。本日はどのようなご用件です?」
また私を暑苦しく抱擁しようとするお祖父さまから逃れて、私は応接室のソファーに腰を下ろす。
すると、お祖父さまは少し不貞腐れたような様子を見せた。
「いや、な。すみれちゃんにちょっとした話があってな……」
しかし、お祖父さまだって伊達に長年この羽賀家の当主をやっていなかった。すぐに気を持ち直して、元居た場所に戻っていく。
そして、先ほどまで説教をしていた若い男性をあっさりと追い出した。
……応接室の中には、私とお祖父さまの二人きり。しばしの沈黙が、場を支配した。
「すみれちゃん」
「……はい」
「今年で、お前も二十一歳になっただろう?」
「そう、ですね」
おもむろになんなのだろうか。
心の中でそう思いつつ、私は相槌を打つ。お祖父さまは、頬を掻いていた。これは、大体言いにくいことを言うときの癖だったりする。
「そろそろ結婚を、考えてみないかという話だ」
「……はぃ?」
私の口から、間抜けな声が漏れた。
「結婚て、あれですよね? 婚約を経ての、結婚ですよね?」
「あぁ、そうだよ」
お祖父さまがあっけらかんと私の言葉を肯定する。……結婚。結婚、かぁ。
(そもそも、私、男の人が苦手だしなぁ……)
奈緒の結婚式を見て、ちょっと焦ったのは認める。でも、元はといえば私は家の人間以外の男が大の苦手なのだ。
昔から強面な男に囲まれてきたけれど、なんていうか……うん。結局、普通の人が怖いのよね。
「実はわしの知り合いから勧められてなぁ。すみれちゃんも二十を超えたし、そろそろいいかと思って……」
なにも、言えなかった。……いきなりやってきて結婚の話とか、するだろうか? いや、ヤのつくの世界で生きてきたお祖父さまに常識は通じない。……私も常識が欠損している自覚はある。
生まれてこの方、私はヤのつくの世界しか知らないのだ。
「……ですが、どうしていきなり?」
今の今まで、そんな素振りなかった。だから、余計に混乱している。
そういう意味を込めてそう問いかければ、お祖父さまはそっと視線を逸らされた。
「……最近、なにかと物騒だろう?」
「えぇ、まぁ」
「すみれちゃんは生まれが生まれだし、狙われやすい。だから、確実に守ってやれる男を側においておいたほうが……と、思ったんだ」
それすなわち、一種の護衛ということか。うん、ある意味納得。
「相手はなんとか企業の社長でな。……腕っぷしも強いし、すみれちゃんよりちょっと年が上だが、悪い男じゃない」
お祖父さまが、ゆるゆると首を横に振ってそう続ける。……社長。よくそんなお見合い話、見つけてきたわね、お祖父さま。
「なによりも、わしが認めた奴だ。……すみれちゃんを大切にしてくれる」
「……お祖父さま」
「どうだろうか? わしもこの先長くない。せめて、死ぬまでにすみれちゃんの花嫁姿が見たいんだ」
……きっと、こっちが本音なのだろうな。それは、容易に想像が出来る。
お祖父さまに孫娘は私しかいない。だからなのか、お祖父さまは誰よりも私のことを可愛がってくれたし、過保護だった。
「なぁに、嫌だったら遠慮なく断っとくれ。すみれちゃんの嫌がることは、なによりも嫌だからな」
そう言われたら、断るに断れないじゃないか。
だって、私もなんだかんだ言って、お祖父さまのこと……家族として、好きだし。仕事は物騒極まりないと思うけれど。
「……わかった。私、そのお見合い引き受ける」
はっきりと、私はそう口にした。瞬間、お祖父さまの目が大きく見開かれた。
「でも、私、恋愛感情も恋もわからないから。……あと、無理だと思ったら、すぐにお断りするからね」
一応そう付け足してみる。お祖父さまは、満足そうにうなずいていた。
「あぁ、それで構わんよ。すみれちゃんが気に入ったら、結婚に持って行こう」
うん、気が早いわね。
心の中でそう思いつつも、私はお祖父さまに笑いかける。
(本音を言うと、今どきお見合いなんて時代錯誤だと思うけれどね)
でも、私の生きてきた世界では、これが普通なんだ。……世間一般と常識のズレた、裏の世界。
私は、ここしか知らないから。
また私を暑苦しく抱擁しようとするお祖父さまから逃れて、私は応接室のソファーに腰を下ろす。
すると、お祖父さまは少し不貞腐れたような様子を見せた。
「いや、な。すみれちゃんにちょっとした話があってな……」
しかし、お祖父さまだって伊達に長年この羽賀家の当主をやっていなかった。すぐに気を持ち直して、元居た場所に戻っていく。
そして、先ほどまで説教をしていた若い男性をあっさりと追い出した。
……応接室の中には、私とお祖父さまの二人きり。しばしの沈黙が、場を支配した。
「すみれちゃん」
「……はい」
「今年で、お前も二十一歳になっただろう?」
「そう、ですね」
おもむろになんなのだろうか。
心の中でそう思いつつ、私は相槌を打つ。お祖父さまは、頬を掻いていた。これは、大体言いにくいことを言うときの癖だったりする。
「そろそろ結婚を、考えてみないかという話だ」
「……はぃ?」
私の口から、間抜けな声が漏れた。
「結婚て、あれですよね? 婚約を経ての、結婚ですよね?」
「あぁ、そうだよ」
お祖父さまがあっけらかんと私の言葉を肯定する。……結婚。結婚、かぁ。
(そもそも、私、男の人が苦手だしなぁ……)
奈緒の結婚式を見て、ちょっと焦ったのは認める。でも、元はといえば私は家の人間以外の男が大の苦手なのだ。
昔から強面な男に囲まれてきたけれど、なんていうか……うん。結局、普通の人が怖いのよね。
「実はわしの知り合いから勧められてなぁ。すみれちゃんも二十を超えたし、そろそろいいかと思って……」
なにも、言えなかった。……いきなりやってきて結婚の話とか、するだろうか? いや、ヤのつくの世界で生きてきたお祖父さまに常識は通じない。……私も常識が欠損している自覚はある。
生まれてこの方、私はヤのつくの世界しか知らないのだ。
「……ですが、どうしていきなり?」
今の今まで、そんな素振りなかった。だから、余計に混乱している。
そういう意味を込めてそう問いかければ、お祖父さまはそっと視線を逸らされた。
「……最近、なにかと物騒だろう?」
「えぇ、まぁ」
「すみれちゃんは生まれが生まれだし、狙われやすい。だから、確実に守ってやれる男を側においておいたほうが……と、思ったんだ」
それすなわち、一種の護衛ということか。うん、ある意味納得。
「相手はなんとか企業の社長でな。……腕っぷしも強いし、すみれちゃんよりちょっと年が上だが、悪い男じゃない」
お祖父さまが、ゆるゆると首を横に振ってそう続ける。……社長。よくそんなお見合い話、見つけてきたわね、お祖父さま。
「なによりも、わしが認めた奴だ。……すみれちゃんを大切にしてくれる」
「……お祖父さま」
「どうだろうか? わしもこの先長くない。せめて、死ぬまでにすみれちゃんの花嫁姿が見たいんだ」
……きっと、こっちが本音なのだろうな。それは、容易に想像が出来る。
お祖父さまに孫娘は私しかいない。だからなのか、お祖父さまは誰よりも私のことを可愛がってくれたし、過保護だった。
「なぁに、嫌だったら遠慮なく断っとくれ。すみれちゃんの嫌がることは、なによりも嫌だからな」
そう言われたら、断るに断れないじゃないか。
だって、私もなんだかんだ言って、お祖父さまのこと……家族として、好きだし。仕事は物騒極まりないと思うけれど。
「……わかった。私、そのお見合い引き受ける」
はっきりと、私はそう口にした。瞬間、お祖父さまの目が大きく見開かれた。
「でも、私、恋愛感情も恋もわからないから。……あと、無理だと思ったら、すぐにお断りするからね」
一応そう付け足してみる。お祖父さまは、満足そうにうなずいていた。
「あぁ、それで構わんよ。すみれちゃんが気に入ったら、結婚に持って行こう」
うん、気が早いわね。
心の中でそう思いつつも、私はお祖父さまに笑いかける。
(本音を言うと、今どきお見合いなんて時代錯誤だと思うけれどね)
でも、私の生きてきた世界では、これが普通なんだ。……世間一般と常識のズレた、裏の世界。
私は、ここしか知らないから。
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