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第1部 第2章
ヨゼフ・ケスティング 2
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「い、いえ、それは……その」
必死に誤魔化そうとするけれど、そもそも僕は誤魔化すことが得意じゃない。
ぶんぶんと首を横に振る。が、それは逆効果。ヨゼフさまは僕にぐいぐいと近づいてこられる。
(誰か、助けてっ……!)
別に襲われているわけでもないし、言い寄られているわけでもない。むしろ、僕を襲うような物好き、この世にはいない。
頭が混乱して、言葉にならない声が、口から零れる。ヨゼフさまは僕のその態度を気にしていないのか。淡々と、僕に「教えてくれ」と詰め寄り続けている。
しまいには肩を掴まれて、ぐらぐらと揺らされた。視界がぐわんぐわんと揺れる。
……このまま、気絶してしまったほうが楽かもしれない。
そう思い始めたとき。ふとすぐ近くから「ルドルフを、離してくれる?」という声が聞こえてきた。
閉じていた目を開ける。そこには、ほかでもないセラフィンさま。
セラフィンさまはヨゼフさまの肩を掴まれていた。なんだか、その力がとんでもないような気もする。
「……セラフィン殿下」
ヨゼフさまの口から、ぽつりと声が零れる。
「悪いね、ルドルフに用事があるんだ」
ニコリと笑ったセラフィンさまが、ヨゼフさまの側を通り抜けて、僕の前に立たれる。
彼が目を細めて、僕の肩に触れた。……優しい触れ方で、心臓がどきっとする。
多分、先ほどまで詰め寄られていたから。ちょっと、安心したんだと思う。他意はない。
「……あぁ、そうだ、ヨゼフ」
「……はい」
「ルドルフに詰め寄るなんてことは、今後一切やめてほしい。わかるね?」
セラフィンさまが強い口調でそうおっしゃると、ヨゼフさまは深々と頭を下げていた。
そんな彼を気にする風もなく、セラフィンさまは僕に笑いかけて「行こうか」とおっしゃる。
「……え、あ、あの」
というか、まだ抱き枕業務には早いはず――と、思う間もなく。
セラフィンさまは軽々と僕の身体を抱き上げる。……膝の裏に手を入れた、いわば横抱き、お姫様抱っこだ。
咄嗟にセラフィンさまの首に腕を回すと、彼が満足気に頷かれた。……僕も、ある程度の適応力は身に着けたらしい。
「少し、仕事の話が残っていてね。……業務外だけれど、いいかい?」
「……あ、はい。大丈夫、です」
それは、お願いにも聞こえる。でも、命令で間違いない。
主に命令されたら、僕らに拒否権なんてない。こくんと首を縦に振れば、セラフィンさまが表情を嬉しそうに崩された。
「ありがとう。……さぁ、行こうか」
「ひゃっ」
セラフィンさまが、僕の頬に口づけてくる。……漏れた声は、まるで女性のように高かった。
恥ずかしくなって、俯く。ここに、ヨゼフさまがいらっしゃることなんて、もう頭の中から抜けていた。
「あぁ、ルドルフは本当に可愛い。……早く、俺のものにしなくては……」
「……セラフィンさま?」
なんだろうか。今、すごく物騒な言葉が聞こえたような気がする。
とはいっても、僕にもう一度聞き返すような勇気は搭載していない。僕は、曖昧に頷くだけだ。
セラフィンさまが僕を抱っこしたまま、移動される。だけど、あるとき途中で立ち止まられた。
振り返って、誰かに口パクでなにかを伝える。
(ぁっ、そうだ……)
そして、このとき。僕は、先ほどの戯れ……みたいなものを。
ヨゼフさまに目撃されていたことを、理解した。……顔から火が出そうなほどに恥ずかしい。穴があったら、入ってしまいたかった。そのまま、もう二度と出てきたくない。
(主と、こんな触れ合いを……)
もしも、セラフィンさまの趣味が悪いという噂が出てしまったら……本当に、申し訳ない。
僕は、そう思って反省することしか、出来なかった。
必死に誤魔化そうとするけれど、そもそも僕は誤魔化すことが得意じゃない。
ぶんぶんと首を横に振る。が、それは逆効果。ヨゼフさまは僕にぐいぐいと近づいてこられる。
(誰か、助けてっ……!)
別に襲われているわけでもないし、言い寄られているわけでもない。むしろ、僕を襲うような物好き、この世にはいない。
頭が混乱して、言葉にならない声が、口から零れる。ヨゼフさまは僕のその態度を気にしていないのか。淡々と、僕に「教えてくれ」と詰め寄り続けている。
しまいには肩を掴まれて、ぐらぐらと揺らされた。視界がぐわんぐわんと揺れる。
……このまま、気絶してしまったほうが楽かもしれない。
そう思い始めたとき。ふとすぐ近くから「ルドルフを、離してくれる?」という声が聞こえてきた。
閉じていた目を開ける。そこには、ほかでもないセラフィンさま。
セラフィンさまはヨゼフさまの肩を掴まれていた。なんだか、その力がとんでもないような気もする。
「……セラフィン殿下」
ヨゼフさまの口から、ぽつりと声が零れる。
「悪いね、ルドルフに用事があるんだ」
ニコリと笑ったセラフィンさまが、ヨゼフさまの側を通り抜けて、僕の前に立たれる。
彼が目を細めて、僕の肩に触れた。……優しい触れ方で、心臓がどきっとする。
多分、先ほどまで詰め寄られていたから。ちょっと、安心したんだと思う。他意はない。
「……あぁ、そうだ、ヨゼフ」
「……はい」
「ルドルフに詰め寄るなんてことは、今後一切やめてほしい。わかるね?」
セラフィンさまが強い口調でそうおっしゃると、ヨゼフさまは深々と頭を下げていた。
そんな彼を気にする風もなく、セラフィンさまは僕に笑いかけて「行こうか」とおっしゃる。
「……え、あ、あの」
というか、まだ抱き枕業務には早いはず――と、思う間もなく。
セラフィンさまは軽々と僕の身体を抱き上げる。……膝の裏に手を入れた、いわば横抱き、お姫様抱っこだ。
咄嗟にセラフィンさまの首に腕を回すと、彼が満足気に頷かれた。……僕も、ある程度の適応力は身に着けたらしい。
「少し、仕事の話が残っていてね。……業務外だけれど、いいかい?」
「……あ、はい。大丈夫、です」
それは、お願いにも聞こえる。でも、命令で間違いない。
主に命令されたら、僕らに拒否権なんてない。こくんと首を縦に振れば、セラフィンさまが表情を嬉しそうに崩された。
「ありがとう。……さぁ、行こうか」
「ひゃっ」
セラフィンさまが、僕の頬に口づけてくる。……漏れた声は、まるで女性のように高かった。
恥ずかしくなって、俯く。ここに、ヨゼフさまがいらっしゃることなんて、もう頭の中から抜けていた。
「あぁ、ルドルフは本当に可愛い。……早く、俺のものにしなくては……」
「……セラフィンさま?」
なんだろうか。今、すごく物騒な言葉が聞こえたような気がする。
とはいっても、僕にもう一度聞き返すような勇気は搭載していない。僕は、曖昧に頷くだけだ。
セラフィンさまが僕を抱っこしたまま、移動される。だけど、あるとき途中で立ち止まられた。
振り返って、誰かに口パクでなにかを伝える。
(ぁっ、そうだ……)
そして、このとき。僕は、先ほどの戯れ……みたいなものを。
ヨゼフさまに目撃されていたことを、理解した。……顔から火が出そうなほどに恥ずかしい。穴があったら、入ってしまいたかった。そのまま、もう二度と出てきたくない。
(主と、こんな触れ合いを……)
もしも、セラフィンさまの趣味が悪いという噂が出てしまったら……本当に、申し訳ない。
僕は、そう思って反省することしか、出来なかった。
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