上 下
16 / 20
第1部 第2章

よからぬ噂 3

しおりを挟む
「……とりあえず、続きは食べながら話そうよ」

 アーミにそう言われて、僕は頷く。スプーンを手に取って、ビーフシチューを掬った。

 湯気が上がる温かいもの。少しだけ息を吹きかけて、口に入れてみる。

「美味しい……」

 自然と口から言葉が零れた。

 味付けは絶妙だし、入っている野菜は柔らかい。お肉もとってもほろほろとしていて、食べやすい。

「そっか。気に入ってくれて、よかった」

 僕の呟きにアーミはそれだけを言って、ビーフシチューを口に運んでいた。

 それからしばらく無言で料理を味わう。ある程度食事を進めて、僕とアーミはどちらともなく顔を上げた。

「ルドルフ」
「……う、うん」

 真面目に名前を呼ばれて、僕はちょっと戸惑って返事をする。

「これは、あんまり外に漏らさないでほしい話なんだけど……」

 アーミはそう前置きをする。

 ……漏らすも漏らさないも、ないだろう。

(だって、僕にはほかに友人なんていないし……)

 良くも悪くも、僕の友人はアーミだけだ。

 しかし、それを言うとアーミが心配しそうなので、頷くだけにとどめた。

「最近、王城にちょっときな臭い噂が流れてるんだけど……知ってる?」
「……噂?」

 僕がその言葉を復唱すると、アーミが頷く。

 しかも、きな臭い噂なんて……不穏な空気だ。

「その様子だと、知らないみたいだね。……実は、ここだけの話なんだけど」

 僕のほうに身を乗り出して、アーミが周囲をきょろきょろと見渡した。

 相当、周囲に聞かれたくないことらしい。

「最近、第一王子殿下がなにかをたくらんでいる……っていう、話があるんだよね」

 そう言ったアーミは、眉を下げている。

 ……僕はその言葉の意味を、上手く理解できなかった。

 だから眉を顰めていれば、アーミは言葉を付け足してくれる。

「それも、よからぬことを考えているんだって」
「よ、よからぬことって……」
「そこはまだ、わかんないんだけど……。こそこそと動き回っているのは、間違いないみたい」

 その言葉に、僕はごくりと息を呑む。

 第一王子殿下は、セラフィンさまの異母兄である。セラフィンさまが王妃殿下の子供であるのに対して、第一王子殿下は側妃さまの子供である。

 ……元王太子という立場でも、あるのだけれど。

(第一王子殿下が、企むっていうことは……)

 もしかして、セラフィンさまに危害を加えることを考えていないよね……?

 僕のその想像はアーミに伝わっていたらしい。彼は表情を険しくする。

「まぁ、大体そういうことだと思うんだ。……あの殿下は、まだ王太子の立場に執着されているし……」
「そ、そっか」

 それしか、言葉を返せない。

 万が一。セラフィンさまになにか危険が迫っていたら。……僕に出来ることなんて、あるんだろうか?

(なんだろう。やっぱり、僕もなにか出来るようにならなくちゃダメなのかな……?)

 従者としてだけじゃなくて、護衛としてもセラフィンさまのお役に立ちたいな。

 心の中でそう思いつつ俯く僕。アーミが頬杖を突いたのがわかった。

「……あの殿下は、後ろ盾みたいなのがないからさ。大胆な行動には移さないとは思うんだけど……」
「……うん」

 確かにそれは間違いないんだけど。

 ただ、今僕が思ったことは前々から思っていたことなんだと思う。

 ――セラフィンさまのお役に、もっともっと立ちたい。

 間違いなく、それは本音。どうにかして、彼の負担を軽く出来ないかな……。

 多分、余計なお世話なんだと思う。なのに、僕はそう思ってしまう。

 その意味を、このときの僕はよくわからないでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく
BL
ファンタジーな世界で第二王子が総受けな話。 ボーイズラブ BL 趣味詰め込みました。 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

普通の男の子がヤンデレや変態に愛されるだけの短編集、はじめました。

山田ハメ太郎
BL
タイトル通りです。 お話ごとに章分けしており、ひとつの章が大体1万文字以下のショート詰め合わせです。 サクッと読めますので、お好きなお話からどうぞ。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

健気な公爵令息は、王弟殿下に溺愛される。

りさあゆ
BL
ミリアリア国の、ナーヴァス公爵の次男のルーカス。 産まれた時から、少し体が弱い。 だが、国や、公爵家の為にと、自分に出来る事は何でもすると、優しい心を持った少年だ。 そのルーカスを産まれた時から、溺愛する この国の王弟殿下。 可愛くて仕方ない。 それは、いつしか恋に変わっていく。 お互い好き同士だが、なかなか言い出せずに、すれ違っていく。 ご都合主義の世界です。 なので、ツッコミたい事は、心の中でお願いします。 暖かい目で見て頂ければと。 よろしくお願いします!

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

処理中です...