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第1部 第2章
よからぬ噂 3
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「……とりあえず、続きは食べながら話そうよ」
アーミにそう言われて、僕は頷く。スプーンを手に取って、ビーフシチューを掬った。
湯気が上がる温かいもの。少しだけ息を吹きかけて、口に入れてみる。
「美味しい……」
自然と口から言葉が零れた。
味付けは絶妙だし、入っている野菜は柔らかい。お肉もとってもほろほろとしていて、食べやすい。
「そっか。気に入ってくれて、よかった」
僕の呟きにアーミはそれだけを言って、ビーフシチューを口に運んでいた。
それからしばらく無言で料理を味わう。ある程度食事を進めて、僕とアーミはどちらともなく顔を上げた。
「ルドルフ」
「……う、うん」
真面目に名前を呼ばれて、僕はちょっと戸惑って返事をする。
「これは、あんまり外に漏らさないでほしい話なんだけど……」
アーミはそう前置きをする。
……漏らすも漏らさないも、ないだろう。
(だって、僕にはほかに友人なんていないし……)
良くも悪くも、僕の友人はアーミだけだ。
しかし、それを言うとアーミが心配しそうなので、頷くだけにとどめた。
「最近、王城にちょっときな臭い噂が流れてるんだけど……知ってる?」
「……噂?」
僕がその言葉を復唱すると、アーミが頷く。
しかも、きな臭い噂なんて……不穏な空気だ。
「その様子だと、知らないみたいだね。……実は、ここだけの話なんだけど」
僕のほうに身を乗り出して、アーミが周囲をきょろきょろと見渡した。
相当、周囲に聞かれたくないことらしい。
「最近、第一王子殿下がなにかをたくらんでいる……っていう、話があるんだよね」
そう言ったアーミは、眉を下げている。
……僕はその言葉の意味を、上手く理解できなかった。
だから眉を顰めていれば、アーミは言葉を付け足してくれる。
「それも、よからぬことを考えているんだって」
「よ、よからぬことって……」
「そこはまだ、わかんないんだけど……。こそこそと動き回っているのは、間違いないみたい」
その言葉に、僕はごくりと息を呑む。
第一王子殿下は、セラフィンさまの異母兄である。セラフィンさまが王妃殿下の子供であるのに対して、第一王子殿下は側妃さまの子供である。
……元王太子という立場でも、あるのだけれど。
(第一王子殿下が、企むっていうことは……)
もしかして、セラフィンさまに危害を加えることを考えていないよね……?
僕のその想像はアーミに伝わっていたらしい。彼は表情を険しくする。
「まぁ、大体そういうことだと思うんだ。……あの殿下は、まだ王太子の立場に執着されているし……」
「そ、そっか」
それしか、言葉を返せない。
万が一。セラフィンさまになにか危険が迫っていたら。……僕に出来ることなんて、あるんだろうか?
(なんだろう。やっぱり、僕もなにか出来るようにならなくちゃダメなのかな……?)
従者としてだけじゃなくて、護衛としてもセラフィンさまのお役に立ちたいな。
心の中でそう思いつつ俯く僕。アーミが頬杖を突いたのがわかった。
「……あの殿下は、後ろ盾みたいなのがないからさ。大胆な行動には移さないとは思うんだけど……」
「……うん」
確かにそれは間違いないんだけど。
ただ、今僕が思ったことは前々から思っていたことなんだと思う。
――セラフィンさまのお役に、もっともっと立ちたい。
間違いなく、それは本音。どうにかして、彼の負担を軽く出来ないかな……。
多分、余計なお世話なんだと思う。なのに、僕はそう思ってしまう。
その意味を、このときの僕はよくわからないでいた。
アーミにそう言われて、僕は頷く。スプーンを手に取って、ビーフシチューを掬った。
湯気が上がる温かいもの。少しだけ息を吹きかけて、口に入れてみる。
「美味しい……」
自然と口から言葉が零れた。
味付けは絶妙だし、入っている野菜は柔らかい。お肉もとってもほろほろとしていて、食べやすい。
「そっか。気に入ってくれて、よかった」
僕の呟きにアーミはそれだけを言って、ビーフシチューを口に運んでいた。
それからしばらく無言で料理を味わう。ある程度食事を進めて、僕とアーミはどちらともなく顔を上げた。
「ルドルフ」
「……う、うん」
真面目に名前を呼ばれて、僕はちょっと戸惑って返事をする。
「これは、あんまり外に漏らさないでほしい話なんだけど……」
アーミはそう前置きをする。
……漏らすも漏らさないも、ないだろう。
(だって、僕にはほかに友人なんていないし……)
良くも悪くも、僕の友人はアーミだけだ。
しかし、それを言うとアーミが心配しそうなので、頷くだけにとどめた。
「最近、王城にちょっときな臭い噂が流れてるんだけど……知ってる?」
「……噂?」
僕がその言葉を復唱すると、アーミが頷く。
しかも、きな臭い噂なんて……不穏な空気だ。
「その様子だと、知らないみたいだね。……実は、ここだけの話なんだけど」
僕のほうに身を乗り出して、アーミが周囲をきょろきょろと見渡した。
相当、周囲に聞かれたくないことらしい。
「最近、第一王子殿下がなにかをたくらんでいる……っていう、話があるんだよね」
そう言ったアーミは、眉を下げている。
……僕はその言葉の意味を、上手く理解できなかった。
だから眉を顰めていれば、アーミは言葉を付け足してくれる。
「それも、よからぬことを考えているんだって」
「よ、よからぬことって……」
「そこはまだ、わかんないんだけど……。こそこそと動き回っているのは、間違いないみたい」
その言葉に、僕はごくりと息を呑む。
第一王子殿下は、セラフィンさまの異母兄である。セラフィンさまが王妃殿下の子供であるのに対して、第一王子殿下は側妃さまの子供である。
……元王太子という立場でも、あるのだけれど。
(第一王子殿下が、企むっていうことは……)
もしかして、セラフィンさまに危害を加えることを考えていないよね……?
僕のその想像はアーミに伝わっていたらしい。彼は表情を険しくする。
「まぁ、大体そういうことだと思うんだ。……あの殿下は、まだ王太子の立場に執着されているし……」
「そ、そっか」
それしか、言葉を返せない。
万が一。セラフィンさまになにか危険が迫っていたら。……僕に出来ることなんて、あるんだろうか?
(なんだろう。やっぱり、僕もなにか出来るようにならなくちゃダメなのかな……?)
従者としてだけじゃなくて、護衛としてもセラフィンさまのお役に立ちたいな。
心の中でそう思いつつ俯く僕。アーミが頬杖を突いたのがわかった。
「……あの殿下は、後ろ盾みたいなのがないからさ。大胆な行動には移さないとは思うんだけど……」
「……うん」
確かにそれは間違いないんだけど。
ただ、今僕が思ったことは前々から思っていたことなんだと思う。
――セラフィンさまのお役に、もっともっと立ちたい。
間違いなく、それは本音。どうにかして、彼の負担を軽く出来ないかな……。
多分、余計なお世話なんだと思う。なのに、僕はそう思ってしまう。
その意味を、このときの僕はよくわからないでいた。
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