【R18】王太子殿下の溺愛包囲網!?~根暗従者が囲い込まれるまで~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1部 第2章

よからぬ噂 2

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「で、えぇっと、どういう、こと、なの……?」

 狼狽えつつも、僕は必死に冷静を装って続きを促す。アーミは少し迷ったようだけれど、お水を飲んで、口を開いた。

「まぁ、うん。なんだろう。僕の彼氏って、愛情表現は控えめなんだよね。……言葉も、ないんだ」

 そう言うアーミは、本気で悩んでいるようだった。

 ……だから、僕は頭の中に浮かんでいたセラフィンさまとのことを、一旦忘れると決めた。

「そもそも、僕が好きになって付き合ってほしいって言ったから。……彼氏は、僕のこと迷惑だと思っているんじゃないかなって」

 眉を下げて、アーミが今にも泣きそうな表情になる。

 ……こういうとき。頭の回転が速ければ、いい言葉が出てくるのだろう。でも、僕にはそんな頭の回転の速さはなくて。

「……そ、っか」

 相槌を打つことしか、出来なかった。

「相手は、僕とは違ってモテるんだ。どんな人も、選び放題。考えてみたら、僕と付き合っていても相手にはメリットなんてない」

 アーミのその言葉は、僕がセラフィンさまに対してずっと思っていることと同じだった。

 セラフインさまはこんな僕を側においてくださる。けど、セラフィンさまには僕じゃなくてもいい。僕以外にもたくさんの人が周りにいる。……僕一人いなくても、いいんじゃないかって、思うことは本当に多かった。

「だから、その。……もう、別れたほうがいいのかなって」

 悲痛なアーミの声。本当は、別れたくないのだと思う。

 そんな彼を放っておけなくて、僕はテーブルの上にあったアーミの手を握る。アーミが、顔を上げた。

「その。アーミから聞く、彼氏さんとのお話は……すごく、楽しそうだった、よ」

 アーミはいつも彼氏さんとのお話を楽しそうに聞かせてくれた。

 何処に連れて行ってもらったとか。プレゼントをもらったとか。あとは、王城で仕事中にばったり出くわしたとか。

 そういう些細なことでも、幸せを覚えている。ならば。

「だから、本音を伝えずに別れるのは、ダメだと思う。……その。しっかりと、気持ちを伝えるべきだと、思う」
「……ルドルフ」
「ごめん。僕は恋愛経験なんてないから、こういうことしか言えない、けど……」

 ただ、アーミの友人として。アーミの幸せは願っているんだって。

 それだけは、伝えたかった。

「僕は、アーミに幸せになってほしい……んだ。僕なんかに思われても、嫌かもだけれど……」

 自虐みたいに最後にそう付け足せば、アーミはようやく笑ってくれた。

「ルドルフにそう言ってもらえて……僕も、嬉しい」
「そ、そう……? け、けど。アーミには僕以外にもたくさん友人がいるし……」

 アーミしか友人がいない僕とは、全然違うじゃないか。

 心の中でそう思っていれば、アーミはむすっとしていた。

「あのね、僕はルドルフを大切な友人だって思ってる。だから、自分を卑下しないで」
「……そ、それは」
「僕が好きなルドルフを、ルドルフ自身が卑下するなんて許さない」

 はっきりとそう言われて、勢いでうなずいてしまった。

 ……僕にそんなこと、出来るわけないのに。

「ただ、うん。なんだろう。ありがとう。……ちょっと、すっきりした」
「……アーミ」
「ルドルフに聞いてもらえてよかった。僕、もうちょっと彼氏と話すよ」

 吹っ切れたようなアーミの表情に、僕はほっとした。

 ……アーミが悲しんでいると、僕も悲しいから。

 そう思っていれば、先ほどの男性がワゴンを押してやってくる。ワゴンの上には、ビーフシチューとパン。それから、小さなサラダ。あとはカットフルーツが載せられていた。

「どうぞ、ビーフシチューのランチセットです」

 彼が慣れた手つきで、僕とアーミの前にお皿を並べていく。

 湯気の上がるビーフシチューは、とっても美味しそうで。……自然と、喉が鳴った。
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