15 / 20
第1部 第2章
よからぬ噂 2
しおりを挟む
「で、えぇっと、どういう、こと、なの……?」
狼狽えつつも、僕は必死に冷静を装って続きを促す。アーミは少し迷ったようだけれど、お水を飲んで、口を開いた。
「まぁ、うん。なんだろう。僕の彼氏って、愛情表現は控えめなんだよね。……言葉も、ないんだ」
そう言うアーミは、本気で悩んでいるようだった。
……だから、僕は頭の中に浮かんでいたセラフィンさまとのことを、一旦忘れると決めた。
「そもそも、僕が好きになって付き合ってほしいって言ったから。……彼氏は、僕のこと迷惑だと思っているんじゃないかなって」
眉を下げて、アーミが今にも泣きそうな表情になる。
……こういうとき。頭の回転が速ければ、いい言葉が出てくるのだろう。でも、僕にはそんな頭の回転の速さはなくて。
「……そ、っか」
相槌を打つことしか、出来なかった。
「相手は、僕とは違ってモテるんだ。どんな人も、選び放題。考えてみたら、僕と付き合っていても相手にはメリットなんてない」
アーミのその言葉は、僕がセラフィンさまに対してずっと思っていることと同じだった。
セラフインさまはこんな僕を側においてくださる。けど、セラフィンさまには僕じゃなくてもいい。僕以外にもたくさんの人が周りにいる。……僕一人いなくても、いいんじゃないかって、思うことは本当に多かった。
「だから、その。……もう、別れたほうがいいのかなって」
悲痛なアーミの声。本当は、別れたくないのだと思う。
そんな彼を放っておけなくて、僕はテーブルの上にあったアーミの手を握る。アーミが、顔を上げた。
「その。アーミから聞く、彼氏さんとのお話は……すごく、楽しそうだった、よ」
アーミはいつも彼氏さんとのお話を楽しそうに聞かせてくれた。
何処に連れて行ってもらったとか。プレゼントをもらったとか。あとは、王城で仕事中にばったり出くわしたとか。
そういう些細なことでも、幸せを覚えている。ならば。
「だから、本音を伝えずに別れるのは、ダメだと思う。……その。しっかりと、気持ちを伝えるべきだと、思う」
「……ルドルフ」
「ごめん。僕は恋愛経験なんてないから、こういうことしか言えない、けど……」
ただ、アーミの友人として。アーミの幸せは願っているんだって。
それだけは、伝えたかった。
「僕は、アーミに幸せになってほしい……んだ。僕なんかに思われても、嫌かもだけれど……」
自虐みたいに最後にそう付け足せば、アーミはようやく笑ってくれた。
「ルドルフにそう言ってもらえて……僕も、嬉しい」
「そ、そう……? け、けど。アーミには僕以外にもたくさん友人がいるし……」
アーミしか友人がいない僕とは、全然違うじゃないか。
心の中でそう思っていれば、アーミはむすっとしていた。
「あのね、僕はルドルフを大切な友人だって思ってる。だから、自分を卑下しないで」
「……そ、それは」
「僕が好きなルドルフを、ルドルフ自身が卑下するなんて許さない」
はっきりとそう言われて、勢いでうなずいてしまった。
……僕にそんなこと、出来るわけないのに。
「ただ、うん。なんだろう。ありがとう。……ちょっと、すっきりした」
「……アーミ」
「ルドルフに聞いてもらえてよかった。僕、もうちょっと彼氏と話すよ」
吹っ切れたようなアーミの表情に、僕はほっとした。
……アーミが悲しんでいると、僕も悲しいから。
そう思っていれば、先ほどの男性がワゴンを押してやってくる。ワゴンの上には、ビーフシチューとパン。それから、小さなサラダ。あとはカットフルーツが載せられていた。
「どうぞ、ビーフシチューのランチセットです」
彼が慣れた手つきで、僕とアーミの前にお皿を並べていく。
湯気の上がるビーフシチューは、とっても美味しそうで。……自然と、喉が鳴った。
狼狽えつつも、僕は必死に冷静を装って続きを促す。アーミは少し迷ったようだけれど、お水を飲んで、口を開いた。
「まぁ、うん。なんだろう。僕の彼氏って、愛情表現は控えめなんだよね。……言葉も、ないんだ」
そう言うアーミは、本気で悩んでいるようだった。
……だから、僕は頭の中に浮かんでいたセラフィンさまとのことを、一旦忘れると決めた。
「そもそも、僕が好きになって付き合ってほしいって言ったから。……彼氏は、僕のこと迷惑だと思っているんじゃないかなって」
眉を下げて、アーミが今にも泣きそうな表情になる。
……こういうとき。頭の回転が速ければ、いい言葉が出てくるのだろう。でも、僕にはそんな頭の回転の速さはなくて。
「……そ、っか」
相槌を打つことしか、出来なかった。
「相手は、僕とは違ってモテるんだ。どんな人も、選び放題。考えてみたら、僕と付き合っていても相手にはメリットなんてない」
アーミのその言葉は、僕がセラフィンさまに対してずっと思っていることと同じだった。
セラフインさまはこんな僕を側においてくださる。けど、セラフィンさまには僕じゃなくてもいい。僕以外にもたくさんの人が周りにいる。……僕一人いなくても、いいんじゃないかって、思うことは本当に多かった。
「だから、その。……もう、別れたほうがいいのかなって」
悲痛なアーミの声。本当は、別れたくないのだと思う。
そんな彼を放っておけなくて、僕はテーブルの上にあったアーミの手を握る。アーミが、顔を上げた。
「その。アーミから聞く、彼氏さんとのお話は……すごく、楽しそうだった、よ」
アーミはいつも彼氏さんとのお話を楽しそうに聞かせてくれた。
何処に連れて行ってもらったとか。プレゼントをもらったとか。あとは、王城で仕事中にばったり出くわしたとか。
そういう些細なことでも、幸せを覚えている。ならば。
「だから、本音を伝えずに別れるのは、ダメだと思う。……その。しっかりと、気持ちを伝えるべきだと、思う」
「……ルドルフ」
「ごめん。僕は恋愛経験なんてないから、こういうことしか言えない、けど……」
ただ、アーミの友人として。アーミの幸せは願っているんだって。
それだけは、伝えたかった。
「僕は、アーミに幸せになってほしい……んだ。僕なんかに思われても、嫌かもだけれど……」
自虐みたいに最後にそう付け足せば、アーミはようやく笑ってくれた。
「ルドルフにそう言ってもらえて……僕も、嬉しい」
「そ、そう……? け、けど。アーミには僕以外にもたくさん友人がいるし……」
アーミしか友人がいない僕とは、全然違うじゃないか。
心の中でそう思っていれば、アーミはむすっとしていた。
「あのね、僕はルドルフを大切な友人だって思ってる。だから、自分を卑下しないで」
「……そ、それは」
「僕が好きなルドルフを、ルドルフ自身が卑下するなんて許さない」
はっきりとそう言われて、勢いでうなずいてしまった。
……僕にそんなこと、出来るわけないのに。
「ただ、うん。なんだろう。ありがとう。……ちょっと、すっきりした」
「……アーミ」
「ルドルフに聞いてもらえてよかった。僕、もうちょっと彼氏と話すよ」
吹っ切れたようなアーミの表情に、僕はほっとした。
……アーミが悲しんでいると、僕も悲しいから。
そう思っていれば、先ほどの男性がワゴンを押してやってくる。ワゴンの上には、ビーフシチューとパン。それから、小さなサラダ。あとはカットフルーツが載せられていた。
「どうぞ、ビーフシチューのランチセットです」
彼が慣れた手つきで、僕とアーミの前にお皿を並べていく。
湯気の上がるビーフシチューは、とっても美味しそうで。……自然と、喉が鳴った。
268
お気に入りに追加
771
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる