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第1部 第1章

従者の特別な仕事 3

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 何処か色気を孕んだその声に、身体がぶるりと震えた。

(でも、別に変なことをするわけじゃないんだし……)

 自分自身にそう言い聞かせて、僕はセラフィンさまに連れられて、寝台のほうへと向かう。

 王族が使用している寝台は、とても広い。合わせ、素材もとてもよくて、ふかふかだ。

「はい、どうぞ」
「お、お邪魔、します……」

 正直、これで挨拶が合っているのかは、わからない。

 でも、なにか言わなくちゃ……と思って、いつもいつもこう言ってしまう。セラフィンさまは、そんな僕の様子を見て笑うだけだ。

(う、本当に、すごい……)

 靴を脱いで、おずおずと膝を載せる。ふわっとしていて、沈み込む寝台はとても寝心地がよさそう。いや、実際寝心地はいいのだけれど。僕は、もうすでに何度もここで眠らせていただいている。

「やっぱり、緊張してる?」

 セラフィンさまはためらいもなく寝台に載って、寝転がられる。

 そして、相変わらずぎこちない動きをする僕の身体を、半ば無理やり横にならせた。

「はい。……そんなに緊張しないでいいのに」

 そう囁かれたセラフィンさまが、僕の身体に自身の身体を密着させてこられる。

 ……顔が熱い。何度も何度もこういう風にしているけれど、全然慣れない。慣れる気配もない。

「っはぁ、やっぱりこうしてると、落ち着くんだよね……」

 セラフィンさまがそう呟かれて、僕の身体をぎゅうっと抱きしめてこられる。

 僕はびくびくとして、身体を硬くする。

「そんなに硬くならなくてもいいのに。……ただの、抱き枕でしょ?」
「そ、うなのですが……」

 そうは言っても、この状況下はいろいろと問題……なのだと、思う。

 そりゃあ、同性なのだからそこまで恥ずかしがることではないと思う。でも、僕はこういう風に人と寝台を共にしたことがないから、やっぱり狼狽えてしまう。

「というか、今更気が付いたけれど、俺と向かい合っているから、変に緊張するんじゃないの?」

 彼が今思いついたとばかりに、そうおっしゃった。……それは、まぁ、ある、かもしれない。

「背中に抱き着いてみたいかな。……ルドルフ、頼む」
「あ、は、はい」

 僕ごときがセラフィンさまのご命令に逆らうなんてこと、出来ない。

 あと、純粋に彼の申し出は嬉しくて。僕は、おずおずと動いて、彼に背中を向ける形になる。

「はぁ、こっちもいいかも……」

 セラフィンさまが、僕の背中に抱き着いて、そう呟かれた。

(この体勢だと、お顔を見なくて済む、けれどっ……!)

 セラフィンさまの息が、首筋に当たってこそばゆい。その所為で、なんだか変な気持ちになってしまいそうだ。

(僕は抱き枕、抱き枕。セラフィンさまの快適な眠りのための、枕なんだ……)

 ぎゅっと目を瞑って、自分自身にそう言い聞かせる。

 この特別な仕事が始まったのは、今から十ヶ月ほど前。

 なんでも、当時セラフィンさまは不眠に悩まされていたそうだ。眠れない。眠れたとしても、すぐに目覚めてしまうなど。そんな状況で、悩まれていた。

 だから、僕は彼の力になりたいと願った。なにか出来ることがあるのならば……そう、思った。

 ただ、僕の『力になる』の意味を、セラフィンさまは別の意味で捉えられてしまった。

 それこそ――抱き枕になる、ということ。

 初めはお試しだったのに、セラフィンさまは相当お気に召されたようで。僕は週に三度、この特別なお仕事に就いている。

 周囲に言えないのは、セラフィンさまに『抱き枕がないと寝れない王子』という不名誉っぽいあだ名をつけられないため。

 ……それだけ。

(それに、まさか男に抱き着いて眠っているなんて知られたら、今後いろいろなことに関わりそうだし……)

 なので、僕は黙っている。この関係を。セラフィンさまの行動を。

「ルドルフの体温は、ちょうどいいよ」
「そ、うですか」
「あぁ。……なんだろう。もっと、密着してもいい?」

 ……正直、無理だ。これ以上密着されると、僕の中に変な気持ちが芽生えてしまう。

 そう思うけど、僕に逆らうことなんて出来なくて。僕は、こくんと首を縦に振って、応じる。

「ありがとう」

 セラフィンさまがそう零されて、僕の背中にご自身の胸を密着させる。

 僕のお腹のほうに回す腕の力を強められて、ご自身のほうに引き寄せる。

(う、ま、待って、これ、だめ……)

 なんだろう。背中に伝わる体温が、僕の心を変にしていく。

 自然とごくりと息を呑んでしまって、僕の身体は自然と逃げようともがいてしまう。

「こら、逃げたらダメだ。……そういうことをするなら、こっちにも考えがある」
「かんが、えっ!?」

 僕の言葉を最後まで聞かずに、セラフィンさまが僕のシャツの中に手を滑り込ませてこられた。

 ……待って、待って、待って!

(こ、れ、ダメだって……!)

 セラフィンさまの手のひらのぬくもりが、僕の肌にダイレクトに伝わる。……おかしく、なってしまいそうだ。
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