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第1部 第1章

従者の過去 2

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 職探しは難航するかもしれない。

 そう思っていたけれど、案外あっさりと見つかった。

 その仕事は、王城の従者というものだった。

『身元のはっきりとした貴族の方は、雇いやすいのですよ』

 採用担当だという男性は、にっこりと笑ってそう言っていた。

 まぁ、貴族ということは、変なことはしないということだ。貴族の人間は、家名に泥を塗ることをなによりも嫌う。

 だから、窃盗をしたりすることは、考えにくい。

 あと、純粋に人手不足だとか、説明を受けたのだけれど。

 その後、王城にある使用人棟に住まわせてもらうことが決まった僕は、今までにないほどにやる気に満ちていた。

(ここでしっかりと働けば、きっと将来役に立つ……!)

 王城での使用人経験は、絶対に役に立つはずだ。

 そんな風に考えて、僕は出勤初日を迎えた……の、だけれど。

 ――現実は、そんなに甘くなかった。

 そもそも、僕は要領が悪いのだ。挙句手先も不器用で、なんの努力もしてこなかったような人間。

 人と関わることも得意ではなく、人に追加で教えを乞うということも、出来なかった。

 そうなれば、待っているのは――ミス連発の日々だった。

『もうお前の相手など出来んわ』

 初めてついてくれた教育係の男性は、ため息をつきつつ憐れんだような視線を僕に向けて、教育を放棄した。

『多分キミ、従者に向いてないよ』

 次についた教育係の男性は、苦笑を浮かべつつ退職を促してきた。……まぁ、真実だから仕方がない。

 とまぁ、こんな感じで。僕の教育係……もとい上司は、ころころと変わっていく。僕の役目も次から次へと変わって、気が付いたら従者が担当するべきお仕事をほとんど経験してしまっているほどだった。

 それから、王城で働き始めて三ヶ月が経った頃。僕は、当時の上司にクビ宣告をされた。

「お前は愚図だし、のろまだし。なによりも、要領が悪い。もう、お前がここにいて出来ることはないな」

 自身の顎を撫でながら、上司がそう言う。その目は困った子供を見るような目であって、僕の元々ない自尊心は粉々になった。

 そうか。僕は、子供よりも仕事が出来ないのか。それを、思い知らされた。

 が、ここで易々と辞めるなんてこと出来なかった。

 だって、僕には家がない。ここを追い出されたら、路上暮らしをするしかない。邸宅に戻っても、怒られるだけだろうし。

「な、なんとか、なんとかしてここにおいてください!」

 僕は、腹から声を出して上司に縋った。

「なんでもします。なんでも、だから……」

 若干涙声になっていたのは、仕方がないだろう。当たり前だ。今後の生活がかかっているのだから。

 上司の従者服を掴んで、必死に訴える。顔を上げれば、困ったような表情を浮かべる上司と目があった。

「だが、もうお前がここで出来る仕事はないんだ。いろいろなところから、苦情が来ていてな」

 その言葉は、多分上司なりの優しさだったんだろう。ここにいてもいい思いはしない。だから、他所に行っておいで。そんな意味を、含んでいた……の、だと思う。

 でも、僕は気が付いていた。他所に行ったところで、どうせろくな仕事は出来ないだろうと。

(だって、僕は愚図だし、のろまだ。容姿だってよくない。……そんな僕に、訪れる未来なんて……)

 正直、路上で死ぬことしか、考えられなかった。

 その所為で、ぞっとする僕の手を、上司がはたき落とす。

「もう、これは決定事項だ。いいな?」

 納得できるわけがない。確かに僕が悪いのだけれど、けど、なんとか、なんとか……。

(なんとか、せめて、新しい仕事が見つかるまでは……!)

 その日は来ることがあるのかは、わからないけれど。

 ぐっと唇をかみしめて、下を向いて。僕は、自分の情けなさを痛感した。

 両親は僕のことを『愚図』だと罵った。『要領が悪い』とバカにした。『のろま』だと呆れていた。

 ……両親の言っていたことは、何処までも真実だった。

(僕は、どうせどこに行っても、お荷物なんだ……!)

 そう思って、上司の従者服の裾を、放したとき。不意に、隣に誰かが立ったのがわかった。

「――大丈夫か?」

 ピカピカの靴を履いたその人は、僕に合わせるようにしゃがみこんだ。僕は、怖くてその人の顔を見ることが出来なかった。
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