【R18】溺れるほどの愛を、与えて~記憶喪失の美貌の青年は、マフィアに拾われる~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1部 第2章 共同生活

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「――ごめんなさい」

 ラウルは謝罪をすることしか出来なかった。

 対するジェロルドは一度だけ「ふぅ」と息を吐くとラウルを見つめる。彼の視線は射貫くかのように鋭い。

「いや、俺のほうも強く言い過ぎた。悪かったな」

 口を開いたジェロルドの態度はいつも通りのものだ。

 それに少しだけ安心して、ラウルは食事を再開する。

(ジェロルドさんのお仕事については、今後も口を挟まないようにしよう)

 ラウルには行く当てなどない。ジェロルドに追い出されてしまえば、誰にも頼ることが出来なくなってしまう。

(もちろんいつまでもお世話になるわけにはいかないけど)

 いつかは自立しなくてはならない。

 そうは言っても、今のラウルにとって自立は絶望的だ。やはり、記憶がないのが辛い。

 あまりにも浮かない表情をしていたのだろうか。ジェロルドが手を伸ばしてラウルの頭を撫でる。

「今はとにかく、身体を休めろ。今後のことは身体が休まってから考えればいい」
「……はい」

 うなずくも、納得は出来そうになかった。

 このままでは自分はジェロルドのお荷物でしかない。せめて、彼の役に立てないだろうか――。

「あの、ジェロルドさん――」

 自分にできることはないか。ラウルが問いかけようとすると、不意に部屋の呼び鈴が鳴った。

 ジェロルドは気にする素振りもなく食事を続ける。放っておいてもいいのだろうか?

(ジェロルドさんが気にしていないっていうことは、無視でいいんだよね)

 一人で納得して、ラウルは水を飲む。だが、呼び鈴は鳴り続ける。うるさくてかなわない。

「ったく、誰だよ……」

 ジェロルドが悪態をつく。かと思えば、玄関の扉がガンガンとたたかれたのがわかった。

 さすがにこれは咎めたほうがいいのではないだろうか?

「その、大丈夫ですか?」

 恐る恐る彼に問いかけた。ジェロルドはラウルを見て首をかしげる。

「なにがだ?」
「いえ、なんか、怒っていらっしゃるのではと思って」

 扉のたたき方からして、相手は相当怒っている。

 肌で怒りをひしひしと感じて、ラウルは身を縮めた。ジェロルドは「あぁ」と声を上げる。

「誰が来たのか、大体想像はついてるからな。……いつかは諦めるだろ」

 ――とジェロルドは言うものの。

 三分ほど経っても、未だに呼び鈴は鳴り、扉はガンガンとたたかれていた。

(なんか、頭おかしくなりそう)

 気が滅入ってしまいそうだと思ったとき――ジェロルドが立ちあがった。

「お前はここにいろ」

 ジェロルドは言葉を残し、玄関のほうに向かう。

 彼もかなり怒っているらしい。足音がとにかく大きい。乱暴に歩いているのもわかった。

(ここにいろって言われても)

 けど、やっぱりジェロルドの様子が気になってしまう。

 音を立てずに立ち上がって、ラウルは移動する。足音を殺して、見つからないように怯えつつも玄関のほうを覗いた。

「ですから――」

 ジェロルドと話しているのは男性のようだ。男性の言葉はよく聞こえないが、言葉遣いからしてジェロルドよりも立場は下のようである。

「うるさいな。俺がいつ休もうが勝手だろ」
「確かにそうです。ここのところあなたさまは働きづめでしたし……かといって、無断欠勤は辞めていただきたい!」

 男性が大きな声で叫ぶ。

 どうやら、ジェロルドの仕事の関係者ようだ。

(というか、ジェロルドさん無断欠勤だったんだ)

 昼夜問わずラウルの世話を焼いてくれていたが、まさか無断欠勤をしていたなんて――。

 彼の職場の人に申し訳なくてたまらない。

「わかったよ、明日から行けばいいんだろ、行けば」

 ジェロルドが強引に扉を閉めようとしているのが見えた。

 そのとき、不意にラウルと男性の視線が交わった。男性が驚いたように目を見開く。ラウルは咄嗟に身を縮める。

 ジェロルドにバレてしまったら、怒られると思ったのだ。
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