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第1部 第2章 共同生活

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 ラウルがジェロルドと共同生活を始めてから、三日が経ち。

 ジェロルドは口こそ悪いものの、ラウルの世話に嫌な顔一つしなかった。むしろ、過保護だったかもしれない。少し動こうとしただけで、烈火のごとく怒ったほどだ。

 結果的にラウルは三日間をほとんど寝台の上で過ごした。そのおかげかはわからないが、ラウルはすっかり元気になっていた。

「いただきます」

 ジェロルドが用意した朝食を前に、ラウルは小さくつぶやいた。

 朝食のメニューは硬めのパンとコーンスープ。ところどころ焦げたスクランブルエッグと、焼き目のつきすぎたベーコンだ。

 スクランブルエッグと焼いたベーコンはジェロルドが作ったらしい。ラウルと共に住むようになった彼は、宣言通り料理を始めた。もちろん、初心者である彼が作ることが出来るメニューは限られている。

「お前は本当に美味そうに食うよな」

 目の前で食事をするジェロルドが声をかけてくる。ラウルはスープを一口飲み、笑った。

「だって本当に美味しいんです!」
「そうかよ」

 返答は素っ気ないものだが、ジェロルドも嬉しかったらしい。頬に少し朱が差している。

「料理ってのは想像以上に難しいな。全く上達してない」
「大丈夫です! 朝食は美味しいです!」
「励ましになってないっての。でもま、ありがとな」

 ラウルの頭を撫で、ジェロルドが言う。顔には笑みが浮かんでおり、ラウルは安心していた。

 彼が料理で悩んでいることは、ラウルも知っていた。

(僕が少しでも役に立てたらいいんだけど……)

 ラウルも料理は未経験だ。役に立てるとは思えない。そもそも、ジェロルドの許可を取るのが大変そうである。

 彼はラウルに対しては過保護どころの騒ぎではない。ラウルとしてはもう動いても大丈夫なのに。

「今日はなにをしようかねぇ」
「僕はジェロルドさんのお話が聞きたいです」

 びしっと手を挙げて言うと、ジェロルドが呆れたような笑みを浮かべる。

「お前、俺の話ばっかり聞いてて飽きないのか?」
「全然飽きないです! 楽しいです!」

 記憶がないラウルにとって、ジェロルドの話はすべてが新鮮だった。

 ありふれた話も、ラウルにとってはワクワクする冒険譚だ。知識を得ることが、こんなにも楽しいことだなんて知らなかった。

(記憶を失うまでの僕は、どうだったんだろう)

 こんな風に知らない知識にワクワクしていたのだろうか? それとも、飽き飽きしていたのだろうか?

「じゃあ、どういうことが聞きたいかリクエストを聞いてやる」

 上から目線でジェロルドが言う。ラウルの心が沸き立った。

(どんなことでも教えてくれるのかな? だったら、どういうのがいいだろう?)

 日常生活で気になることを聞いてもいい。地理関係でもいいし、国のことを教えてもらうのもいいかもしれない――。

「――僕、ジェロルドさんのお仕事のことが聞きたいです!」

 結局、一番気になることを口にしていた。

 ラウルを拾ってから、ジェロルドは仕事に出ていない。

 休みを取っているのか。はたまた時間に縛りのない仕事なのか。

(ジェロルドさんは、すっごくかっこいいから。すごい仕事をしてるんだろうなぁ)

 ラウルは目を輝かせ、ジェロルドを見つめた。しかし、ジェロルドの表情は浮かない。

「――却下だ」

 しんと静まり返った空間に、ジェロルドの冷たい声が響く。まるで、興奮した心に容赦なく冷水をかけられてしまったように。ラウルの心が一気に冷え切っていく。

「ジェロルドさん?」
「それだけはダメだ。俺の仕事のことは、教えられない」

 彼が首を横に振る。優しい口調の割に、声が冷たい。

 こんな彼をラウルは初めて見た。

「あの」
「ここに深入りしたら、俺はお前を追い出さなくちゃならない」

 冷たい目でラウルを見つめ、ジェロルドが言い放つ。普段の彼の「追い出す」ならば冗談だと受け取ることが出来たはずだ。

 ただ、今は冗談だなんて蹴り飛ばすことは出来ない。ラウルはジェロルドの本気を肌で感じ取っていた。
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