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一方的にライバル視している男と×××しないと出られない部屋に閉じ込められてしまった私の顛末
1.
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魔法と魔術が発展したル・ベル王国。
この王国には時折不思議な現象が起こる……らしい。
それこそ『出られない部屋』というものだ。何らかの魔術が勝手に働き、指定されたことを行わないと名前の通り永遠に出られない部屋である。
そして、この日――ラクルテル男爵家の令嬢であり、女騎士であるテレーズはその部屋に閉じ込められた。
しかも――最悪なことに、テレーズが一方的にライバル視している男性と一緒に。
◇
身体を揺らされ、ゆっくりと目を開ける。すると、見知らぬ天井が視界に映り――テレーズは勢いよく身を起こす。その瞬間、誰かの頭と自身の頭がぶつかり、鈍い痛みを感じた。
「いったぁ……」
小さくそう呟き、その『誰か』の方に視線を向ける。すると、そこには――美しい漆黒色の短い髪を持つ一人の青年がいた。彼はテレーズとぶつけた自身の頭を軽く撫でながら、「あ、起きました?」とテレーズに声をかけてきた。だからこそ、テレーズの頬が引きつってしまう。
「こ、ここ、どこ……?」
しかし、今気にするべきは目の前の男よりも自分が置かれた状況である。
見知らぬ部屋に、男性と二人きり。自分の身体は床に寝かされていたらしく、身体の節々が軽く痛む。
そっと男性に視線を向ければ、彼はその青色の目の奥に困ったような色を映す。……どうやら、彼もよく分からないらしい。
「さぁ、俺にもさっぱり。俺も起きたら、ここでして……」
彼は眉を下げながらそう言う。
その言葉を聞いて、テレーズは「……そんなの」と呟いて口を閉ざした。この王国ではこういう不可解な現象が度々起こる。それは魔力が勝手に暴走した結果のこともあるし、適当な誰かが魔術を使ったという可能性もある。……まぁ、一言で言えば可能性は無限大なのだ。
「……ラウル、さま」
テレーズは少し低めの声で男性の名前を呼んだ。そうすれば、彼は「はい」と返事をくれる。
ラウル・アルナルディ。彼は王立騎士団の次期団長と名高い男性である。その美しくも精悍な顔立ちと、丁寧な態度から女性人気が大層高く、いつも女性に囲まれている。ちなみに、伯爵家の令息なので生まれにも欠点がない。
そんな彼のことがテレーズは少し……いや、かなり苦手だった。それに合わせ、テレーズは実のところ彼のことを一方的にライバル視していたのだ。
(そんな彼とこんなところにいるなんて……ありえないわ)
そう思いつつ辺りを見渡すものの、部屋に入り口はない。出口もない。窓さえもない。あるのは巨大な寝台と……いくつかの生活が出来そうな道具。……何だここは。
「あの、テレーズ嬢」
「……はい」
テレーズが辺りを見渡していると、不意にラウルが声をかけてきた。なのでテレーズが返事をすれば、彼は「……多分ここ、かの有名な出られない部屋かと」と言ってくる。……出られない部屋。
(出られない部屋って……あの!?)
表情が引きつっているのがわかる。それに、そもそも出られない部屋になんて閉じ込められたことはない。何度か話には聞いているものの、まさか自分が閉じ込められるとは思いもしなかった。
「え? っていうことは……まさか、何かしないと出られないのですか……?」
上ずったような声でそう言えば、ラウルはこくんと首を縦に振る。
それに軽く絶望しながらも、テレーズは一体何が条件なのかと考える。軽い触れ合いとか、なのだろうか?
(口づけくらいまでならば、許容……出来るわけがないでしょ!?)
内心で一人ボケと突っ込みを繰り返しつつ、テレーズはぶんぶんと首を横に振る。こういう部屋では恋愛的なことがお約束だ。少なくとも、テレーズはそう思っている。
かといって、この男性との口づけなんて絶対に嫌だった。何故好き好んで苦手な男性と口づけ、しかもファーストキスをしないといけないのか。そう思いつつ押し黙るテレーズを他所に、ラウルは「……まぁ、俺は何が条件なのか知っているんですけれど……」と言いながら頬を掻く。
「……教えてほしいですか?」
真剣な面持ちでテレーズの目を見つめて、ラウルがそう問いかけてくる。……教えてほしい。むしろ、教えてもらわないと困るのだが。
そう思いテレーズがこくんと首を縦に振れば、彼は「……聞かない方が、幸せかもしれませんよ?」と言ってくる。
「で、ですがっ! 私はさっさとここから出ないと――……!」
テレーズの家は男爵家ではあるものの、かなりの貧乏なのだ。しかも、二人の弟妹がいる。テレーズが女騎士として国に従事しているのも、生活費を稼ぐため。早いところ帰らないと、両親や弟妹たちが心配してしまう。
「そうですか。じゃあ、さっさとことを済ませましょうか」
テレーズの言葉を聞いたラウルは、テレーズの膝裏に手を入れる。
一体、何をするのだろうか?
そう思いきょとんとするテレーズをラウルは軽々と抱きかかえる。
「きゃぁあっ!」
「暴れないで」
驚いて暴れてしまいそうになるテレーズを言葉だけで押し黙らせ、ラウルはテレーズを巨大な寝台の方に連れていく。
そして、そのまま優しく寝台の上に降ろす。
「……一応、言っておきましょうか。この部屋から出る条件。それは――」
――まぁ、世にいう男女の夜の営みをすること、らしいんですよね。
この王国には時折不思議な現象が起こる……らしい。
それこそ『出られない部屋』というものだ。何らかの魔術が勝手に働き、指定されたことを行わないと名前の通り永遠に出られない部屋である。
そして、この日――ラクルテル男爵家の令嬢であり、女騎士であるテレーズはその部屋に閉じ込められた。
しかも――最悪なことに、テレーズが一方的にライバル視している男性と一緒に。
◇
身体を揺らされ、ゆっくりと目を開ける。すると、見知らぬ天井が視界に映り――テレーズは勢いよく身を起こす。その瞬間、誰かの頭と自身の頭がぶつかり、鈍い痛みを感じた。
「いったぁ……」
小さくそう呟き、その『誰か』の方に視線を向ける。すると、そこには――美しい漆黒色の短い髪を持つ一人の青年がいた。彼はテレーズとぶつけた自身の頭を軽く撫でながら、「あ、起きました?」とテレーズに声をかけてきた。だからこそ、テレーズの頬が引きつってしまう。
「こ、ここ、どこ……?」
しかし、今気にするべきは目の前の男よりも自分が置かれた状況である。
見知らぬ部屋に、男性と二人きり。自分の身体は床に寝かされていたらしく、身体の節々が軽く痛む。
そっと男性に視線を向ければ、彼はその青色の目の奥に困ったような色を映す。……どうやら、彼もよく分からないらしい。
「さぁ、俺にもさっぱり。俺も起きたら、ここでして……」
彼は眉を下げながらそう言う。
その言葉を聞いて、テレーズは「……そんなの」と呟いて口を閉ざした。この王国ではこういう不可解な現象が度々起こる。それは魔力が勝手に暴走した結果のこともあるし、適当な誰かが魔術を使ったという可能性もある。……まぁ、一言で言えば可能性は無限大なのだ。
「……ラウル、さま」
テレーズは少し低めの声で男性の名前を呼んだ。そうすれば、彼は「はい」と返事をくれる。
ラウル・アルナルディ。彼は王立騎士団の次期団長と名高い男性である。その美しくも精悍な顔立ちと、丁寧な態度から女性人気が大層高く、いつも女性に囲まれている。ちなみに、伯爵家の令息なので生まれにも欠点がない。
そんな彼のことがテレーズは少し……いや、かなり苦手だった。それに合わせ、テレーズは実のところ彼のことを一方的にライバル視していたのだ。
(そんな彼とこんなところにいるなんて……ありえないわ)
そう思いつつ辺りを見渡すものの、部屋に入り口はない。出口もない。窓さえもない。あるのは巨大な寝台と……いくつかの生活が出来そうな道具。……何だここは。
「あの、テレーズ嬢」
「……はい」
テレーズが辺りを見渡していると、不意にラウルが声をかけてきた。なのでテレーズが返事をすれば、彼は「……多分ここ、かの有名な出られない部屋かと」と言ってくる。……出られない部屋。
(出られない部屋って……あの!?)
表情が引きつっているのがわかる。それに、そもそも出られない部屋になんて閉じ込められたことはない。何度か話には聞いているものの、まさか自分が閉じ込められるとは思いもしなかった。
「え? っていうことは……まさか、何かしないと出られないのですか……?」
上ずったような声でそう言えば、ラウルはこくんと首を縦に振る。
それに軽く絶望しながらも、テレーズは一体何が条件なのかと考える。軽い触れ合いとか、なのだろうか?
(口づけくらいまでならば、許容……出来るわけがないでしょ!?)
内心で一人ボケと突っ込みを繰り返しつつ、テレーズはぶんぶんと首を横に振る。こういう部屋では恋愛的なことがお約束だ。少なくとも、テレーズはそう思っている。
かといって、この男性との口づけなんて絶対に嫌だった。何故好き好んで苦手な男性と口づけ、しかもファーストキスをしないといけないのか。そう思いつつ押し黙るテレーズを他所に、ラウルは「……まぁ、俺は何が条件なのか知っているんですけれど……」と言いながら頬を掻く。
「……教えてほしいですか?」
真剣な面持ちでテレーズの目を見つめて、ラウルがそう問いかけてくる。……教えてほしい。むしろ、教えてもらわないと困るのだが。
そう思いテレーズがこくんと首を縦に振れば、彼は「……聞かない方が、幸せかもしれませんよ?」と言ってくる。
「で、ですがっ! 私はさっさとここから出ないと――……!」
テレーズの家は男爵家ではあるものの、かなりの貧乏なのだ。しかも、二人の弟妹がいる。テレーズが女騎士として国に従事しているのも、生活費を稼ぐため。早いところ帰らないと、両親や弟妹たちが心配してしまう。
「そうですか。じゃあ、さっさとことを済ませましょうか」
テレーズの言葉を聞いたラウルは、テレーズの膝裏に手を入れる。
一体、何をするのだろうか?
そう思いきょとんとするテレーズをラウルは軽々と抱きかかえる。
「きゃぁあっ!」
「暴れないで」
驚いて暴れてしまいそうになるテレーズを言葉だけで押し黙らせ、ラウルはテレーズを巨大な寝台の方に連れていく。
そして、そのまま優しく寝台の上に降ろす。
「……一応、言っておきましょうか。この部屋から出る条件。それは――」
――まぁ、世にいう男女の夜の営みをすること、らしいんですよね。
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