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勇者に選ばれた恋人が、王女様と婚姻するらしいので、
待つ恋人アデルミラの話(2)
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「……やってきたわ、『リナリア』」
アデルミラの前に立ちふさがる、純白の城のような豪奢な建物。その建物を見つめながら、アデルミラはそうぼやいた。
ここは王都一の結婚相談所『リナリア』。別名『縁結びの園』。ここに登録すれば、九割の人間が一年以内に運命の相手と出逢えるという。その分会費は高めだが、そんなことアデルミラからすれば気にすることでもなかった。貯金ならばたっぷりとある。どうせ、ロレンシオは自らを迎えには来ないのだ。ならば、もっといい相手を見つけるだけだ。そう、思っていた。
そんなことを考えながら、アデルミラはゆっくりと木製の扉を開く。そうすれば、建物の内部が見えた。純白をイメージしたような、綺麗な内装は清潔感がある。受付に立つ一人の女性は、アデルミラのことを見つめてにっこりと笑った。その笑みに、アデルミラの緊張していた心がほぐされていく。
「ようこそ、『リナリア』へ。私はここの支配人のセレナと申します」
「……支配人、さん」
「はい」
こんなにも若い女性が、ここを切り盛りしているのか。そう思ってしまい、アデルミラは目を見開く。
セレナと名乗った支配人は、どう見ても二十代半ばにしか見えない。確かに『リナリア』はここ五年程度で急成長した結婚相談所だが、まさかこんなにも若い女性が支配人だとは思わなかった。そして、何故支配人であるセレナが受付などをしているのだろうか。
「……あの」
「いえ、今日は雇っている受付嬢の子が体調不良でお休みなので、私が受付をしているだけですよ。さて、まずは登録しましょうか」
セレナはそれだけを言うと、アデルミラのことを手招きする。それから、アデルミラがセレナに連れてこられたのは……受付のすぐ隣にある応接スペースのような場所。その後、セレナはアデルミラにソファーを勧めてきたので、アデルミラはソファーに腰かけた。
「さて、一応確認ですが登録希望の方ですよね?」
その美しい漆黒色の目を細めながら、セレナはアデルミラにそう問いかけてくる。だから、アデルミラは静かに頷いた。
セレナは同性から見ても大層美しい女性だった。漆黒色の肩の上までのボブと、大きな黒色の目。何処かこの世界に似つかわしくない色彩を持つ女性だが、それでも感じられる気品は相当なものだ。それに、感じる魔力の量も。
「あ、あの……セレナ、さんは……」
「私のことは、何も訊かないでくださいませ。……私はただ縁結びの役割を貰った一般人ですので」
そう言って、セレナは笑う。その笑みには有無を言わさぬ迫力があって。その所為で、アデルミラはただ頷くことしか出来なかった。そんなアデルミラの態度を見て満足したのか、セレナは「では、まずは簡易プロフィールを教えてくださいませ」と言う。
「……私は、アデルミラ・カルヴァートと、申します。年齢は十八歳。田舎の方の出身で、今は王都のアパートで一人暮らしをしています」
アデルミラの自己紹介を、セレナは紙に書き留めていく。
それから、しばらく質疑応答のような時間が過ぎた。セレナはアデルミラにいくつかの質問をし、それをアデルミラが答えるスタイルだ。いくつかの質問に答えた後、セレナはハッと顔を上げる。
「……どうか、なさいましたか?」
「……いえ、なんでも。では、アデルミラさん。貴女の理想の男性を、出来るだけ詳しく教えてくださいませ」
――来たな、その質問。
心の中でそう呟き、アデルミラはじっと考えるふりをする。そして、数分後に口を開いた。
「まず、たくましい男性が良いです。体格は騎士様のようにがっしりとした人。髪色は黒。目の色は青。年齢は私よりも年上でお願いします。出来れば、五つ以上。性格は優しくて頼りがいのある人が好ましいです。あとは……物理的に、強い人」
早口で紡がれた理想の男性の要素は、間違いなくロレンシオそのものだった。でも、アデルミラはそれに気が付かない。自分の理想の男性が、ロレンシオでしかないということに、この時すでに気が付けたはずなのに。それでも気が付けなかったのはきっと……アデルミラが、相当ロレンシオに腹を立てていたという証拠なのだろう。
「……そ、そうです、か。では、登録しますね。一応、住所を教えてくださいませ」
「住所、ですか?」
「はい、理想に似た男性が見つかりましたら、お手紙をお送りしますので」
それならばまぁ、仕方がないか。そう判断し、アデルミラは出された紙に自身の住所を綴っていく。その紙をセレナに手渡せば、彼女はその紙に素早く手をかざす。そうすれば……その紙は、淡い光を放った。
「これで登録は完了です。……ただ」
「……ただ?」
「私の見た感じですと、貴女は既に運命の男性と出逢っていますよ。……そして、その人物から異常なまでの愛情も、向けられています」
セレナのその言葉に、アデルミラは目を見開くことしか出来なかった。もしかしたら、自分の運命の相手はロレンシオなのかも……と、思ってしまったのだ。それでも、それだけは嫌だった。裏切られたのだから。もう、彼を信じることなど出来ない。
「そんなわけないです。なので、お手紙を待っております」
セレナの言葉を蹴り飛ばし、アデルミラは『リナリア』を出ていく。その足取りは、何処か重苦しかった。
(私が既に運命の男性に出逢っている? 嘘言わないで。お兄ちゃんは……私のことを、捨てたのよ)
心の中でそうぼやき、アデルミラは「はぁ」とため息をついた。普通に考えれば、今まで出逢った男性の中に運命の人がいると考えるのが妥当だろう。なのに、アデルミラからすればロレンシオ以外は恋愛対象では、なかった。
「……まーた、面倒なのが来ちゃったなぁ」
さらには、『リリアナ』の中からセレナがアデルミラを見つめて、そうぼやいていたことも、知ることが出来なかった。
アデルミラの前に立ちふさがる、純白の城のような豪奢な建物。その建物を見つめながら、アデルミラはそうぼやいた。
ここは王都一の結婚相談所『リナリア』。別名『縁結びの園』。ここに登録すれば、九割の人間が一年以内に運命の相手と出逢えるという。その分会費は高めだが、そんなことアデルミラからすれば気にすることでもなかった。貯金ならばたっぷりとある。どうせ、ロレンシオは自らを迎えには来ないのだ。ならば、もっといい相手を見つけるだけだ。そう、思っていた。
そんなことを考えながら、アデルミラはゆっくりと木製の扉を開く。そうすれば、建物の内部が見えた。純白をイメージしたような、綺麗な内装は清潔感がある。受付に立つ一人の女性は、アデルミラのことを見つめてにっこりと笑った。その笑みに、アデルミラの緊張していた心がほぐされていく。
「ようこそ、『リナリア』へ。私はここの支配人のセレナと申します」
「……支配人、さん」
「はい」
こんなにも若い女性が、ここを切り盛りしているのか。そう思ってしまい、アデルミラは目を見開く。
セレナと名乗った支配人は、どう見ても二十代半ばにしか見えない。確かに『リナリア』はここ五年程度で急成長した結婚相談所だが、まさかこんなにも若い女性が支配人だとは思わなかった。そして、何故支配人であるセレナが受付などをしているのだろうか。
「……あの」
「いえ、今日は雇っている受付嬢の子が体調不良でお休みなので、私が受付をしているだけですよ。さて、まずは登録しましょうか」
セレナはそれだけを言うと、アデルミラのことを手招きする。それから、アデルミラがセレナに連れてこられたのは……受付のすぐ隣にある応接スペースのような場所。その後、セレナはアデルミラにソファーを勧めてきたので、アデルミラはソファーに腰かけた。
「さて、一応確認ですが登録希望の方ですよね?」
その美しい漆黒色の目を細めながら、セレナはアデルミラにそう問いかけてくる。だから、アデルミラは静かに頷いた。
セレナは同性から見ても大層美しい女性だった。漆黒色の肩の上までのボブと、大きな黒色の目。何処かこの世界に似つかわしくない色彩を持つ女性だが、それでも感じられる気品は相当なものだ。それに、感じる魔力の量も。
「あ、あの……セレナ、さんは……」
「私のことは、何も訊かないでくださいませ。……私はただ縁結びの役割を貰った一般人ですので」
そう言って、セレナは笑う。その笑みには有無を言わさぬ迫力があって。その所為で、アデルミラはただ頷くことしか出来なかった。そんなアデルミラの態度を見て満足したのか、セレナは「では、まずは簡易プロフィールを教えてくださいませ」と言う。
「……私は、アデルミラ・カルヴァートと、申します。年齢は十八歳。田舎の方の出身で、今は王都のアパートで一人暮らしをしています」
アデルミラの自己紹介を、セレナは紙に書き留めていく。
それから、しばらく質疑応答のような時間が過ぎた。セレナはアデルミラにいくつかの質問をし、それをアデルミラが答えるスタイルだ。いくつかの質問に答えた後、セレナはハッと顔を上げる。
「……どうか、なさいましたか?」
「……いえ、なんでも。では、アデルミラさん。貴女の理想の男性を、出来るだけ詳しく教えてくださいませ」
――来たな、その質問。
心の中でそう呟き、アデルミラはじっと考えるふりをする。そして、数分後に口を開いた。
「まず、たくましい男性が良いです。体格は騎士様のようにがっしりとした人。髪色は黒。目の色は青。年齢は私よりも年上でお願いします。出来れば、五つ以上。性格は優しくて頼りがいのある人が好ましいです。あとは……物理的に、強い人」
早口で紡がれた理想の男性の要素は、間違いなくロレンシオそのものだった。でも、アデルミラはそれに気が付かない。自分の理想の男性が、ロレンシオでしかないということに、この時すでに気が付けたはずなのに。それでも気が付けなかったのはきっと……アデルミラが、相当ロレンシオに腹を立てていたという証拠なのだろう。
「……そ、そうです、か。では、登録しますね。一応、住所を教えてくださいませ」
「住所、ですか?」
「はい、理想に似た男性が見つかりましたら、お手紙をお送りしますので」
それならばまぁ、仕方がないか。そう判断し、アデルミラは出された紙に自身の住所を綴っていく。その紙をセレナに手渡せば、彼女はその紙に素早く手をかざす。そうすれば……その紙は、淡い光を放った。
「これで登録は完了です。……ただ」
「……ただ?」
「私の見た感じですと、貴女は既に運命の男性と出逢っていますよ。……そして、その人物から異常なまでの愛情も、向けられています」
セレナのその言葉に、アデルミラは目を見開くことしか出来なかった。もしかしたら、自分の運命の相手はロレンシオなのかも……と、思ってしまったのだ。それでも、それだけは嫌だった。裏切られたのだから。もう、彼を信じることなど出来ない。
「そんなわけないです。なので、お手紙を待っております」
セレナの言葉を蹴り飛ばし、アデルミラは『リナリア』を出ていく。その足取りは、何処か重苦しかった。
(私が既に運命の男性に出逢っている? 嘘言わないで。お兄ちゃんは……私のことを、捨てたのよ)
心の中でそうぼやき、アデルミラは「はぁ」とため息をついた。普通に考えれば、今まで出逢った男性の中に運命の人がいると考えるのが妥当だろう。なのに、アデルミラからすればロレンシオ以外は恋愛対象では、なかった。
「……まーた、面倒なのが来ちゃったなぁ」
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