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口数少ない騎士団長(婚約者)の心の声なんて、聞くんじゃなかった(※ただの変態だった)

前編

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 その日、ルーシー伯爵家の令嬢であるコーデリアは困惑した。

『コーデリアは今日も可愛らしいし、美しい。今すぐにでも押し倒して襲って抱きつぶしてやりたい。いや、身体を舐め回したいな……』

 コーデリアの脳内に響いてくる、変態発言ともいうべき言葉たち。その言葉を聞くとテーブルの下に隠した自身の手が、震えているのがよくわかる。

『舐めたい。舐めたいな。……コーデリアの身体は、甘いんだろうなぁ。今まで何度想像したか……』

 変態発言を繰り返す心の声の持ち主は、澄ました顔で紅茶の入ったカップを手に持つ。その優雅な仕草と、少し怖い顔立ちは何故か妙に似合っている。そう思いながら、コーデリアはこれは何かの間違いだと自分自身に言い聞かせ……ることも出来ず。

『本当は今すぐに襲いたい。だが、初夜が外と言うのもムードがないか。……いや、案外コーデリアも乗り気に……』

 絶対に乗り気にはならない。

 脳内でそうツッコミながら、コーデリアは指にはめた指輪を撫でた。

(あぁ、ごめんなさい。心の声なんて聞こうと思わないのが、正解だったわ。だって、だって――)

 ――口数の少ないクールな騎士団長様が、こんな変態だなんて思わないじゃない!

 ◆◇◆

 コーデリアが産まれたのは、今から十九年前。生まれたのはステファニー王国でも特に歴史のある伯爵家ルーシー家だった。寡黙だが家族思いの父と、とても明るい母の元に生まれたコーデリアは、特に苦労することなく育った。兄と弟に挟まれ、少々お転婆に育ってしまった自覚はあるのだが。

 そんなコーデリアは、大層な美貌を持って生まれた。さらりとした腰までの金色の髪と、少し吊り上がった緑色の目。胸は大きく、背丈は少しだけ高い。周囲の男性はコーデリアのことを見ると、皆が皆頬を染めた。

 そして、コーデリアが十五歳のある日。婚約が決まった。相手は名門侯爵家の令息で、七つ年上。次期騎士団長とも名高く、将来有望株。名前をレナルド・スカイラー。乱雑に切られた黒色の髪と、鋭い青色の目が特徴的な精悍な顔立ちの青年だった。

 父曰く、相手方が強くコーデリアと婚姻したいと希望を出したらしい。そのため、コーデリアはどれだけ自分を大切に扱ってくれるのか、と期待したものだ。……まぁ、現実は違ったのだが。

 レナルドは、とにかく口数が少なかった。それに合わせ、ぶっきらぼうな性格であり、コーデリアの言葉には基本的に「あぁ」と「そうか」としか返してくれない。いずれは夫婦になるのだから……とデートに誘ったこともあった。しかし、断られてしまった。パートナーとして参加する社交の場でも、コーデリアに触れるのは最低限。だからこそ、コーデリアは思ってしまったのだ。

 ――彼は、もしかしたら自分のことを好いていないのではないか、と。

 いや、正しくは違う。もしかしたら、彼は自分のことを所詮七つ年下の子供だと思っているのかもしれない、と。子供だから、触れようとしない。子供だから、異性として見ることが出来ない。きっと、そうなのだ。そう思いながら、コーデリアは四年を過ごした。

 が、十九歳のある日。コーデリアの耳に届いたのは――とある魔道具の噂だった。

 ◆◇◆

「……これ、が」

 コーデリアの手元にあるのは、青い宝石が埋め込まれた指輪の形をした魔道具。これはとある魔女が作り上げたものであり、対象者の心の声を限定的に聞くことが出来るという代物だった。もちろん、手に入れるのは難しかった。だが、レナルドとの関係がこのままでいいはずがない。いずれは夫婦になるのだから、今のうちに怪しい芽は摘み取っておくべきだ。

 それに、もしもレナルドが本当にコーデリアのことを子供としか見ていなかったとしたら。その場合は、婚約の解消を提案するつもりだった。自分たちはまだまだ若い。新しい人と婚約することも出来る……はず、だ。

「えぇっと、確か対象者に関わりがあるものを、入れるのよね」

 宝石の部分は何かを入れることが出来るようになっており、そこに心の声を聴きたい人間に関係するものを入れるそうだ。魔女から譲り受ける際に、「なんでもいいよ」と彼女が言っていたのを思い出す。そのため、コーデリアはレナルドから貰ったネックレスを入れてみることにした。

 魔女曰く、宝石の部分を開けば自動で物は吸い込まれていくらしい。実際そのとおりであり、コーデリアがネックレスを宝石の部分に近づければ、ネックレスは自動で小さくなって吸い込まれていった。

(……これは、レナルド様が婚約してすぐにくださった、プレゼントだもの)

 婚約してすぐの頃。コーデリアの誕生日があった。それに合わせ、レナルドはこのネックレスをプレゼントしてくれたのだ。当時は本当に嬉しくて、嬉しくて。毎日のように眺めていた。まぁ、レナルドとの関係がこじれるようになってからは、アクセサリーを入れている棚に入れっぱなしになっていたのだが。

「明日、レナルド様の心の声を聴くわ。……私のことをどう思っているか、知らなくちゃやっていられないもの」

 偶然にもコーデリアは明日、レナルドと会うことになっていた。コーデリアはこれをチャンスだと捉え、レナルドと会うことにした。した、のだが――……。

 ◆◇◆

『コーデリア。俺のコーデリア。呆然とした顔をして、俺のことを誘っているのか? ここが室内だったら、今すぐにでも襲っていたぞ』

 聞こえてくるのは、まぁ何かとぎりぎりの発言ばかり。いや、多分アウトだ、いろいろな意味で。

 そう思いながら、コーデリアは一旦魔道具の電源を落とす。この魔道具はオンオフの切り替えが出来るようになっており、聞きたいときだけ聞くことが出来るスタイルだった。今は、その機能が純粋に嬉しい。ずっと聞いていたら、変になってしまいそうだったからだ。

「コーデリア嬢。顔色が悪いが、どうした?」

 そんな時、不意にレナルドがそう声をかけてくる。なので、コーデリアは首を横にぶんぶんと振った。が、その際に運悪く魔道具がオンになってしまい――レナルドの心の声が、脳内に響いて来てしまう。

『なんだ? その表情は? 襲われたいのか? 俺のことを誘っているんだな。……あぁ、その胸を撫でまわしたい。顔を埋めたい。……あと、コーデリアの――』

 次から次へと聞こえてくるアウトな発言に、コーデリアは羞恥心からか、気絶してしまった。コーデリアは初心な乙女である。……年齢制限のある発言は、いろいろと刺激が強すぎたのだろう。決して、レナルドは口には出していないのだが。

 ◆◇◆

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