14 / 15
第2章
身請け宣言 3
しおりを挟む
それから、しばしの沈黙。いたたまれなくて、カーティアが彼のほうを向こうとしたときだった。
抱きしめられる力が、強くなった。
「どうして、俺があなたを憎む。確かに、俺を見てくれないあなたに腹を立てたことはあった。……だが、それだけだ」
どうして。それはこっちのセリフである。
……身体が、熱く感じられてしまう。
「俺はあなたを憎いと思ったことは、一度もない」
「……そ、んな」
彼の言葉に、小さく声を漏らした。
だって、彼は攻略対象で。ヒロインであるソフィアに攻略されたはずで――。
「あなたが好きだ。……閉じ込めて、俺以外見てほしくないと思うほどには」
「っ!」
熱烈な告白だった。
その所為で、カーティアの心臓の音がどんどん駆け足になる。
いたたまれない。彼と密着している場所が、熱い。
「……ヴィクトル、さま」
意を決して、彼の名前を呼んで。彼のほうに顔を向ければ――唇が重なった。
驚いて目を見開くものの、彼はすぐに唇を離す。彼の顔が離れていくのが、ちょっと寂しい。
「そんな顔をされると、今すぐにでもめちゃくちゃにしたくなる。……昨日のように」
その言葉とほぼ同時に、彼の手がするりとカーティアの身体を撫でた。
それだけで、カーティアの身体が熱くなる。昨日の行為を否応なしに思い起こされて、頬に熱が溜まっていく。
「馬車を呼んでいるのだが、少しだけ時間がある。座って、話をしよう」
「……はい」
さすがに、いつまでもこの体勢は辛い。
だから、彼の言葉に素直に頷いた。そうすれば、彼がカーティアの身体を横抱きにして、歩き出す。
そのまま寝台のほうに向かって、彼がカーティアの身体を寝台の上に下ろす。
「俺の膝の上に、座ってくれ」
でも、さすがにそれはどういうことなのだろうか?
座って話をすることに関しては、了承した。合わせ、それが寝台に座ることだったとしても、まだ許容範囲だ。
かといって。さすがに、彼の膝の上に座るのはいささか問題があるのではないだろうか?
「そ、そんなの、無理です。……は、恥ずかしい、ので」
昨日、これ以上に恥ずかしいことをしたのは、この際置いておいて。
彼の膝の上に座るなど、言語道断。恥ずかしすぎて、おかしくなってしまう。
「今更だろう。裸だって見ているんだ。膝の上に座ることくらい、なんの問題もないだろう」
彼がとろけるような甘い表情を浮かべて、そう言う。
……元々、彼は強面で仏頂面な男だった。
一体誰がこんな表情を彼にさせているのか。……少し、疑問だ。
「それとも、もう一度やるか? ……俺は、いつでも大歓迎だ」
「か、勘弁してください……!」
ゆるゆると首を横に振って、そう告げる。
そうしていれば、彼がカーティアの身体を軽々と抱き上げて、自身の膝の上に載せた。
対面で座らせられてしまった所為で、彼と向かい合う形になった。……頬が、熱い。
「あなたは、どんな格好をしていても愛らしい」
ヴィクトルの手が、カーティアの腰を撫でる。ゾクゾクとした感覚が身体中に這いまわって、自然と息を呑んだ。
「な、なにか、お話……する、のですよね……?」
とにかく、この感覚から逃げたかった。
だから、カーティアは話を逸らそうとする。
「こんなことをしていては、時間の無駄でございます……」
身請けされるにしろ、されないにしろ。時間は有限である。こんな戯れをするのは、間違っている。
……ここが娼館であるという前提がある以上、それが正解なのだが。
「……そうだな。では、話そう。……なにを話したい?」
まさかだが、彼はなにも考えていなかったのだろうか?
一抹の不安を抱きつつ彼の顔を見れば、彼はきょとんとしている。……嘘などない。間違いなく、なにも考えていない表情だ。
「え、えぇっと、ですね……その。どうして、私を身請け……されるの、ですか?」
さすがになにも話さないことは出来なくて、カーティアは恐る恐るそう問いかける。
話題なんて、そう簡単に見つかるようなものじゃない。今思い浮かぶ話題は、そのこと。あとは、どうしてカーティアが好きなのかということくらいだろうか。
「好きだからだ」
……しかし、そこまでまっすぐに言われると、逆に恥ずかしくなってしまう。
「あなたが娼館に向かわされると聞いて、いてもたってもいられなかった。俺以外の男に抱かれるあなたを想像するだけで、頭がおかしくなりそうだった」
「……そう、なのですか」
「あぁ。あなたを抱いた男を一人残らず殺してしまう。そう、思うほどだ」
至極真剣な表情で、彼がそう言う。
……冗談ではない。それが、ひしひしと伝わってくる。
「身請けするには、一度客にならなくてはならないと聞いてな。だから、店主の言う金額を一括で払ったんだ」
「さ、さようで、ございますか……」
悪役令嬢であったカーティアが言えたことではないが、彼の金銭感覚が怖い。
そう思って、頬を引きつらせてしまった。
抱きしめられる力が、強くなった。
「どうして、俺があなたを憎む。確かに、俺を見てくれないあなたに腹を立てたことはあった。……だが、それだけだ」
どうして。それはこっちのセリフである。
……身体が、熱く感じられてしまう。
「俺はあなたを憎いと思ったことは、一度もない」
「……そ、んな」
彼の言葉に、小さく声を漏らした。
だって、彼は攻略対象で。ヒロインであるソフィアに攻略されたはずで――。
「あなたが好きだ。……閉じ込めて、俺以外見てほしくないと思うほどには」
「っ!」
熱烈な告白だった。
その所為で、カーティアの心臓の音がどんどん駆け足になる。
いたたまれない。彼と密着している場所が、熱い。
「……ヴィクトル、さま」
意を決して、彼の名前を呼んで。彼のほうに顔を向ければ――唇が重なった。
驚いて目を見開くものの、彼はすぐに唇を離す。彼の顔が離れていくのが、ちょっと寂しい。
「そんな顔をされると、今すぐにでもめちゃくちゃにしたくなる。……昨日のように」
その言葉とほぼ同時に、彼の手がするりとカーティアの身体を撫でた。
それだけで、カーティアの身体が熱くなる。昨日の行為を否応なしに思い起こされて、頬に熱が溜まっていく。
「馬車を呼んでいるのだが、少しだけ時間がある。座って、話をしよう」
「……はい」
さすがに、いつまでもこの体勢は辛い。
だから、彼の言葉に素直に頷いた。そうすれば、彼がカーティアの身体を横抱きにして、歩き出す。
そのまま寝台のほうに向かって、彼がカーティアの身体を寝台の上に下ろす。
「俺の膝の上に、座ってくれ」
でも、さすがにそれはどういうことなのだろうか?
座って話をすることに関しては、了承した。合わせ、それが寝台に座ることだったとしても、まだ許容範囲だ。
かといって。さすがに、彼の膝の上に座るのはいささか問題があるのではないだろうか?
「そ、そんなの、無理です。……は、恥ずかしい、ので」
昨日、これ以上に恥ずかしいことをしたのは、この際置いておいて。
彼の膝の上に座るなど、言語道断。恥ずかしすぎて、おかしくなってしまう。
「今更だろう。裸だって見ているんだ。膝の上に座ることくらい、なんの問題もないだろう」
彼がとろけるような甘い表情を浮かべて、そう言う。
……元々、彼は強面で仏頂面な男だった。
一体誰がこんな表情を彼にさせているのか。……少し、疑問だ。
「それとも、もう一度やるか? ……俺は、いつでも大歓迎だ」
「か、勘弁してください……!」
ゆるゆると首を横に振って、そう告げる。
そうしていれば、彼がカーティアの身体を軽々と抱き上げて、自身の膝の上に載せた。
対面で座らせられてしまった所為で、彼と向かい合う形になった。……頬が、熱い。
「あなたは、どんな格好をしていても愛らしい」
ヴィクトルの手が、カーティアの腰を撫でる。ゾクゾクとした感覚が身体中に這いまわって、自然と息を呑んだ。
「な、なにか、お話……する、のですよね……?」
とにかく、この感覚から逃げたかった。
だから、カーティアは話を逸らそうとする。
「こんなことをしていては、時間の無駄でございます……」
身請けされるにしろ、されないにしろ。時間は有限である。こんな戯れをするのは、間違っている。
……ここが娼館であるという前提がある以上、それが正解なのだが。
「……そうだな。では、話そう。……なにを話したい?」
まさかだが、彼はなにも考えていなかったのだろうか?
一抹の不安を抱きつつ彼の顔を見れば、彼はきょとんとしている。……嘘などない。間違いなく、なにも考えていない表情だ。
「え、えぇっと、ですね……その。どうして、私を身請け……されるの、ですか?」
さすがになにも話さないことは出来なくて、カーティアは恐る恐るそう問いかける。
話題なんて、そう簡単に見つかるようなものじゃない。今思い浮かぶ話題は、そのこと。あとは、どうしてカーティアが好きなのかということくらいだろうか。
「好きだからだ」
……しかし、そこまでまっすぐに言われると、逆に恥ずかしくなってしまう。
「あなたが娼館に向かわされると聞いて、いてもたってもいられなかった。俺以外の男に抱かれるあなたを想像するだけで、頭がおかしくなりそうだった」
「……そう、なのですか」
「あぁ。あなたを抱いた男を一人残らず殺してしまう。そう、思うほどだ」
至極真剣な表情で、彼がそう言う。
……冗談ではない。それが、ひしひしと伝わってくる。
「身請けするには、一度客にならなくてはならないと聞いてな。だから、店主の言う金額を一括で払ったんだ」
「さ、さようで、ございますか……」
悪役令嬢であったカーティアが言えたことではないが、彼の金銭感覚が怖い。
そう思って、頬を引きつらせてしまった。
332
お気に入りに追加
1,153
あなたにおすすめの小説
義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。
あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!?
ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど
ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。
※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。
ヤンデレお兄様から、逃げられません!
夕立悠理
恋愛
──あなたも、私を愛していなかったくせに。
エルシーは、10歳のとき、木から落ちて前世の記憶を思い出した。どうやら、今世のエルシーは家族に全く愛されていないらしい。
それならそれで、魔法も剣もあるのだし、好きに生きよう。それなのに、エルシーが記憶を取り戻してから、義兄のクロードの様子がおかしい……?
ヤンデレな兄×少しだけ活発な妹
ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)
夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。
ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。
って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!
せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。
新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。
なんだかお兄様の様子がおかしい……?
※小説になろうさまでも掲載しています
※以前連載していたやつの長編版です
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない
斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。
襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……!
この人本当に旦那さま?
って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
婚約者の側室に嫌がらせされたので逃げてみました。
アトラス
恋愛
公爵令嬢のリリア・カーテノイドは婚約者である王太子殿下が側室を持ったことを知らされる。側室となったガーネット子爵令嬢は殿下の寵愛を盾にリリアに度重なる嫌がらせをしていた。
いやになったリリアは王城からの逃亡を決意する。
だがその途端に、王太子殿下の態度が豹変して・・・
「いつわたしが婚約破棄すると言った?」
私に飽きたんじゃなかったんですか!?
……………………………
6月8日、HOTランキング1位にランクインしました。たくさんの方々に読んで頂き、大変嬉しく思っています。お気に入り、しおりありがとうございます。とても励みになっています。今後ともどうぞよろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる