【R18】娼館エンドを迎えた元悪役令嬢ですが、この度王子殿下の護衛に身請けされました。愛されるなんて聞いてない!

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

文字の大きさ
上 下
5 / 15
第1章

ハジメテの客 1

しおりを挟む
(本当に、一体どういうことなの……?)

 その後、カーティアはジョットによって一つの部屋に放り込まれた。

 煌びやかな室内には、巨大な寝台。

 それを見ると、一瞬にしてここが娼館なのだとカーティアは思い知らされる。

「とりあえず、着替えなさい。寝台の上に衣装が置いてあるから」

 ジョットはそれだけを言うと、颯爽と立ち去った。大方、例の客を呼びに行ったのだろう。

 そう思いつつ、カーティアは恐る恐る室内に足を踏み入れる。ふかふかの絨毯が敷かれた室内は、まるでお姫さまの部屋のようだ。

 しかし、部屋を照らすほんのりとした灯りが、なんともいえない厭らしさを醸し出している。

 だから、お姫さまの部屋だなんて思えない。

(着替えろって、言われても……)

 心の中でそう呟きつつ、カーティアは寝台の近くに寄る。

 そこには、きれいにたたまれた衣服らしきものがあった。

 が、触れた瞬間にその布地の薄さに気が付く。広げてみれば、それは衣服とは言えないような布だった。

(これ、なんていうか……もう、下着、よね)

 多分、これは前世の世界でいうベビードールなのだろう。それも、かなり際どい部類の。

 ……生憎、カーティアは前世でも今世でも、こういうものの類は見たことがないのだが。

「と、とにかく。ジョットさんの言うとおりにしたほうがいい……の、よね」

 かといって、さすがにこれを身に着けるのは……。

 そう思って、カーティアは着替えるのをためらう。

 今自身が身に着けている質素なワンピースは、ボタン一つで着替えが出来るようになっているので、一人で脱ぐことも可能だ。

 合わせ、この衣装ならば一人で着ることも可能だろう。

 それはわかる……のに。カーティアの身体は動かなかった。脚が震えて、その場に縫い付けられたように動かない。

(こ、こんなの、着れないわよ……)

 しかも、これを着て好きでもない男と身体を重ねることを強要されている。

 はらりと、頬に涙が伝った。

「こんなことだったら、ずっとカーティアでいられればよかった……」

 中途半端に前世の記憶なんて思い出さずに、悪役令嬢カーティア・ヴァイスのままだったら……とまで、思ってしまう。

 身体が震える。思わず衣服を床に落としてしまうと、ほぼ同時に部屋の扉が開いた。

「やだ、あんたまだ着替えていなかったの?」

 現れたのは、ジョットだった。

 そっとそちらに視線を向ければ、彼はやれやれとばかりに肩をすくめていた。

「ま、そうよね。いきなり着替えろと言っても、貴族のお嬢さんにはやり方がわからないわよね」

 だが、どうやら彼はカーティアが着替えられなかったことを、そう捉えてくれたらしい。

 ……ちょっとだけ、安心できた。

「いいわ、適当に誰か呼んであげる……と、言いたいところだけれど。生憎、お客さんを待たせるわけにはいかないのよ」
「……あの」
「ま、その格好でも受け入れてくださるでしょう」

 ……どうやら、ジョットはかなりせっかちな人種でもあるらしい。

 彼はそれだけの言葉を残し、また扉を閉めて部屋を立ち去る。

 かつかつとヒールと床のぶつかる音が、遠ざかって行った。

(この格好でって、言われても……)

 自分自身の身体を見下ろす。色気もなにもない、質素なワンピース姿。

 ……もしも、相手が逆上したらどうしようか? 不意に、その可能性が思い浮かんだ。

(私のハジメテが欲しいと、大金をはたいた人なのよ? どんな人か、わからないわ……)

 そして、きっと身を清めたほうがいい。

 それを思い出し、カーティアは室内をうろうろと動き回る。

 すると、あっさりと浴室が見つかった。バスタブとシャワーだけの簡素なものだが、これでもないよりはマシだろう。

(……よ、よし)

 何事も命あってのものだ。こうなったのは不幸だと思うが、気に食わないと殺される可能性だけは減らしたい。

 その一心で、カーティアが浴室の扉に手をかけようとしたとき。また、部屋の扉が開いた。

「カーティア、お客様がいらっしゃったわよ」

 ……最悪のタイミングだった。

(まだ、湯浴みも着替えも出来ていないというのに……)

 まだ、なにも準備出来ていない。でも、返事をしないといけないのは目に見えている。

「ど、どうぞ……」

 自分の声は、驚くほどに震えていた。

 が、ジョットは特に気にしている様子もなかった。ただ、誰かを連れて部屋に入ってくるだけだ。

(……なんていうか、大柄なお人ね)

 ジョットの後ろには、彼よりもかなり大きな人物がいた。

 暗闇の所為で、顔がはっきりとは見えない。けれど、体格ががっしりとしていることだけはかろうじてわかる。

「ほら、挨拶なさい。あんたのハジメテが欲しいって、大金をはたいてくださったお客様なのよ?」
「……えぇっと、カーティア、です」

 促されるがままに、挨拶をする。そうすれば、その誰かが息を呑んだのがわかった。

「じゃ、後はお二人でどうぞ。あたしはお暇するわ。……カーティア、くれぐれも、粗相だけはしないようにね」
「あ、はい……」

 あまりにもあっさりとジョットが出て行ったので、カーティアの口は自然と肯定の言葉を紡いでしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敗戦して嫁ぎましたが、存在を忘れ去られてしまったので自給自足で頑張ります!

桗梛葉 (たなは)
恋愛
タイトルを変更しました。 ※※※※※※※※※※※※※ 魔族 vs 人間。 冷戦を経ながらくすぶり続けた長い戦いは、人間側の敗戦に近い状況で、ついに終止符が打たれた。 名ばかりの王族リュシェラは、和平の証として、魔王イヴァシグスに第7王妃として嫁ぐ事になる。だけど、嫁いだ夫には魔人の妻との間に、すでに皇子も皇女も何人も居るのだ。 人間のリュシェラが、ここで王妃として求められる事は何もない。和平とは名ばかりの、敗戦国の隷妃として、リュシェラはただ静かに命が潰えていくのを待つばかり……なんて、殊勝な性格でもなく、与えられた宮でのんびり自給自足の生活を楽しんでいく。 そんなリュシェラには、実は誰にも言えない秘密があった。 ※※※※※※※※※※※※※ 短編は難しいな…と痛感したので、慣れた文字数、文体で書いてみました。 お付き合い頂けたら嬉しいです!

処理中です...