【R18】娼館エンドを迎えた元悪役令嬢ですが、この度王子殿下の護衛に身請けされました。愛されるなんて聞いてない!

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1章

前世の記憶を思い出したのは、断罪の最中でした 1

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 煌びやかなパーティーホール。きらきらとまばゆいシャンデリア。国内一の楽団が奏でる、心地のいい音楽。

 しかし、侯爵令嬢カーティア・ヴァイスには、そんなこともうどうでもよかった。

「カーティア・ヴァイス! 僕はキミとの婚約を解消させてもらう!」

 声高らかな宣言が、耳に届いた。瞬間、カーティアはその場に崩れ落ちることしか出来ない。

 扇が手から零れ落ちて、音を立てて床にぶつかる。

「……ど、どう、して……」

 口から漏れたのは、そんな小さな声だった。

 その声はどうやら、婚約破棄を告げた本人にもしっかりと聞こえていたらしい。彼は、目を鋭く細める。

「どうして? 散々ソフィアを虐めておいて、のうのうとそんなことを言うのか!」
「そ、それはっ……!」

 床をバンっとたたく。けれど、それさえも彼にとっては目障りなことだったらしい。

 それを、頭が察した。

(そもそも、その女が悪いのでしょう……!?)

 婚約者の隣に立つ、真っ青な髪を持つ愛らしくも美しい少女。

 少女と女性の間の年齢である十八歳の彼女は、カーティアの婚約者である国の王太子オルフィーオに近づいた。

 そして、あっという間に懇意な関係となったのだ。

 だから、カーティアは現実を正そうとした。そもそも、オルフィーオの婚約者はカーティアだ。

 なのに、彼はカーティアを遠ざけ、ソフィアを側に置いた。それが、気に入らなかった。

 なので、嫌味の一つや二つ、ぶつけた。それだけなのに――。

「合わせ、キミの今までの行いは貴族令嬢にあるまじき醜さだった。よって、王太子には相応しくないと判断した」

 高らかな宣言が続く。……カーティアは、視線を床に向けた。

(どうして、どうして……)

 悪いのは間違いなく人様の婚約者に近づいた、ソフィアだろうに。

 真実の愛という名の盲愛に溺れたオルフィーオには、そんなこと関係ないのだろう。

(そもそも、こんなのおかしいわ! まるで『悪役令嬢』の断罪劇みたいじゃない……!)

 ……悪役令嬢?

 不意に聞き馴染みのない単語が頭の中に浮かんで、カーティアは目をぱちぱちと瞬かせた。

(『悪役令嬢』って、なに? しかも、断罪劇って……)

 心の中でそう呟いた瞬間。カーティアの脳内に『ディスプレイ』なるものが現れた。

 『ディプレイ』の中では、カーティアが今と同じ状態になっている。けれど、明らかに違うのは――自分がその当事者であるか、否かということだ。

(……そっか、これ、『乙女ゲーム』の世界なんだ……)

 ハッとして、顔を上げた。

 美しい顔立ちのオルフィーオ。可愛らしいかんばせに怯えの色を宿したソフィア。

 ……まさに、美男美女。攻略対象とヒロインだ。

(そして、私の立ち位置は悪役令嬢。ヒロインを虐め抜き、最終的に断罪される女……)

 ぎゅっと、手のひらを握った。

 思い出すタイミングが悪すぎる。そう思いつつ、カーティアはオルフィーオの言葉を右から左に聞き流した。

 そうじゃないと、頭がおかしくなってしまいそうだったからだ。

 いや、この世界が乙女ゲームの世界で、悪役令嬢とか思っている時点で、頭はおかしいのかもしれないが。

「本当に、キミには手を焼いていた。が、これも未来のため。そう思って我慢していたが、ソフィアがそれは間違っていると教えてくれたんだ!」

 オルフィーオがそう叫ぶ。……でも、もうカーティアにはそんなことどうでもいい。

 だって、断罪されたということは、この後は……。

(どう、なるんだっけ?)

 大体、死罪になるか、国外追放になるか。貴族の身分ははく奪されるはずだ。

 唇がわなわなと震える。それでも、涙は零さないでいよう。その一心で、耐えたのだが。

「カーティア。今後、キミは貴族の身分をはく奪した上で、未来の王太子妃を虐げた罪で娼館行きを命ずる」

 ……今、なんだか聞き捨てならないような単語が聞こえたような。

 頭の中でそう思って、カーティアは顔を上げた。……オルフィーオは、これでもかというほどに真剣な面持ちをしている。

「……あの、いま、なんと……?」

 震える声で、オルフィーオにそう問いかける。すると、彼は鼻を鳴らした。

 その姿は、いかにもな傲慢な男だ。

「何度でも言ってやる。キミは、今後、娼館で娼婦として働くんだ」

 律儀にも言葉を何度か区切って、オルフィーオはそう告げた。

 彼の言葉を聞いたカーティアは、頭の中を真っ白にすることしか出来なかった。
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