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第1章
きっかけというか、理由というか 2
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そのまま佳季さんは何処かに電話をかけ始める。口調からして、多分目上の人というか、上司とかだ。
(っていうか、うちって何処だ……?)
彼らの言う「うち」とは、本拠地とか、事務所とか。そういうことなんだろうけれど……。
(そうなったら、マジで逃げられない……!)
絶対に命の危機だ。
そうなれば、今のうちに逃げたほうが絶対にいいんだけれど。
「おい、逃げたらどうなるか、わかってるだろうな?」
俺の考えを読み取ったかのように、一人の男がそう脅してくる。かと思えば、男は俺の肩を掴んで後ろの壁に押し付けてきた。
……これじゃあ、逃げられない。
心の中だけで落胆していれば、佳季さんがスマホを持った手をひらひらと振りながら俺に笑いかけてきた。
……そのきれいな笑みが、今はとても恐ろしい。
「若の許可取れましたよ!」
若って誰だ? この人たちが本当に極道の人間だとすれば、妥当なのは『若頭』とかそういうことか……?
(ということは、俺は今からその若に会うのか?)
まさか、若頭が直々に取り立てをするんだろうか?
普通に怖い。きっと、この人たちの比にもならないくらい怖い人なんだろう。
「よっしゃ、じゃあ、運ぶか」
が、そんな俺の気持ちなんて無視した男たちは、いくつかの言葉を交わした。
そして、一人が俺の身体を担ぎ上げる。
「ひゃぁっ!」
自然とそんな声が上がって、俺はいたたまれなくなってしまう。
(だって、今の絶対に女の悲鳴だろ……!)
「ひゃぁっ!」ってなんだ、「ひゃぁっ!」って。どうせならば「ぎゃあっ!」と言えばよかった。
俺の意思で出た悲鳴ではないんだけれど。でも、ほら、な。男としての矜持っていうか……。
その証拠に、男たちもフリーズしてるじゃんか。
「なんていうか、随分と可愛い悲鳴を上げるんだね」
しばらくして、佳季さんがそう声をかけてくる。ニコニコと笑った表情が、なんだかとても恐ろしく感じてしまう。
そっと視線を逸らせば、佳季さんが俺の視線の先に回り込んでくる。その後、流れるような仕草で俺の顎を掴んだ。
「うーん、まぁ、なんていうか顔立ちが幼いっていうか。そういう趣味の人には、売れそうかな」
「ひぇっ」
この人、いい笑顔でとんでもないことを言った!
びくびくと震える俺を他所に、佳季さんと二人の強面の男は俺を淡々と運ぶ。
「ほら、乗れ」
高級車の後部座席に放り込まれて、俺の両隣に佳季さんともう一人の男が腰掛けた。
(これ、容疑者を連行する警察のスタイルじゃあ……)
一瞬だけそんな感想を抱くものの、そんなのんきなことを考えている余裕なんてない。
とにかく、この状況を打破する方法を考えなくては……。
「あ、逃げようとしても無駄だからね。むしろ、逃げたらもっとひどいことになるから」
「は、ぃ」
佳季さんは俺にそう声をかけてくる。今度は俺の肩に馴れ馴れしく自分の腕を回して、俺の耳元に唇を近づけた。
「ま、どうなるかはお楽しみってことで。大丈夫。殺しはしないから」
殺しはしない。
その言葉は、裏を返せば「殺す以外ならばするから」ということなんじゃ、ないだろうか。
これ、完全に詰んだ。四面楚歌とか、そういう奴だ。
(あのクソ親父……!)
結局、俺は頭の中であのクソ親父に悪態をつくことしか出来なかった。
だって、そもそも。あのクソ親父が借金をして蒸発なんてしなければ、こんなことにはならなかったんだから。
頭の中で一人ブツブツと悪態をつき続けていれば、車が動き始める。……ゆっくりとスピードを上げて、静かに走る。
(案外、安全運転だな……)
なんだろうか。極道の人間って、「この道は俺たちの道だ!」とか言って、暴走するのかと思っていた。
……それは暴走族か。種類が全然違った。
「言っておくけれど、うちの組のモットーは『堅気の人間には迷惑をかけない』だからさ。そこら辺の組と一緒にしないでよ」
「は、はい」
『堅気の人間には迷惑をかけない』のならば、俺にも迷惑はかけないでほしい。
……と、言えるわけもなく。俺は俯く。というか、この人たちがちで極道の人たちだった。いや、心の何処かではわかってたけどさ。
「でも、こっちの世界に首を突っ込んだら、もう元には戻れないから」
「……は?」
「お前はこっちの世界に首を突っ込んだっていうこと。……不本意かもだけれど、ご愁傷様」
不本意です。間違いなく不本意です。そもそも、俺だってできれば平和に暮らしたかった。
「とりあえず、元気に働いて借金返済頑張って?」
佳季さんのその言葉に、一瞬だけカチンとくる。
っていうか、この人俺のことを絶対に煽ってる。間違いない。この無性に腹の立つ言葉遣いも、近い距離も。そういうことだ。
「佳季。そういえば、こいつを働かせるあてはあるのか? こんな貧相な男、雇おうなんて奴滅多にいないだろ」
佳季さんが座っているのとは逆のほうに座っている男が、そう声をかけてくる。
貧相で悪かったな、貧相で。確かに俺は小柄だし、筋肉とかもないけれどさ。
「そこら辺は適当に若が見つけてくれるでしょ。……力仕事とかは無理かもだけど、そっち系には売れるかもだし」
「……まぁ、顔はそこそこいいからな」
そっち系とは、どっち系なんだろうか。などと言うバカな質問が出来る空気ではなく。
俺はただ縮こまって、佳季さんと強面の男に挟まれていた。途中、佳季さんが煙草を吸い始めて、その煙で気分が悪くなってしまったのだけれど。
(最悪だ、厄日だ……)
しばらくして、気分が悪い中俺は無理やり車から降ろされる。そして、そう心の中だけで悪態をついた。
(っていうか、うちって何処だ……?)
彼らの言う「うち」とは、本拠地とか、事務所とか。そういうことなんだろうけれど……。
(そうなったら、マジで逃げられない……!)
絶対に命の危機だ。
そうなれば、今のうちに逃げたほうが絶対にいいんだけれど。
「おい、逃げたらどうなるか、わかってるだろうな?」
俺の考えを読み取ったかのように、一人の男がそう脅してくる。かと思えば、男は俺の肩を掴んで後ろの壁に押し付けてきた。
……これじゃあ、逃げられない。
心の中だけで落胆していれば、佳季さんがスマホを持った手をひらひらと振りながら俺に笑いかけてきた。
……そのきれいな笑みが、今はとても恐ろしい。
「若の許可取れましたよ!」
若って誰だ? この人たちが本当に極道の人間だとすれば、妥当なのは『若頭』とかそういうことか……?
(ということは、俺は今からその若に会うのか?)
まさか、若頭が直々に取り立てをするんだろうか?
普通に怖い。きっと、この人たちの比にもならないくらい怖い人なんだろう。
「よっしゃ、じゃあ、運ぶか」
が、そんな俺の気持ちなんて無視した男たちは、いくつかの言葉を交わした。
そして、一人が俺の身体を担ぎ上げる。
「ひゃぁっ!」
自然とそんな声が上がって、俺はいたたまれなくなってしまう。
(だって、今の絶対に女の悲鳴だろ……!)
「ひゃぁっ!」ってなんだ、「ひゃぁっ!」って。どうせならば「ぎゃあっ!」と言えばよかった。
俺の意思で出た悲鳴ではないんだけれど。でも、ほら、な。男としての矜持っていうか……。
その証拠に、男たちもフリーズしてるじゃんか。
「なんていうか、随分と可愛い悲鳴を上げるんだね」
しばらくして、佳季さんがそう声をかけてくる。ニコニコと笑った表情が、なんだかとても恐ろしく感じてしまう。
そっと視線を逸らせば、佳季さんが俺の視線の先に回り込んでくる。その後、流れるような仕草で俺の顎を掴んだ。
「うーん、まぁ、なんていうか顔立ちが幼いっていうか。そういう趣味の人には、売れそうかな」
「ひぇっ」
この人、いい笑顔でとんでもないことを言った!
びくびくと震える俺を他所に、佳季さんと二人の強面の男は俺を淡々と運ぶ。
「ほら、乗れ」
高級車の後部座席に放り込まれて、俺の両隣に佳季さんともう一人の男が腰掛けた。
(これ、容疑者を連行する警察のスタイルじゃあ……)
一瞬だけそんな感想を抱くものの、そんなのんきなことを考えている余裕なんてない。
とにかく、この状況を打破する方法を考えなくては……。
「あ、逃げようとしても無駄だからね。むしろ、逃げたらもっとひどいことになるから」
「は、ぃ」
佳季さんは俺にそう声をかけてくる。今度は俺の肩に馴れ馴れしく自分の腕を回して、俺の耳元に唇を近づけた。
「ま、どうなるかはお楽しみってことで。大丈夫。殺しはしないから」
殺しはしない。
その言葉は、裏を返せば「殺す以外ならばするから」ということなんじゃ、ないだろうか。
これ、完全に詰んだ。四面楚歌とか、そういう奴だ。
(あのクソ親父……!)
結局、俺は頭の中であのクソ親父に悪態をつくことしか出来なかった。
だって、そもそも。あのクソ親父が借金をして蒸発なんてしなければ、こんなことにはならなかったんだから。
頭の中で一人ブツブツと悪態をつき続けていれば、車が動き始める。……ゆっくりとスピードを上げて、静かに走る。
(案外、安全運転だな……)
なんだろうか。極道の人間って、「この道は俺たちの道だ!」とか言って、暴走するのかと思っていた。
……それは暴走族か。種類が全然違った。
「言っておくけれど、うちの組のモットーは『堅気の人間には迷惑をかけない』だからさ。そこら辺の組と一緒にしないでよ」
「は、はい」
『堅気の人間には迷惑をかけない』のならば、俺にも迷惑はかけないでほしい。
……と、言えるわけもなく。俺は俯く。というか、この人たちがちで極道の人たちだった。いや、心の何処かではわかってたけどさ。
「でも、こっちの世界に首を突っ込んだら、もう元には戻れないから」
「……は?」
「お前はこっちの世界に首を突っ込んだっていうこと。……不本意かもだけれど、ご愁傷様」
不本意です。間違いなく不本意です。そもそも、俺だってできれば平和に暮らしたかった。
「とりあえず、元気に働いて借金返済頑張って?」
佳季さんのその言葉に、一瞬だけカチンとくる。
っていうか、この人俺のことを絶対に煽ってる。間違いない。この無性に腹の立つ言葉遣いも、近い距離も。そういうことだ。
「佳季。そういえば、こいつを働かせるあてはあるのか? こんな貧相な男、雇おうなんて奴滅多にいないだろ」
佳季さんが座っているのとは逆のほうに座っている男が、そう声をかけてくる。
貧相で悪かったな、貧相で。確かに俺は小柄だし、筋肉とかもないけれどさ。
「そこら辺は適当に若が見つけてくれるでしょ。……力仕事とかは無理かもだけど、そっち系には売れるかもだし」
「……まぁ、顔はそこそこいいからな」
そっち系とは、どっち系なんだろうか。などと言うバカな質問が出来る空気ではなく。
俺はただ縮こまって、佳季さんと強面の男に挟まれていた。途中、佳季さんが煙草を吸い始めて、その煙で気分が悪くなってしまったのだけれど。
(最悪だ、厄日だ……)
しばらくして、気分が悪い中俺は無理やり車から降ろされる。そして、そう心の中だけで悪態をついた。
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