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第3章 聖女と護衛騎士、通じ合う気持ち
進展させたい 1
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あの襲撃事件から、数週間が過ぎた。
医者に診てもらったところ、セレーナの魔力は現在戻りつつあるらしい。
そのため、あと三日程度安静にすれば、聖女としての職務に戻っても構わないということだった。
「……本当に、セレーナさまはお見舞いがお好きですねぇ」
「……まぁ、退屈だから」
この日、セレーナはロロの見舞いに来ていた。
ロロは神殿が管理する病院に入院しており、セレーナは起き上がれるようになってから三日と空けずにここにきている。
……というのも、ロロにしか相談できないことがあるためだ。
「それにしても、セレーナさまがアッシュさんの元部下だったなんて驚きですよ」
ロロはそう言いながら、けらけらと笑う。……驚いているというよりは、からかっているという雰囲気だ。
つい先日。セレーナがロロの見舞いに来ると、彼は「退屈だ」と愚痴をこぼしていた。その際に、なにか面白い話をしてほしいと強請られたのだ。
そこで、セレーナは自分とアッシュの関係についてを話すことにした。
……誰か一人くらい、この話を知っておいてほしかったのだ。もちろん、クラリスは除いている。
「えぇ、私、元女騎士だから……」
苦笑を浮かべながら、セレーナはそう言う。すると、ロロはまた笑った。
「そうでしょうねぇ。セレーナさまは、度胸がありますから」
「なによ、それ」
ロロの言葉にそう返しながら、セレーナは窓側に置いてある花瓶の花を変えることにした。
そうしていれば、不意にロロが「あっ」と声を上げる。
「だーから。セレーナさまはアッシュさんのことが、好きなんだ」
「……え」
今、彼はなんと言ったのだろうか?
聞き間違いでは無ければ――セレーナがアッシュのことを好きだと。確信しているかのようだった。
「え、え」
「あれ? もしかして、違いました?」
ロロがきょとんとした表情でそう問いかけてくる。
間違いではない。むしろ、当たっている。ただ、それを実際に指摘されると……困ってしまう。
「ま、間違いではない……けれど」
「あっ、もしかして、なんで俺がそれを知っているかってことですか?」
セレーナの焦ったような表情を見て、ロロが楽しそうに笑う。が、傷が痛むらしく「いたた……」と声を上げていた。
「……笑うからよ」
彼のそんな姿を見て、セレーナはため息をつく。しかし、ロロは反省した素振りなど見せない。ただ、笑うだけだ。
「いや、セレーナさまバレバレでしたし。……俺とアッシュさんへの対応、全然違いましたし」
「え、えぇっ……」
まさか、態度が違っていたなんて――。
そこまで思って、セレーナは顔から血の気が引くような感覚に襲われた。
「あ、そこまで思いつめないでくださいよ。俺、気にしちゃいませんから」
ロロはそう言うけれど、セレーナからすれば気にするほかない。だって、もしかしたらロロに不快な思いをさせてしまったかもしれないのだ。
「あのですねぇ、セレーナさま。思いつめたような表情をされていますけれど、その態度は恋する女性として当然のものですからね?」
あまりにもセレーナが思い詰めてしまったからなのか、ロロがそう声をかけてくる。
……その言葉に、少しだけ救われたような気がした。
「で? 好きだって、言ったんですか?」
けれど、そうやって興味津々なのは困りものだ。
そんなことを思いつつ、セレーナは眉を下げる。……そんなこと、ロロに言えるわけがない。
「い、言えるわけが、ないわよ……」
が、口が滑った。
それに、そもそも実際は好きだと言って断られている。でも、思い出したくなかったので言えていないということにした。
……そちらのほうが、まだ楽だから。
「えぇ~。まぁ、アッシュさんってカタブツっぽいし、扱いにくそうですもんねぇ」
どうやら、ロロはそこまで深入りをしてくるつもりはないらしい。
「……でも、進展させたいって、思ってるでしょ?」
……しかし、彼は一体何処まで知っているのだろうか。
ロロと話していると、セレーナは自身の頬が引きつっているような感覚に陥る。
……そもそも、夜の行為でさえ、最後までしていないのだ。
(私に魅力がない……わけでは、ないわよね……)
セレーナを愛撫すると、アッシュも興奮してくれている。それはつまり、セレーナの痴態がそそらないというわけではないのだ。
「……もういっそ、押し倒して上に乗っかっちゃうとか!」
「そ、そんなのっ!」
そんなこと、出来るわけがない。いや、本当はしたい……。
相反する気持ちを抱きしめて、セレーナは顔に熱を溜めてしまう。視線を逸らす。
「ははっ、顔、真っ赤ですよ」
ロロの言うとおりだ。
そう思いつつセレーナが視線を下に向けていると、不意に病室の扉が開く。
慌ててそちらに視線を向ければ、そこには――ほかでもないアッシュがいた。彼はなにやら差し入れらしきお菓子を持っており、ロロとセレーナのほうに歩いてくる。
「……セレーナさま」
静かな声で、彼がセレーナのことを呼ぶ。……だけど。
(なんとなくだけれど、怒っていらっしゃるような……?)
なんとなく、彼は怒っているような。そんな雰囲気だと思った。
医者に診てもらったところ、セレーナの魔力は現在戻りつつあるらしい。
そのため、あと三日程度安静にすれば、聖女としての職務に戻っても構わないということだった。
「……本当に、セレーナさまはお見舞いがお好きですねぇ」
「……まぁ、退屈だから」
この日、セレーナはロロの見舞いに来ていた。
ロロは神殿が管理する病院に入院しており、セレーナは起き上がれるようになってから三日と空けずにここにきている。
……というのも、ロロにしか相談できないことがあるためだ。
「それにしても、セレーナさまがアッシュさんの元部下だったなんて驚きですよ」
ロロはそう言いながら、けらけらと笑う。……驚いているというよりは、からかっているという雰囲気だ。
つい先日。セレーナがロロの見舞いに来ると、彼は「退屈だ」と愚痴をこぼしていた。その際に、なにか面白い話をしてほしいと強請られたのだ。
そこで、セレーナは自分とアッシュの関係についてを話すことにした。
……誰か一人くらい、この話を知っておいてほしかったのだ。もちろん、クラリスは除いている。
「えぇ、私、元女騎士だから……」
苦笑を浮かべながら、セレーナはそう言う。すると、ロロはまた笑った。
「そうでしょうねぇ。セレーナさまは、度胸がありますから」
「なによ、それ」
ロロの言葉にそう返しながら、セレーナは窓側に置いてある花瓶の花を変えることにした。
そうしていれば、不意にロロが「あっ」と声を上げる。
「だーから。セレーナさまはアッシュさんのことが、好きなんだ」
「……え」
今、彼はなんと言ったのだろうか?
聞き間違いでは無ければ――セレーナがアッシュのことを好きだと。確信しているかのようだった。
「え、え」
「あれ? もしかして、違いました?」
ロロがきょとんとした表情でそう問いかけてくる。
間違いではない。むしろ、当たっている。ただ、それを実際に指摘されると……困ってしまう。
「ま、間違いではない……けれど」
「あっ、もしかして、なんで俺がそれを知っているかってことですか?」
セレーナの焦ったような表情を見て、ロロが楽しそうに笑う。が、傷が痛むらしく「いたた……」と声を上げていた。
「……笑うからよ」
彼のそんな姿を見て、セレーナはため息をつく。しかし、ロロは反省した素振りなど見せない。ただ、笑うだけだ。
「いや、セレーナさまバレバレでしたし。……俺とアッシュさんへの対応、全然違いましたし」
「え、えぇっ……」
まさか、態度が違っていたなんて――。
そこまで思って、セレーナは顔から血の気が引くような感覚に襲われた。
「あ、そこまで思いつめないでくださいよ。俺、気にしちゃいませんから」
ロロはそう言うけれど、セレーナからすれば気にするほかない。だって、もしかしたらロロに不快な思いをさせてしまったかもしれないのだ。
「あのですねぇ、セレーナさま。思いつめたような表情をされていますけれど、その態度は恋する女性として当然のものですからね?」
あまりにもセレーナが思い詰めてしまったからなのか、ロロがそう声をかけてくる。
……その言葉に、少しだけ救われたような気がした。
「で? 好きだって、言ったんですか?」
けれど、そうやって興味津々なのは困りものだ。
そんなことを思いつつ、セレーナは眉を下げる。……そんなこと、ロロに言えるわけがない。
「い、言えるわけが、ないわよ……」
が、口が滑った。
それに、そもそも実際は好きだと言って断られている。でも、思い出したくなかったので言えていないということにした。
……そちらのほうが、まだ楽だから。
「えぇ~。まぁ、アッシュさんってカタブツっぽいし、扱いにくそうですもんねぇ」
どうやら、ロロはそこまで深入りをしてくるつもりはないらしい。
「……でも、進展させたいって、思ってるでしょ?」
……しかし、彼は一体何処まで知っているのだろうか。
ロロと話していると、セレーナは自身の頬が引きつっているような感覚に陥る。
……そもそも、夜の行為でさえ、最後までしていないのだ。
(私に魅力がない……わけでは、ないわよね……)
セレーナを愛撫すると、アッシュも興奮してくれている。それはつまり、セレーナの痴態がそそらないというわけではないのだ。
「……もういっそ、押し倒して上に乗っかっちゃうとか!」
「そ、そんなのっ!」
そんなこと、出来るわけがない。いや、本当はしたい……。
相反する気持ちを抱きしめて、セレーナは顔に熱を溜めてしまう。視線を逸らす。
「ははっ、顔、真っ赤ですよ」
ロロの言うとおりだ。
そう思いつつセレーナが視線を下に向けていると、不意に病室の扉が開く。
慌ててそちらに視線を向ければ、そこには――ほかでもないアッシュがいた。彼はなにやら差し入れらしきお菓子を持っており、ロロとセレーナのほうに歩いてくる。
「……セレーナさま」
静かな声で、彼がセレーナのことを呼ぶ。……だけど。
(なんとなくだけれど、怒っていらっしゃるような……?)
なんとなく、彼は怒っているような。そんな雰囲気だと思った。
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