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第2章 聖女と護衛騎士、そして進展する関係
聖女としての初仕事 1
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「……え、聖女としての、お仕事、ですか?」
セレーナとアッシュが聖女と護衛騎士として再会して、しばしの日が経ち。
その日、セレーナはアッシュ。そして、ロロと共にルベーグ神官に呼び出されていた。
「えぇ、そろそろいいかと思いまして。……まぁ、クラリスさまが判断されたのですが」
ルベーグ神官は、その真っ赤な目を柔和に細めながら、そう言ってくる。が、その目が醸し出す空気はあまり好意的なものとは思えない。大方、まだまだ未熟なセレーナが表に出るのをよくは思っていないのだろう。
かといって、大聖女クラリスの意向に歯向かうことはしない。彼だって自らの立場は惜しいはずなのだ。
「クラリスさま曰く、そろそろ経験を積んでおいたほうがいいということでございます」
「……はい」
「今回は初仕事ということですから、王都から近めの場所にすることが決まりました」
そう言って、ルベーグ神官は一枚の地図を手渡してくる。
そこには一つの大きな丸印がついており、その街は王都からいくつかの街を挟んだ先にある、商業都市。
名前はマクモロー。商人の街と呼ばれるほどに、活気づいている街である。
「今回のお仕事は、街の大聖堂で祈りを捧げることでございます」
「……はい」
「初仕事ですので、緊張もするでしょう。ですが、その場合は二人の護衛騎士に、支えてもらいなさい」
裏を返せば、それは「自分は支えるつもりはない」と言うことなのだろう。
そんな彼の言葉の裏を読み取りつつ、セレーナはぎこちなく笑った。
それから、ルベーグ神官に追い出されるように部屋を出て行く。部屋を出て神殿の廊下を歩く中、真っ先に言葉を発したのは予想通りロロだった。
「いやぁ、いきなりでしたね……」
ロロは頭を掻きながらそう言ってくる。
今日の彼はその青色の髪の毛を軽く撫でつけていた。大層騎士らしい風貌だ。
「……そうね、驚きだわ」
彼の言葉に同意するようにセレーナが声を上げれば、アッシュがこほんと咳ばらいをする。
……どうやら、ロロを咎めているらしい。
「アッシュさん。ロロにそこまで厳しくしなくてもいいかと……」
アッシュにだけ聞こえるようにそう告げれば、彼は淡々としていた。
「あぁいうタイプは、甘やかすと調子乗ります」
……さすがは、『悪魔の隊長』と呼ばれていた人物だ。部下をしごくのに容赦がない。
「そもそも、セレーナさまに軽口をたたくほうが、騎士としてダメなのです」
「……私は、気にしていないわ」
ゆるゆると首を横に振りながら、そう伝える。
護衛騎士となって以来、アッシュは度々ロロの口調や態度を咎めている。
必ずセレーナを呼ぶ際はさまづけにすること。その口調は丁寧なものにするように、と。
対するロロは特に気にした風もなく、自身の腕時計を見つめる。
「俺、そろそろ準備に行ってきます!」
かと思えば、そう言って駆けだした。……まったく、忙しない男である。
ロロの言う準備とは、旅の準備である。護衛騎士は聖女の巡礼に同行するため、二人がそれぞれ準備をする必要がある。
もちろん、一人ずつだ。二人が二人とも、聖女の側を離れることはない。
(……本当に、ロロったら。……それにしても、こうやってまじまじと見ると、アッシュさんって色気があるわ)
そんなことを思いつつ、セレーナはこっそりと息を吐く。
あれ以来、アッシュは毎晩のようにセレーナの部屋に夜這いにやって来た。
そして、セレーナの身体に快楽を覚え込ませる。まだ最後まで致していないとはいえ、このままでは純潔を奪われるのも時間の問題だろう。そう、思う。
(アッシュさんのことを見ていると、夜のことを思い出してしまう……)
アッシュのあの昂った熱杭が、自身の身体を貫くのを想像すると……柄にもなく、身体が疼いてしまうのだ。
彼のことが好きだ。彼に恋をしている。
それは自覚しているのだが、言葉にすることは出来ない。
「……セレーナさま?」
セレーナがなにも言わないためか、アッシュが声をかけてくる。
彼のその表情は、上手く読み取れない。ただ、セレーナの考えていることが彼に伝わっていないことだけは、わかる。
それが、せめてもの救いだろうか。
「い、いえ、なんでもない、わ」
アッシュに対してこういう話し方をするのにも、ある程度は慣れてしまった。
逆にセレーナに対してアッシュが丁寧な口調で話すのにも、慣れてしまった。
けれど、前のように。セレーナ嬢と呼んでほしい。あわよくば、その低い声で呼び捨てにしてほしい。
(って、こんなことを考えるのはダメよ……)
軽く首を横に振りながら、セレーナは自分に言い聞かせる。
アッシュに下心を持ってしまっては、ダメなのだ。だって、彼は――所詮、仕事の一環でセレーナに快楽を覚え込ませているのだから。恋をしても、虚しいだけなのだから。
「……明日から、頑張りましょうね」
「……えぇ」
不意にそう言われて、セレーナはこくんと首を縦に振る。
すると、アッシュは口角を上げていた。その表情はやっぱり大層色っぽくて、セレーナの心臓がとくんと大きな音を立てた。
セレーナとアッシュが聖女と護衛騎士として再会して、しばしの日が経ち。
その日、セレーナはアッシュ。そして、ロロと共にルベーグ神官に呼び出されていた。
「えぇ、そろそろいいかと思いまして。……まぁ、クラリスさまが判断されたのですが」
ルベーグ神官は、その真っ赤な目を柔和に細めながら、そう言ってくる。が、その目が醸し出す空気はあまり好意的なものとは思えない。大方、まだまだ未熟なセレーナが表に出るのをよくは思っていないのだろう。
かといって、大聖女クラリスの意向に歯向かうことはしない。彼だって自らの立場は惜しいはずなのだ。
「クラリスさま曰く、そろそろ経験を積んでおいたほうがいいということでございます」
「……はい」
「今回は初仕事ということですから、王都から近めの場所にすることが決まりました」
そう言って、ルベーグ神官は一枚の地図を手渡してくる。
そこには一つの大きな丸印がついており、その街は王都からいくつかの街を挟んだ先にある、商業都市。
名前はマクモロー。商人の街と呼ばれるほどに、活気づいている街である。
「今回のお仕事は、街の大聖堂で祈りを捧げることでございます」
「……はい」
「初仕事ですので、緊張もするでしょう。ですが、その場合は二人の護衛騎士に、支えてもらいなさい」
裏を返せば、それは「自分は支えるつもりはない」と言うことなのだろう。
そんな彼の言葉の裏を読み取りつつ、セレーナはぎこちなく笑った。
それから、ルベーグ神官に追い出されるように部屋を出て行く。部屋を出て神殿の廊下を歩く中、真っ先に言葉を発したのは予想通りロロだった。
「いやぁ、いきなりでしたね……」
ロロは頭を掻きながらそう言ってくる。
今日の彼はその青色の髪の毛を軽く撫でつけていた。大層騎士らしい風貌だ。
「……そうね、驚きだわ」
彼の言葉に同意するようにセレーナが声を上げれば、アッシュがこほんと咳ばらいをする。
……どうやら、ロロを咎めているらしい。
「アッシュさん。ロロにそこまで厳しくしなくてもいいかと……」
アッシュにだけ聞こえるようにそう告げれば、彼は淡々としていた。
「あぁいうタイプは、甘やかすと調子乗ります」
……さすがは、『悪魔の隊長』と呼ばれていた人物だ。部下をしごくのに容赦がない。
「そもそも、セレーナさまに軽口をたたくほうが、騎士としてダメなのです」
「……私は、気にしていないわ」
ゆるゆると首を横に振りながら、そう伝える。
護衛騎士となって以来、アッシュは度々ロロの口調や態度を咎めている。
必ずセレーナを呼ぶ際はさまづけにすること。その口調は丁寧なものにするように、と。
対するロロは特に気にした風もなく、自身の腕時計を見つめる。
「俺、そろそろ準備に行ってきます!」
かと思えば、そう言って駆けだした。……まったく、忙しない男である。
ロロの言う準備とは、旅の準備である。護衛騎士は聖女の巡礼に同行するため、二人がそれぞれ準備をする必要がある。
もちろん、一人ずつだ。二人が二人とも、聖女の側を離れることはない。
(……本当に、ロロったら。……それにしても、こうやってまじまじと見ると、アッシュさんって色気があるわ)
そんなことを思いつつ、セレーナはこっそりと息を吐く。
あれ以来、アッシュは毎晩のようにセレーナの部屋に夜這いにやって来た。
そして、セレーナの身体に快楽を覚え込ませる。まだ最後まで致していないとはいえ、このままでは純潔を奪われるのも時間の問題だろう。そう、思う。
(アッシュさんのことを見ていると、夜のことを思い出してしまう……)
アッシュのあの昂った熱杭が、自身の身体を貫くのを想像すると……柄にもなく、身体が疼いてしまうのだ。
彼のことが好きだ。彼に恋をしている。
それは自覚しているのだが、言葉にすることは出来ない。
「……セレーナさま?」
セレーナがなにも言わないためか、アッシュが声をかけてくる。
彼のその表情は、上手く読み取れない。ただ、セレーナの考えていることが彼に伝わっていないことだけは、わかる。
それが、せめてもの救いだろうか。
「い、いえ、なんでもない、わ」
アッシュに対してこういう話し方をするのにも、ある程度は慣れてしまった。
逆にセレーナに対してアッシュが丁寧な口調で話すのにも、慣れてしまった。
けれど、前のように。セレーナ嬢と呼んでほしい。あわよくば、その低い声で呼び捨てにしてほしい。
(って、こんなことを考えるのはダメよ……)
軽く首を横に振りながら、セレーナは自分に言い聞かせる。
アッシュに下心を持ってしまっては、ダメなのだ。だって、彼は――所詮、仕事の一環でセレーナに快楽を覚え込ませているのだから。恋をしても、虚しいだけなのだから。
「……明日から、頑張りましょうね」
「……えぇ」
不意にそう言われて、セレーナはこくんと首を縦に振る。
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