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第2章 聖女と護衛騎士、そして進展する関係
夜這い 2
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しかし、そんなセレーナの気持ちも知らないのだろう。
アリーヌは「じゃあ、失礼するわ」と言って素早く部屋を出て行こうとする。
そんな彼女を咄嗟に引き留めようとしたが、なにも言葉が出てこなかった。
その所為で、アリーヌはあっさりと部屋を出て行ってしまった。残されたのは、セレーナたった一人。
(う、うぅ、どうすれば、どうすればいいのよ……!)
そう思って、ただひたすら混乱する。
この場合、相手がアッシュだったことを喜べばいいのか。はたまた、悲しめばいいのか。
それさえも、はっきりとはしない。
好きな人にハジメテを捧げられると言えば、聞こえはいい。が、所詮は性欲処理なのだ。……気持ちは通じ合っていない。
(アッシュさんだって、私のことを女性とは見ていないわ。……そんな私とするえ、えっちが、楽しいはずがない……)
心の中でそう思うと、凹んでしまいそうだった。
けれど、それをぐっとこらえてセレーナは寝台に腰掛ける。到底、横になる気にはなれなかった。
(無理よ、やっぱり無理よ!)
どう考えても、アッシュと関係を持つなんて、今のセレーナには無理に決まっている。
よし、今日のところは帰ってもらおう。それから躱す方法は、後々考えればいい。
(とりあえず、寝ちゃったふりをすれば、アッシュさんだって無理強いはされない……はず)
かといって、相手はあの『悪魔の隊長』とまで呼ばれた男なのだ。寝たふりが通じる相手とは思えない。
でも、物は試し。やってやろうじゃないか――と思ったところで、部屋の扉がノックもなしに開く。
驚いてセレーナがそちらに視線を向ければ、そこにはラフな格好をしたアッシュがいた。
(ら、ラフな格好、レア……!)
そんな風に思って彼を凝視していれば、彼は口角を上げる。そのにやりとした笑みが、セレーナにはひどく魅力的に映った。
「今から、眠るところでしたか?」
何処となく色っぽい声で、そう問いかけられる。
……多分、彼は今からセレーナが寝たふりをしようとしていたことも、予想していたのだ。
ここは、誤魔化すしかない。
「い、いえ、そういうわけでは……。ただ、疲れてしまったので、横になろうかと……」
視線を逸らしながらそう言い訳をすると、彼は露骨に肩をすくめた。かと思えば、彼は大股でセレーナのほうに近づいてくる。
普通ならば就寝前の女性の部屋に男性が来ることなど、御法度である。しかし、これはいわば許されている行為。神殿が認めた行為なのだ。だからこそ、咎められることはない。
「ちょうどよかったですよ」
なにがちょうどよかったのだろうか。
心の中でそう思いセレーナが固まっていると、その手首をアッシュに掴まれる。
いつの間にか寝台のすぐそばまで来ていたアッシュは、そのきれいな目を細めた。
「……護衛騎士のもう一つの役割、聞きましたよね?」
彼が、そう問いかけてくる。
「護衛騎士の一人は、聖女と関係を持たねばなりません。……その役目は、俺です」
「……は、はい」
横になろうとしていたセレーナの身体を、アッシュが力強く引き起こす。
突然のことに驚いて抵抗できないでいれば、彼は寝台に腰掛け、セレーナに自身の隣に腰掛けるようにと言ってくる。
……これでは、どちらが上なのかわからない。
(いいえ、アッシュさんにとって、私はいつまでも部下なのよ)
そのため、彼はセレーナに命じているのだ。
セレーナだって、それを拒めないのは彼に気持ちがあるから。それを、理解している。
恐る恐る彼の隣に腰掛ければ、アッシュが一気に距離を縮めてくる。先ほどまで微妙にあった二人の距離は、一気にゼロになる。
「……アッシュ、さん」
彼の顔を見上げ、彼の名前を呼ぶ。そうすれば、彼は舌なめずりをした。
その表情は、色っぽいことこの上ない。自然と、見惚れてしまいそうなほどに。
「そんな顔をされたら、もう、我慢できそうにないですよ」
セレーナの顔をまっすぐに見つめて、彼がそう言う。セレーナは自身が今、どんな表情をしているかなんて知らない。
だから、彼の言葉の意味がわからない。ただ、とんでもないことを言われていることだけは、理解してしまった。
アッシュのたくましい腕が、セレーナの腰に回される。その際にびくんと身体を跳ねさせてしまえば、耳元に彼の唇が近づいてくる。自然と、どくんと心臓が跳ねる。
「そんな怖がらないでください」
「……そ、んなの」
「俺は、セレーナさまをひどくしたいわけじゃないですから」
……そんなの、嘘だ。
「う、そ」
「嘘じゃない。……あなたを慈しんで、可愛がってあげたいだけです」
低めの声で囁かれると、セレーナの中の官能が引き出されていくかのようだった。
さらに、彼の手がセレーナの腰を厭らしく撫でる。徐々に呼吸が浅くなれば、彼の腰を抱く手はセレーナの身体を伝い――その頬に触れる。そのまま、唇を優しく指で撫でられた。
「……アッシュ、さん?」
震える声で、彼の名前を呼ぶ。すると、彼はセレーナの唇をもう一度指でなぞる。その手つきの厭らしさに、もう一度身体が震えた。
「口づけする許可を、いただけますでしょうか?」
そんな風に囁かれて、縋るような声で言われたら。断るなんて選択肢は、消えてしまう。
頭の中でそう思い、セレーナはぐっと息を呑んで、首を縦に振った。そして、目を瞑れば――唇が重なる。
アリーヌは「じゃあ、失礼するわ」と言って素早く部屋を出て行こうとする。
そんな彼女を咄嗟に引き留めようとしたが、なにも言葉が出てこなかった。
その所為で、アリーヌはあっさりと部屋を出て行ってしまった。残されたのは、セレーナたった一人。
(う、うぅ、どうすれば、どうすればいいのよ……!)
そう思って、ただひたすら混乱する。
この場合、相手がアッシュだったことを喜べばいいのか。はたまた、悲しめばいいのか。
それさえも、はっきりとはしない。
好きな人にハジメテを捧げられると言えば、聞こえはいい。が、所詮は性欲処理なのだ。……気持ちは通じ合っていない。
(アッシュさんだって、私のことを女性とは見ていないわ。……そんな私とするえ、えっちが、楽しいはずがない……)
心の中でそう思うと、凹んでしまいそうだった。
けれど、それをぐっとこらえてセレーナは寝台に腰掛ける。到底、横になる気にはなれなかった。
(無理よ、やっぱり無理よ!)
どう考えても、アッシュと関係を持つなんて、今のセレーナには無理に決まっている。
よし、今日のところは帰ってもらおう。それから躱す方法は、後々考えればいい。
(とりあえず、寝ちゃったふりをすれば、アッシュさんだって無理強いはされない……はず)
かといって、相手はあの『悪魔の隊長』とまで呼ばれた男なのだ。寝たふりが通じる相手とは思えない。
でも、物は試し。やってやろうじゃないか――と思ったところで、部屋の扉がノックもなしに開く。
驚いてセレーナがそちらに視線を向ければ、そこにはラフな格好をしたアッシュがいた。
(ら、ラフな格好、レア……!)
そんな風に思って彼を凝視していれば、彼は口角を上げる。そのにやりとした笑みが、セレーナにはひどく魅力的に映った。
「今から、眠るところでしたか?」
何処となく色っぽい声で、そう問いかけられる。
……多分、彼は今からセレーナが寝たふりをしようとしていたことも、予想していたのだ。
ここは、誤魔化すしかない。
「い、いえ、そういうわけでは……。ただ、疲れてしまったので、横になろうかと……」
視線を逸らしながらそう言い訳をすると、彼は露骨に肩をすくめた。かと思えば、彼は大股でセレーナのほうに近づいてくる。
普通ならば就寝前の女性の部屋に男性が来ることなど、御法度である。しかし、これはいわば許されている行為。神殿が認めた行為なのだ。だからこそ、咎められることはない。
「ちょうどよかったですよ」
なにがちょうどよかったのだろうか。
心の中でそう思いセレーナが固まっていると、その手首をアッシュに掴まれる。
いつの間にか寝台のすぐそばまで来ていたアッシュは、そのきれいな目を細めた。
「……護衛騎士のもう一つの役割、聞きましたよね?」
彼が、そう問いかけてくる。
「護衛騎士の一人は、聖女と関係を持たねばなりません。……その役目は、俺です」
「……は、はい」
横になろうとしていたセレーナの身体を、アッシュが力強く引き起こす。
突然のことに驚いて抵抗できないでいれば、彼は寝台に腰掛け、セレーナに自身の隣に腰掛けるようにと言ってくる。
……これでは、どちらが上なのかわからない。
(いいえ、アッシュさんにとって、私はいつまでも部下なのよ)
そのため、彼はセレーナに命じているのだ。
セレーナだって、それを拒めないのは彼に気持ちがあるから。それを、理解している。
恐る恐る彼の隣に腰掛ければ、アッシュが一気に距離を縮めてくる。先ほどまで微妙にあった二人の距離は、一気にゼロになる。
「……アッシュ、さん」
彼の顔を見上げ、彼の名前を呼ぶ。そうすれば、彼は舌なめずりをした。
その表情は、色っぽいことこの上ない。自然と、見惚れてしまいそうなほどに。
「そんな顔をされたら、もう、我慢できそうにないですよ」
セレーナの顔をまっすぐに見つめて、彼がそう言う。セレーナは自身が今、どんな表情をしているかなんて知らない。
だから、彼の言葉の意味がわからない。ただ、とんでもないことを言われていることだけは、理解してしまった。
アッシュのたくましい腕が、セレーナの腰に回される。その際にびくんと身体を跳ねさせてしまえば、耳元に彼の唇が近づいてくる。自然と、どくんと心臓が跳ねる。
「そんな怖がらないでください」
「……そ、んなの」
「俺は、セレーナさまをひどくしたいわけじゃないですから」
……そんなの、嘘だ。
「う、そ」
「嘘じゃない。……あなたを慈しんで、可愛がってあげたいだけです」
低めの声で囁かれると、セレーナの中の官能が引き出されていくかのようだった。
さらに、彼の手がセレーナの腰を厭らしく撫でる。徐々に呼吸が浅くなれば、彼の腰を抱く手はセレーナの身体を伝い――その頬に触れる。そのまま、唇を優しく指で撫でられた。
「……アッシュ、さん?」
震える声で、彼の名前を呼ぶ。すると、彼はセレーナの唇をもう一度指でなぞる。その手つきの厭らしさに、もう一度身体が震えた。
「口づけする許可を、いただけますでしょうか?」
そんな風に囁かれて、縋るような声で言われたら。断るなんて選択肢は、消えてしまう。
頭の中でそう思い、セレーナはぐっと息を呑んで、首を縦に振った。そして、目を瞑れば――唇が重なる。
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