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第1章 女騎士から聖女にジョブチェンジ!?
意識して、意識されて 1
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(あぁ、ついにこの日がやってきてしまったわ……)
その日、セレーナは朝から憂鬱な気分だった。
というのも、この日はアッシュとのパトロールの日だったのだ。
何度も言うように、セレーナはアッシュのことが嫌い『では』ない。ただ、苦手なだけだ。けれど、苦手な人物と二人きりという場はいささか……いや、かなり気まずい場所となってしまう。
そう思いながらセレーナが待ち合わせ場所に向かえば、そこにはすでにアッシュがいた。
「あ、アッシュ隊長。……お待たせ、いたしました」
ペコリと頭を下げてそう言えば、彼は「いえ、大して待っていませんから」と言って首を横に振る。
美形の彼はどんな仕草でも、どんな表情でも絵になるほどに美しい。それを、セレーナは再認識する。
「では、行きましょうか」
セレーナのことを一瞥し、アッシュがそう言って歩き始める。なので、セレーナも彼の後に続いた。
パトロールとはいっても、本当に大したことはしないし、場所も限定されている。第三部隊の担当は、四分割した王都の東側である。
いつものように徒歩で王都に向かっていれば、不意に「セレーナ嬢」と隣で名前を呼ばれる。
隣から聞こえた声なので、間違いなくアッシュだ。そもそも、この声はアッシュのもので間違いない。
それがわかるからこそ、セレーナが震える声で「は、はい」と返事をすれば、彼はふっと口元を緩めた。
「セレーナ嬢は、本当によく頑張っていますね」
「……え?」
突然の褒め言葉にセレーナが目をぱちぱちと瞬かせていれば、彼は「なにか、不都合でも?」と怪訝そうな表情でそう問いかけてくる。なので、セレーナはぶんぶんと首を横に振る。
「い、いえ、特には!」
……声は、上ずっていた。
「……家のためとはいえ、頑張っている働いてくれているあなたには、なんだかんだいいつつも俺も感謝しているんですよ」
……なんだろうか。なんとなく、変な雰囲気だ。
だって、アッシュがそんな素直にセレーナを褒めてくれるわけがない。……まさか、なにか悪いものでも食べたのだろうか?
(って、うちの弟たちじゃないんだから、あり得ないわ……)
昔セレーナの弟たちが変な草を食べてお腹を壊したことを思い出しながら、セレーナは頬を引きつらせる。
そもそも、アッシュは立派な大人である。そんな変な草やらキノコやら食べないだろう。……間違いない。
「そんな風に頑張っているあなただから、俺はなにかをしてあげたいんです」
「……いえ、もうすでにいっぱいしていただいていますよ」
アッシュの切なそうな声に、セレーナの口は自然とそんな言葉を紡いでいた。
アッシュはセレーナにとてもよくしてくれている。ちょっとしごきを優しくしてほしいとか、そういうことを思うこともあるが、そこは妥協するしかない。誰だって、そういうところはあるのだから。
「そ、それに、エイミー……私の妹も、アッシュ隊長には本当に感謝しているんです」
「そうなの、ですか?」
「はい。この間なんて、マフィンのお礼を自分で言いたいと言っていて……。あ、今度お手紙持ってきますね」
せめて気まずくならない程度に会話を振らなくては。
そう思ってセレーナがアッシュの顔を覗き込みながらそう言うと、彼の目の奥が揺れていた。
「……アッシュ隊長?」
意味が分からずにセレーナが声をかければ、彼はハッとしたように「そ、そうなのですね」と言ってくる。
「別に、俺が好きでやっていることなので、お礼の手紙なんて必要ないのですが……。でも、そうですね。せっかくですし、楽しみにしておきます」
「そうしてくださると幸いです」
ここで無下に断るような人ではないとわかっていたが、やはり少々不安だった。
でも、やっぱりアッシュはアッシュだったか。心の中でそう思いながら、セレーナは言葉を続ける。
「アッシュ隊長みたいに、人に下心なく優しく出来る人に、私もなりたいです」
……まぁ、しごきは悪魔のようだけれど。異国の鬼とかいう存在みたいだけれど。
内心でそう付け足しながらセレーナが前を向いていれば、隣から「そんなわけ、ないですよ」と小さな声が聞こえてきた。
(そんなわけないって……どういう意味?)
まさか、彼は下心があって人に優しくしているのだろうか?
が、アッシュがほしいものは一体なんだろうか? 彼ほどの人間になれば、富も名声も、高い身分も。なにもかもを持ち合わせているだろうに……。
「あの、アッシュ隊長――」
そんな風に考え、セレーナがアッシュに声をかけようとしたとき。
不意にアッシュがセレーナの手首を掴み、自身のほうに引き寄せる。セレーナがそれに驚けば、もう片方の手でアッシュが素早く剣を抜き取り――振り下ろされた剣を受け止める。
(……え?)
いきなりのことに驚いて、セレーナは戸惑う。
だが、対するアッシュは「……こんなところで、殺人未遂ですか」と低い声で言った。その声には、確かな怒りがこもっていた。
恐る恐る、セレーナがそちらに視線を向ければ、そこには口元を布で隠した男性がいた。その男性の手には、剣が握られている。
きらりと光る刃先に、セレーナの背筋にツーッと冷たいものが走った。
(……私、狙われたの?)
その日、セレーナは朝から憂鬱な気分だった。
というのも、この日はアッシュとのパトロールの日だったのだ。
何度も言うように、セレーナはアッシュのことが嫌い『では』ない。ただ、苦手なだけだ。けれど、苦手な人物と二人きりという場はいささか……いや、かなり気まずい場所となってしまう。
そう思いながらセレーナが待ち合わせ場所に向かえば、そこにはすでにアッシュがいた。
「あ、アッシュ隊長。……お待たせ、いたしました」
ペコリと頭を下げてそう言えば、彼は「いえ、大して待っていませんから」と言って首を横に振る。
美形の彼はどんな仕草でも、どんな表情でも絵になるほどに美しい。それを、セレーナは再認識する。
「では、行きましょうか」
セレーナのことを一瞥し、アッシュがそう言って歩き始める。なので、セレーナも彼の後に続いた。
パトロールとはいっても、本当に大したことはしないし、場所も限定されている。第三部隊の担当は、四分割した王都の東側である。
いつものように徒歩で王都に向かっていれば、不意に「セレーナ嬢」と隣で名前を呼ばれる。
隣から聞こえた声なので、間違いなくアッシュだ。そもそも、この声はアッシュのもので間違いない。
それがわかるからこそ、セレーナが震える声で「は、はい」と返事をすれば、彼はふっと口元を緩めた。
「セレーナ嬢は、本当によく頑張っていますね」
「……え?」
突然の褒め言葉にセレーナが目をぱちぱちと瞬かせていれば、彼は「なにか、不都合でも?」と怪訝そうな表情でそう問いかけてくる。なので、セレーナはぶんぶんと首を横に振る。
「い、いえ、特には!」
……声は、上ずっていた。
「……家のためとはいえ、頑張っている働いてくれているあなたには、なんだかんだいいつつも俺も感謝しているんですよ」
……なんだろうか。なんとなく、変な雰囲気だ。
だって、アッシュがそんな素直にセレーナを褒めてくれるわけがない。……まさか、なにか悪いものでも食べたのだろうか?
(って、うちの弟たちじゃないんだから、あり得ないわ……)
昔セレーナの弟たちが変な草を食べてお腹を壊したことを思い出しながら、セレーナは頬を引きつらせる。
そもそも、アッシュは立派な大人である。そんな変な草やらキノコやら食べないだろう。……間違いない。
「そんな風に頑張っているあなただから、俺はなにかをしてあげたいんです」
「……いえ、もうすでにいっぱいしていただいていますよ」
アッシュの切なそうな声に、セレーナの口は自然とそんな言葉を紡いでいた。
アッシュはセレーナにとてもよくしてくれている。ちょっとしごきを優しくしてほしいとか、そういうことを思うこともあるが、そこは妥協するしかない。誰だって、そういうところはあるのだから。
「そ、それに、エイミー……私の妹も、アッシュ隊長には本当に感謝しているんです」
「そうなの、ですか?」
「はい。この間なんて、マフィンのお礼を自分で言いたいと言っていて……。あ、今度お手紙持ってきますね」
せめて気まずくならない程度に会話を振らなくては。
そう思ってセレーナがアッシュの顔を覗き込みながらそう言うと、彼の目の奥が揺れていた。
「……アッシュ隊長?」
意味が分からずにセレーナが声をかければ、彼はハッとしたように「そ、そうなのですね」と言ってくる。
「別に、俺が好きでやっていることなので、お礼の手紙なんて必要ないのですが……。でも、そうですね。せっかくですし、楽しみにしておきます」
「そうしてくださると幸いです」
ここで無下に断るような人ではないとわかっていたが、やはり少々不安だった。
でも、やっぱりアッシュはアッシュだったか。心の中でそう思いながら、セレーナは言葉を続ける。
「アッシュ隊長みたいに、人に下心なく優しく出来る人に、私もなりたいです」
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内心でそう付け足しながらセレーナが前を向いていれば、隣から「そんなわけ、ないですよ」と小さな声が聞こえてきた。
(そんなわけないって……どういう意味?)
まさか、彼は下心があって人に優しくしているのだろうか?
が、アッシュがほしいものは一体なんだろうか? 彼ほどの人間になれば、富も名声も、高い身分も。なにもかもを持ち合わせているだろうに……。
「あの、アッシュ隊長――」
そんな風に考え、セレーナがアッシュに声をかけようとしたとき。
不意にアッシュがセレーナの手首を掴み、自身のほうに引き寄せる。セレーナがそれに驚けば、もう片方の手でアッシュが素早く剣を抜き取り――振り下ろされた剣を受け止める。
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恐る恐る、セレーナがそちらに視線を向ければ、そこには口元を布で隠した男性がいた。その男性の手には、剣が握られている。
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