【R18】女騎士から聖女にジョブチェンジしたら、悪魔な上司が溺愛してくるのですが?

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

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第1章 女騎士から聖女にジョブチェンジ!?

意識して、意識されて 1

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(あぁ、ついにこの日がやってきてしまったわ……)

 その日、セレーナは朝から憂鬱な気分だった。

 というのも、この日はアッシュとのパトロールの日だったのだ。

 何度も言うように、セレーナはアッシュのことが嫌い『では』ない。ただ、苦手なだけだ。けれど、苦手な人物と二人きりという場はいささか……いや、かなり気まずい場所となってしまう。

 そう思いながらセレーナが待ち合わせ場所に向かえば、そこにはすでにアッシュがいた。

「あ、アッシュ隊長。……お待たせ、いたしました」

 ペコリと頭を下げてそう言えば、彼は「いえ、大して待っていませんから」と言って首を横に振る。

 美形の彼はどんな仕草でも、どんな表情でも絵になるほどに美しい。それを、セレーナは再認識する。

「では、行きましょうか」

 セレーナのことを一瞥し、アッシュがそう言って歩き始める。なので、セレーナも彼の後に続いた。

 パトロールとはいっても、本当に大したことはしないし、場所も限定されている。第三部隊の担当は、四分割した王都の東側である。

 いつものように徒歩で王都に向かっていれば、不意に「セレーナ嬢」と隣で名前を呼ばれる。

 隣から聞こえた声なので、間違いなくアッシュだ。そもそも、この声はアッシュのもので間違いない。

 それがわかるからこそ、セレーナが震える声で「は、はい」と返事をすれば、彼はふっと口元を緩めた。

「セレーナ嬢は、本当によく頑張っていますね」
「……え?」

 突然の褒め言葉にセレーナが目をぱちぱちと瞬かせていれば、彼は「なにか、不都合でも?」と怪訝そうな表情でそう問いかけてくる。なので、セレーナはぶんぶんと首を横に振る。

「い、いえ、特には!」

 ……声は、上ずっていた。

「……家のためとはいえ、頑張っている働いてくれているあなたには、なんだかんだいいつつも俺も感謝しているんですよ」

 ……なんだろうか。なんとなく、変な雰囲気だ。

 だって、アッシュがそんな素直にセレーナを褒めてくれるわけがない。……まさか、なにか悪いものでも食べたのだろうか?

(って、うちの弟たちじゃないんだから、あり得ないわ……)

 昔セレーナの弟たちが変な草を食べてお腹を壊したことを思い出しながら、セレーナは頬を引きつらせる。

 そもそも、アッシュは立派な大人である。そんな変な草やらキノコやら食べないだろう。……間違いない。

「そんな風に頑張っているあなただから、俺はなにかをしてあげたいんです」
「……いえ、もうすでにいっぱいしていただいていますよ」

 アッシュの切なそうな声に、セレーナの口は自然とそんな言葉を紡いでいた。

 アッシュはセレーナにとてもよくしてくれている。ちょっとしごきを優しくしてほしいとか、そういうことを思うこともあるが、そこは妥協するしかない。誰だって、そういうところはあるのだから。

「そ、それに、エイミー……私の妹も、アッシュ隊長には本当に感謝しているんです」
「そうなの、ですか?」
「はい。この間なんて、マフィンのお礼を自分で言いたいと言っていて……。あ、今度お手紙持ってきますね」

 せめて気まずくならない程度に会話を振らなくては。

 そう思ってセレーナがアッシュの顔を覗き込みながらそう言うと、彼の目の奥が揺れていた。

「……アッシュ隊長?」

 意味が分からずにセレーナが声をかければ、彼はハッとしたように「そ、そうなのですね」と言ってくる。

「別に、俺が好きでやっていることなので、お礼の手紙なんて必要ないのですが……。でも、そうですね。せっかくですし、楽しみにしておきます」
「そうしてくださると幸いです」

 ここで無下に断るような人ではないとわかっていたが、やはり少々不安だった。

 でも、やっぱりアッシュはアッシュだったか。心の中でそう思いながら、セレーナは言葉を続ける。

「アッシュ隊長みたいに、人に下心なく優しく出来る人に、私もなりたいです」

 ……まぁ、しごきは悪魔のようだけれど。異国の鬼とかいう存在みたいだけれど。

 内心でそう付け足しながらセレーナが前を向いていれば、隣から「そんなわけ、ないですよ」と小さな声が聞こえてきた。

(そんなわけないって……どういう意味?)

 まさか、彼は下心があって人に優しくしているのだろうか?

 が、アッシュがほしいものは一体なんだろうか? 彼ほどの人間になれば、富も名声も、高い身分も。なにもかもを持ち合わせているだろうに……。

「あの、アッシュ隊長――」

 そんな風に考え、セレーナがアッシュに声をかけようとしたとき。

 不意にアッシュがセレーナの手首を掴み、自身のほうに引き寄せる。セレーナがそれに驚けば、もう片方の手でアッシュが素早く剣を抜き取り――振り下ろされた剣を受け止める。

(……え?)

 いきなりのことに驚いて、セレーナは戸惑う。

 だが、対するアッシュは「……こんなところで、殺人未遂ですか」と低い声で言った。その声には、確かな怒りがこもっていた。

 恐る恐る、セレーナがそちらに視線を向ければ、そこには口元を布で隠した男性がいた。その男性の手には、剣が握られている。

 きらりと光る刃先に、セレーナの背筋にツーッと冷たいものが走った。

(……私、狙われたの?)
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