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第1章 女騎士から聖女にジョブチェンジ!?
セレーナ・ビーズリーの事情 1
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剣と剣がぶつかり合うような甲高い音が、そこら中から聞こえてくる。
ここはリネル王国、王立騎士団第三部隊の訓練場。主に前線で戦うことを任務とした部隊であり、所属している騎士たちは日々訓練に明け暮れる。
そんな訓練場の端の端。そこで、セレーナは休憩を取っていた。
セレーナ・ビーズリー。年齢は二十歳。このリネル王国の末端貴族ビーズリー男爵家の長女であり、王国でも数少ない女騎士の一人だ。
(ふぅ、今日も疲れた……)
そう思いながら、セレーナはゆったりと息を吐く。
正直なところ、騎士の仕事はセレーナには向いていないと思う。あまり身体を動かすことは得意ではないし、剣術も得意じゃない。なのにセレーナが騎士になれたのは、たった一つだけ優れた点があるから。
それこそ――持ち合わせた魔力の属性である。
この世界では魔力の属性は多くても二つが常なのだ。しかし、セレーナは生まれつき三つの魔力の属性を持っている。だからこそ、騎士団でそれなりに重宝されてきた。魔法もあまり得意ではないと自負しているセレーナだが、剣術よりはマシだと思える。
セレーナが休憩していると、不意に「セレーナ」と後ろから声をかけられた。なのでそちらに視線を向ければ、そこには同僚の騎士がいる。
そのため、「なぁに」と返事をすれば、彼は眉を下げた。
「来週のパトロールのことなんだけれどさ……」
「あぁ、あなたと私がペアになっていたわね」
「そうそう」
騎士団の部隊は二人一組で一日に二度、パトロールを行う。確かにセレーナは来週、目の前の彼とパトロールを行うことになっていたはずだ。
「悪いんだけれど、俺、行けなくなったんだわ」
「……え?」
「実は、母に病気が見つかってさ……。その日、病院に説明に行かなくちゃならなくて……」
彼は本当に申し訳なさそうな表情を浮かべて、そう言う。
なので、セレーナは戸惑うものの「仕方がないわね」と言いながら、肩をすくめた。
「そういうことなら、仕方がないわ。……ところで、代打は決まったの?」
「その点はばっちり。実は――」
同僚の騎士が言葉を続けようとしたときだった。不意に「バカなんですか?」という静かな怒りの声が耳に届いた。
「は、はいっ! 申し訳ございません……!」
「謝罪なんて求めてません。大体、油断したからそんな怪我を負ったんですよね? 穴埋め、どうしてくれるんですか?」
静かな怒りを孕んだ攻撃的な声が、セレーナたちの耳に届く。
その声を聞いて、セレーナは「あぁ、またか」と思った。
そちらに視線を向ければ、そこにはセレーナの予想通りの人物がファイルを持ちながら静かに怒っていた。
「……隊長、またかーなーり怒っているな」
同僚の騎士が、そう声を上げる。
「大体、暴漢一人取り押さえるのに大けがをして。お前、騎士に向いていないですよ」
「そ、そんなこと、言われても……!」
「これがもしも一般市民を庇って負った怪我だったら、俺も怒りません。ただ、油断した挙句隙を突かれたという点に怒っているんですよ」
はぁ。
露骨な溜息がセレーナの耳に届く。実際、ほかの騎士たちも何事かと言いたげに、そちらを凝視している。雑音が一切ないため、彼の声は周囲によく届いた。
「とりあえず、訓練場を百周してきてくれます?」
「……え、えぇっ!」
「嫌だったら、剣の素振り五千回でもいいですよ」
絶対零度の視線を浴びせられた騎士は、身を縮めながら「い、行ってきます!」と言って走り始める。
大体、彼は腕を怪我しているのだ。素振りなどできるわけがない。
「ほら、さっさと訓練に戻ってください。時間は有限ですから」
騎士が走り始めたのを見送り、先ほどまで怒っていた騎士は手をぱんぱんとたたいてそう叫んだ。
その声に反応するように、動きの止まっていた騎士たちが訓練に戻っていく。
「いやぁ、さすがは『悪魔の隊長』だなぁ……」
「ちょっと、そんなことを言っていると、こっちにまでしごきが飛ぶじゃない……!」
同僚の騎士がそう耳打ちしてくるので、セレーナは慌ててそう注意をする。あの人物は地獄耳なので、陰口なんてたたかないに限る。
「まぁ、そうだけれどさぁ……。って、あ、何処まで話したっけ?」
「あなたの代わりに誰があてがわれるかっていうところまでよ」
全く、どうして話していた内容を忘れるのだ。
そう思いジト目になりながらセレーナが彼を見据えれば、彼は「そうそう、そうだった」と言いながら肩をすくめた。
「で、代わりなんだけれど……」
そこまで言って、同僚が先ほどまで怒っていた騎士に視線を向ける。……まさか、まさかだが。
「アッシュ隊長に、頼んだから」
「……はぁ!?」
彼の言葉に、自然と大きな声を上げてしまった。
アッシュというのは、先ほどまで怒っていた騎士であり、この部隊の隊長。つまり、この部隊で一番偉い騎士ということだ。
「ちょ、ま、待って……!」
さすがに彼と二人でパトロールは、ちょっといやかも……。
そう思ってセレーナが彼を引き留めようとすると、後ろから「セレーナ嬢」と声をかけられた。
ここはリネル王国、王立騎士団第三部隊の訓練場。主に前線で戦うことを任務とした部隊であり、所属している騎士たちは日々訓練に明け暮れる。
そんな訓練場の端の端。そこで、セレーナは休憩を取っていた。
セレーナ・ビーズリー。年齢は二十歳。このリネル王国の末端貴族ビーズリー男爵家の長女であり、王国でも数少ない女騎士の一人だ。
(ふぅ、今日も疲れた……)
そう思いながら、セレーナはゆったりと息を吐く。
正直なところ、騎士の仕事はセレーナには向いていないと思う。あまり身体を動かすことは得意ではないし、剣術も得意じゃない。なのにセレーナが騎士になれたのは、たった一つだけ優れた点があるから。
それこそ――持ち合わせた魔力の属性である。
この世界では魔力の属性は多くても二つが常なのだ。しかし、セレーナは生まれつき三つの魔力の属性を持っている。だからこそ、騎士団でそれなりに重宝されてきた。魔法もあまり得意ではないと自負しているセレーナだが、剣術よりはマシだと思える。
セレーナが休憩していると、不意に「セレーナ」と後ろから声をかけられた。なのでそちらに視線を向ければ、そこには同僚の騎士がいる。
そのため、「なぁに」と返事をすれば、彼は眉を下げた。
「来週のパトロールのことなんだけれどさ……」
「あぁ、あなたと私がペアになっていたわね」
「そうそう」
騎士団の部隊は二人一組で一日に二度、パトロールを行う。確かにセレーナは来週、目の前の彼とパトロールを行うことになっていたはずだ。
「悪いんだけれど、俺、行けなくなったんだわ」
「……え?」
「実は、母に病気が見つかってさ……。その日、病院に説明に行かなくちゃならなくて……」
彼は本当に申し訳なさそうな表情を浮かべて、そう言う。
なので、セレーナは戸惑うものの「仕方がないわね」と言いながら、肩をすくめた。
「そういうことなら、仕方がないわ。……ところで、代打は決まったの?」
「その点はばっちり。実は――」
同僚の騎士が言葉を続けようとしたときだった。不意に「バカなんですか?」という静かな怒りの声が耳に届いた。
「は、はいっ! 申し訳ございません……!」
「謝罪なんて求めてません。大体、油断したからそんな怪我を負ったんですよね? 穴埋め、どうしてくれるんですか?」
静かな怒りを孕んだ攻撃的な声が、セレーナたちの耳に届く。
その声を聞いて、セレーナは「あぁ、またか」と思った。
そちらに視線を向ければ、そこにはセレーナの予想通りの人物がファイルを持ちながら静かに怒っていた。
「……隊長、またかーなーり怒っているな」
同僚の騎士が、そう声を上げる。
「大体、暴漢一人取り押さえるのに大けがをして。お前、騎士に向いていないですよ」
「そ、そんなこと、言われても……!」
「これがもしも一般市民を庇って負った怪我だったら、俺も怒りません。ただ、油断した挙句隙を突かれたという点に怒っているんですよ」
はぁ。
露骨な溜息がセレーナの耳に届く。実際、ほかの騎士たちも何事かと言いたげに、そちらを凝視している。雑音が一切ないため、彼の声は周囲によく届いた。
「とりあえず、訓練場を百周してきてくれます?」
「……え、えぇっ!」
「嫌だったら、剣の素振り五千回でもいいですよ」
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大体、彼は腕を怪我しているのだ。素振りなどできるわけがない。
「ほら、さっさと訓練に戻ってください。時間は有限ですから」
騎士が走り始めたのを見送り、先ほどまで怒っていた騎士は手をぱんぱんとたたいてそう叫んだ。
その声に反応するように、動きの止まっていた騎士たちが訓練に戻っていく。
「いやぁ、さすがは『悪魔の隊長』だなぁ……」
「ちょっと、そんなことを言っていると、こっちにまでしごきが飛ぶじゃない……!」
同僚の騎士がそう耳打ちしてくるので、セレーナは慌ててそう注意をする。あの人物は地獄耳なので、陰口なんてたたかないに限る。
「まぁ、そうだけれどさぁ……。って、あ、何処まで話したっけ?」
「あなたの代わりに誰があてがわれるかっていうところまでよ」
全く、どうして話していた内容を忘れるのだ。
そう思いジト目になりながらセレーナが彼を見据えれば、彼は「そうそう、そうだった」と言いながら肩をすくめた。
「で、代わりなんだけれど……」
そこまで言って、同僚が先ほどまで怒っていた騎士に視線を向ける。……まさか、まさかだが。
「アッシュ隊長に、頼んだから」
「……はぁ!?」
彼の言葉に、自然と大きな声を上げてしまった。
アッシュというのは、先ほどまで怒っていた騎士であり、この部隊の隊長。つまり、この部隊で一番偉い騎士ということだ。
「ちょ、ま、待って……!」
さすがに彼と二人でパトロールは、ちょっといやかも……。
そう思ってセレーナが彼を引き留めようとすると、後ろから「セレーナ嬢」と声をかけられた。
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