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第1部 第5章 違和感と謎の人

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 その後も僕たちは情報収集に励んだ。

 内容は最初に大衆食堂で聞いたものと似たようなものばかり。魔物の被害なんて滅多なことじゃ発生しないということ。

「街の人たちが嘘をついても、いいことなんてない。やはり、防衛大臣側だな」

 キリアンがどこか遠くを見つめていた。彼は正しい。被害があったと嘘をつくならばまだしも、被害がないなんて嘘をつく必要性はない。むしろ、嘘をついたら国からの支援を受け取ることが出来なくなる。

「だったとして、なにが狙いなんだろう? 僕たちが旅に出たところで、クレメンスさんにはメリットなんてないよ」

 嘘をついてまで、彼はなにがしたいのだろうか。

「名誉も地位も、お金も。こんなことをしたところで手に入るものじゃないよ」

 そもそも、彼には元から名誉も地位も、お金もあるはず。今更手に入れるようなものじゃない。

 お貴族さまの思考回路なんて一般庶民の僕には想像もつかないけど。

「可能性として聞いておけ。あいつが欲しいのは、もしかしたらそういうものじゃないのかもしれない」

 キリアンが足を止めた。

「魔族との間に火種を生むことが目的か。もしくは――」

 僕のことを見たキリアンが、口を開こうとした。けど、すぐに閉ざす。

「いや、なんでもない」

 キリアンが首を横に振った。

 そんな中途半端なところで言葉を止められてしまったら、気になるよ。

「この可能性については今はあまり考えたくない。確証が持てたら、教える」

 あまりにも僕が教えてほしそうな目をしていたのか。キリアンが僕の肩をぽんっとたたいて約束してくれた。

 ここは素直に従うしかないだろう。

 だって、キリアンは僕の心配性を理解してくれているということだろうから。

「うん、よろしくね」

 一応念を押してみると、キリアンはうなずいた。

(もしも魔族との間に火種を生むことが原因だったとしたら)

 少しだけ考えてみる。

 キリアンが一番に浮かべた可能性はゼロじゃない。争いが始まったら、諸々のことがうやむやになる。悪事を隠しやすくなるのは容易に想像できた。

 ただ、悪事を隠すためにそこまでするかな?

(僕には偉い人の考えなんてわからないよ。キリアンだったら、わかるかな?)

 一回キリアンに聞いてみようかな――と彼がいたほうを振り向くと、彼はいなかった。

 ――もしかして、はぐれちゃった?

(え、えぇっ!? こんなところではぐれたら困るって――!)

 この街は広いし、人口も多い。観光客だって多い。

 はぐれたら合流するのは絶対に至難の業だ。ど、どうしよう。

「最悪、一足先に宿屋に戻ったほうがいいのかも」

 行き違いを避けようとするなら、それが一番。問題はキリアンが戻ってくるまで行動が出来ないこと。

 そして、一人になるととんでもなく――心細くなった。

 本来の僕は小心者だ。人見知りも激しいし、気が弱い。すぐに合流できるってわかってたらいいけど、いつまで一人でいたらいいかわからないと――不安でたまらなくなる。

(とにかく、人ごみから離れよう。そこで少し考えて――)

 確かこの通りを抜けた先に昨日休んだ広場があったはず。

 記憶を頼りに僕は昨日の広場を目指すことにした。

 少し歩いて見えたのは、昨日僕が休んだ広場だった。ほっとして、僕はベンチに向かう。

 一度休憩して、体力を回復させよう。それから、どうするか考えて――。

「――あっ」

 声を上げてしまった。だって、ベンチには昨日会った不思議な男性がいたから。

「また、会ったか」

 彼が頬を緩めて、僕に声をかけてきた。僕はうなずくことしか出来ない。

 だって、今の彼は――昨日よりも不思議な魅力をかもしだしていたから。
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