【R18】気弱魔法使いはこのたび激重勇者に捕獲されました~最強の勇者さんは僕を愛してやみません~

すめらぎかなめ(夏琳トウ)

文字の大きさ
上 下
53 / 67
第1部 第5章 違和感と謎の人

しおりを挟む
 キリアンの自己犠牲は異常なものだった。

 彼は多分、とても重くて苦しいものを背負っているんだろう。

「――キリアン」
「なぁ、ジェリー。お前はこの旅が終わったらなにがしたい?」

 話題が一気に変わった。

 それはキリアンなりの気遣いだったんだと思う。僕があまり気に病まないようにって。

「キリアンは?」
「俺は適当に放浪の旅でもしようかなって思ってる」

 僕が逆に問いかけるとキリアンはすぐに教えてくれた。

 旅が終わって、またすぐに旅に出るんだ――と言いそうになるけど、僕は口を閉ざす。

「放浪して、世界を見て回る。それが俺にとって一番の理想だ」

 キリアンはお貴族さまだという。だから、王都に住んでいたらなに不自由なく暮らせるはず。

 なのに、キリアンは旅に出たいという。僕には考えられないことだった。

「ジェリーは?」
「……僕は、辺境に戻ると思う。師匠と一緒にまた暮らしたいな」

 これは願望とかやりたいことではないのだと、わかっていた。

 ただ僕にとって思い描くことが出来る未来がこういうものしかないというだけ。

 それ以外の未来が、なに一つとして僕には浮かばない。

「僕、ずっと人が怖かったんだ」

 家族のことがあったから、僕は他人を悪意の塊だと思ってきた。師匠だけが僕のことをわかってくれる――なんて、思い込んで。

「ずっとこの世界が怖くて、憎かった。どうして僕はここにいるんだろうって思って、苦しかった」
「……あぁ」
「けど、案外生きてるのも悪くないなって思うんだ。キリアンたちと出逢えたからだろうね」

 キリアンやエカードさん、シデリス殿下。たくさんの人と出逢って、僕は成長できたはずだ。

「ねぇ、キリアン」
「なんだ」
「キリアンが旅に行くとき、僕も誘ってよ」

 今までの僕だったら、絶対に口にしなかった言葉だ。

 他人と旅なんて絶対に無理だって思ってたんだから。

「僕もキリアンと一緒に世界を見て回りたい。僕の知らない世界を理解したい」

 見て回ったところで、僕に理解できるのかはわからない。

 けど、やってみなくちゃ始まらない。

「――あぁ、約束する」

 キリアンが真剣な声で了承してくれた。僕は彼のほうを向いて、笑った。

「約束ね。約束破ったら、僕怒るから」
「怒るだけか?」
「嫌いになる……かも」

 ちょっと小さな声で言うと、キリアンの顔色がサーっと蒼くなったのがわかった。

 冗談だったのに。

「冗談だよ。僕はキリアンを嫌いになんてならないよ。……僕の一番の友人だもん」

 そう、キリアンは僕にとって友人だ。恋人でもパートナーでもない。

「……あぁ」

 キリアンは僕の言葉を訂正しなかった。僕の肩の上に顎を置いて、甘えたように頬をこすりつけてくる。

 こういうの猫みたいだ。

「いつかじゃなくて、絶対に旅をしような」
「……うん」

 僕たちの約束が果たされる日は来るのか。

 今の僕にはそれはわからない。だけど、きっと。

 僕たちは今後もずっと仲良くしているんだろうって、それだけはわかるんだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

ぼくは男なのにイケメンの獣人から愛されてヤバい!!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

処理中です...