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第1部 第5章 違和感と謎の人
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一夜を明かした洞窟から二時間ほど歩いて、僕たちは最寄りの街にたどり着いた。
「ここはブレストリッチという街だな。確か、工芸とかが盛んだったはずだ」
キリアンは街を見渡してつぶやいた。
確かに街には工芸品を売っているお店が軒を連ねていて、アトリエや工房もあるみたいだ。
街の人たちも穏やかな表情を浮かべて生活をしているよう。
「――おかしいな」
しばらく歩いて、キリアンがぼやいた。
ちらりと彼の顔を見上げると、彼は「いや」と自信なさげに口を開く。
「ここら辺は魔物の巣窟が近いはずなんだが」
キリアンが眉間にしわを寄せた。
彼の言葉の意味に僕も気が付く。クレメンスさんは魔物が活性化していると言っていた。
――その影響は、魔物の巣窟が近いというブレストリッチにも表れていないとおかしい。
「シデリスの勘は、あながち間違いでもないってか」
ぽつりとこぼしたキリアンが、一歩を踏み出す。僕も慌てて彼の背中を追う。
「とりあえずだが、シデリスかエカードに連絡を入れる。連絡手段は宿屋にでも行けば借りることが出来るだろ」
「そうだね」
僕はキリアンの隣に並んで、大きくうなずいた。
すると、キリアンが僕に視線を向ける。そして、ふっと口元を緩めていた。
「ジェリーはこんなときでも可愛いな」
彼はとんでもない言葉を口にした。
「え、えぇっ――」
「歩き方がちょこちょことしていて、本当に可愛い。むしろ、普段よりも可愛い」
それは、多分ですが。
「こ、腰が痛いんだよ……。だから、普段通り歩けないっていうか」
そう。ずっと腰が鈍く痛んでいる。
ブレストリッチにたどり着くまでも、かなり大変だった。
(けど、あんまり休憩させてほしいなんて言えないし。時間をロスするのは避けたかったし)
僕が一人で考えていると、キリアンが「そうか」と言う。
「俺のせいだからな。抱きかかえてもいいんだが」
「それは勘弁してよ。さすがに人前では恥ずかしいって」
今歩いている大通りは活気にあふれていて、観光客や呼び込みの店員さんたちが歩いている。
そんな中でお姫さま抱っこをされて歩いている男がいたら……注目を集めるのは間違いない。
「そういうことなら、人前じゃなかったらいいってことか?」
「――は?」
「昨夜はあんなところだったからな。今日は寝台の上でシよう」
「――は、はぁ!?」
当然のように言うキリアンに対し、僕は大きな声を上げてしまった。
一瞬周りの視線が僕に集まって、怖くなってキリアンの背中に隠れてしまう。
「ど、どうしてそうなるの――!」
「だって、ジェリーが可愛いから」
背中に引っ付く僕を邪険にすることなく、キリアンは進んでいく。
あっけらかんと言い切って、僕のほうを振り返った。
「こんな可愛いやつ、抱きたいに決まってるだろ。というか、不思議だな」
「なにが?」
「俺は性欲は強くないほうだったんだが……」
間違いなく、それはこんな昼間から大通りでするお話じゃないです。
僕が指摘するよりも前に、キリアンが僕を自身の隣に移動させて、腰を抱き寄せる。
「ジェリーだったら、性欲が尽きないな」
「ひぇっ――!」
キリアンの指が僕の腰を撫でて、耳元に息を吹きかけてくる。
僕の顔にカーっと熱が溜まっていくような感覚だった。な、なにこの色男!
「な、今日も――いいだろ?」
無駄にいい声で、無駄にいい顔で言わないで!
(そんな風に言われたら僕が断れないこと、キリアンは知ってるんだろうね)
僕は心の中だけでため息をつく。僕はどうやら、この勇者さんには敵わないらしい。
「ここはブレストリッチという街だな。確か、工芸とかが盛んだったはずだ」
キリアンは街を見渡してつぶやいた。
確かに街には工芸品を売っているお店が軒を連ねていて、アトリエや工房もあるみたいだ。
街の人たちも穏やかな表情を浮かべて生活をしているよう。
「――おかしいな」
しばらく歩いて、キリアンがぼやいた。
ちらりと彼の顔を見上げると、彼は「いや」と自信なさげに口を開く。
「ここら辺は魔物の巣窟が近いはずなんだが」
キリアンが眉間にしわを寄せた。
彼の言葉の意味に僕も気が付く。クレメンスさんは魔物が活性化していると言っていた。
――その影響は、魔物の巣窟が近いというブレストリッチにも表れていないとおかしい。
「シデリスの勘は、あながち間違いでもないってか」
ぽつりとこぼしたキリアンが、一歩を踏み出す。僕も慌てて彼の背中を追う。
「とりあえずだが、シデリスかエカードに連絡を入れる。連絡手段は宿屋にでも行けば借りることが出来るだろ」
「そうだね」
僕はキリアンの隣に並んで、大きくうなずいた。
すると、キリアンが僕に視線を向ける。そして、ふっと口元を緩めていた。
「ジェリーはこんなときでも可愛いな」
彼はとんでもない言葉を口にした。
「え、えぇっ――」
「歩き方がちょこちょことしていて、本当に可愛い。むしろ、普段よりも可愛い」
それは、多分ですが。
「こ、腰が痛いんだよ……。だから、普段通り歩けないっていうか」
そう。ずっと腰が鈍く痛んでいる。
ブレストリッチにたどり着くまでも、かなり大変だった。
(けど、あんまり休憩させてほしいなんて言えないし。時間をロスするのは避けたかったし)
僕が一人で考えていると、キリアンが「そうか」と言う。
「俺のせいだからな。抱きかかえてもいいんだが」
「それは勘弁してよ。さすがに人前では恥ずかしいって」
今歩いている大通りは活気にあふれていて、観光客や呼び込みの店員さんたちが歩いている。
そんな中でお姫さま抱っこをされて歩いている男がいたら……注目を集めるのは間違いない。
「そういうことなら、人前じゃなかったらいいってことか?」
「――は?」
「昨夜はあんなところだったからな。今日は寝台の上でシよう」
「――は、はぁ!?」
当然のように言うキリアンに対し、僕は大きな声を上げてしまった。
一瞬周りの視線が僕に集まって、怖くなってキリアンの背中に隠れてしまう。
「ど、どうしてそうなるの――!」
「だって、ジェリーが可愛いから」
背中に引っ付く僕を邪険にすることなく、キリアンは進んでいく。
あっけらかんと言い切って、僕のほうを振り返った。
「こんな可愛いやつ、抱きたいに決まってるだろ。というか、不思議だな」
「なにが?」
「俺は性欲は強くないほうだったんだが……」
間違いなく、それはこんな昼間から大通りでするお話じゃないです。
僕が指摘するよりも前に、キリアンが僕を自身の隣に移動させて、腰を抱き寄せる。
「ジェリーだったら、性欲が尽きないな」
「ひぇっ――!」
キリアンの指が僕の腰を撫でて、耳元に息を吹きかけてくる。
僕の顔にカーっと熱が溜まっていくような感覚だった。な、なにこの色男!
「な、今日も――いいだろ?」
無駄にいい声で、無駄にいい顔で言わないで!
(そんな風に言われたら僕が断れないこと、キリアンは知ってるんだろうね)
僕は心の中だけでため息をつく。僕はどうやら、この勇者さんには敵わないらしい。
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